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ドジャース、ヤンキース、ブルージェイズ、ツインズなどなどの[ス]と[ズ]・・・英語複数接尾辞-sの発音との違い(2)


はじめに

ドジャース、ヤンキース、ブルージェイズ、ツインズなどなどの[ス]と[ズ]・・・英語複数接尾辞-sの発音との違い(1)」の続き(2)です。まず(1)をお読みください。

チーム名のーsは名刺の複数を表す屈折接尾辞、その用法

チームは複数のメンバーにより構成されており、これらチーム名の英語表記における語尾の-sは、名詞の複数形を指すinflectional suffix(屈折接尾辞)です。ご存知のように、定冠詞 the(*4)+ 苗字にこのinflectional suffix(屈折接尾辞)-sをつけると家族全体を指します。例えば、 The JohnsonsはJohnson家を指し、“The Johnsons are doing well.”という文では、Jonson家全員が元気でやっているという意味です。これらのチーム名の語尾-sから、baseballがチーム・スポーツであることを物語っています。非公式にはtheが付きませんが、“The Yankees’ Greatest Enemy is Invisible”(*5)の記事に見るように、正式にはtheが付き、家族観が漂います。(*6)よく見ると次のような違いが見られます。Cubsのようにcommon noun(普通名詞)のcub + -s、Yankeesのようにproper noun(固有名詞)のYankee+-s、Athleticsのようにadjective(形容詞)のathletic + -sの3種類があります。最後のケースですが、the + 形容詞(*7)でその形容詞が意味する資質を持つ人を指す名詞句になり、形容詞athletic はphysically strongという意味なのでthe athleticは強い人を指し、それに-sを付けて固有名詞the Athleticsとしたと考えます。同じことがBravesにも当てはまり、the +adjective(形容詞)のbraveに-sを付けたものと考えられます。但し、braveは普通名詞として北米大陸原住民の戦士を指し、それに-sを付けたものとも取れます。このように、名称の種類は異なりますが、チームは複数のメンバーで成るという意味で、名詞の複数形を指示するinflectional suffix(屈折接尾辞)の-sが付いていることには変わりはありません。

この-sを取らない名詞、morpheme(形態素)とは

ご存知のように、man→menやwoman→women、child→childrenのようなもの、sheep→sheepやcarp→carpのように単複同形のもの、そして、phenomenon→phenomena、datum→data、cactus→cacti、octopus→octopi、thesis→thesesのようなギリシャ・ラテン語からの借入語の一部を除き、common noun(普通名詞)の複数形は、単数形に屈折接辞-sを付けます。少々専門的になりますが、この接辞は、morphology(形態論)で言うmorphemes(形態素)の一種です。簡単におさらいします。Morphemes(形態素)とは、それ自体が意味を持つ最小単位形態を指し、先ず、free morphemes(自由形態素)とbound morphemes(束縛形態素)に分類されます。前者はa, boy, take, pretty, suddenly, when, toなど、それ自体で独立語となりうるmorphemes(形態素)で、大部分のmorphemes(形態素)はfree morphemes(自由形態素)です。それに対し、bound morphemes(束縛形態素)は、今回の名詞複数形を示す-s(pens)とか、過去形を示す-ed(stopped)とか、形容詞を名詞形にする機能を持つ-ness(kindness)のように、単独では独立語になれず、free morphemes(自由形態素ここではkind)に付かなければなりません。(*8)この場合のfree morphemes(自由形態素)は、専門的にはroot(語根)と称しますが、ここではstem(語幹)という名称を使います。(*9)英語のbound morphemes(束縛形態素)は、幾つかの例外を除き、affixes(接辞)です。Affixes(接辞)は、stem(語幹)の前か後に付されるかで、prefixes(接頭辞)かsuffixes(接尾辞)に分類されます。例えば、unnecessaryのun-は接頭辞で、kindnessの-ness は接尾辞です。そして、更に、derivational affixes(派生接辞)かinflectional affixes(屈折接辞)に分類されます。前者は、noun(名詞)をadjective(形容詞)やverb(動詞)に、adjective(形容詞)をnoun(名詞)、verb(動詞)、adverb(副詞)に、verb(動詞)をnoun(名詞)やadjective(形容詞)になど、part of speech(品詞)を変更する機能を持つbound morphemes(形態素)で、数は沢山あり、prefixes(接頭辞)とsuffixes(接尾辞)の2種類あります。後者のinflectional affixes(屈折接辞)は、名詞複数形の-sとか、動詞の3人称単数現在形の-s、進行形の-ing、過去形の-ed、形容詞の比較級-er、最上級の-estなど、名詞、動詞、形容詞の屈折(活用)に関するもので、文法上の機能が高く、数は限られ、英語ではみなsuffixes(接尾辞)です。(*10)

この-sは複数形を示すbound morpheme(束縛形態素)のinflectional suffix(屈折接尾辞)

今回のMLBチーム名の語尾の-sは、名詞の複数形を示すbound morpheme(束縛形態素)のinflectional suffix(屈折接尾辞)です。Macdonald先生は全てのmorphemes(形態素)を{ }で括って表記し、この接辞を{_Z}と表記しました。(*11)中学校の英語で習ったように、名詞複数形の語尾-s、即ち、{_Z}は、その前の音、言い換えれば、phonemes(音素)によって機械的に/s/、/z/、/ ɨ z/のいずれかで発音されます。(*12)代表的なのは/z/ということで、その大文字Zをとって{_Z}としました。(*13)「その先の英文法:Loud Talking(大声)…」で述べたように、あるphoneme(音素)には幾つかのallophones(異音)があるように、あるmorpheme(形態素)には幾つかのallomorphs(異形態素)があります。あるmorpheme(形態素)のallomorphs(異形態素)は上述した機械的に異なる発音の仕方を反映し、例えば、名詞の複数(規則)形inflectional suffix(屈折接辞)-sには、/s/、/z/、/ ɨ z/の3つのallomorphs(異形態素)があります。これらに上述の不規則複数形用allomorphs(異形態素)が加わります。(*14)Allomorphs(異形態素)自体は意味の変化をもたらさないので、/ z /の代わりに/ s /と発音しても複数を指す点では意味上なんら影響はありません。要するに、これらのチーム名の最後が/s/と発音されようが、/z/と発音されようが意味上変わりません。日本語では、英語の名詞複数形のinflectional suffix(屈折接尾辞)-sのallophones(異形態素)の/s/と/z/は、カタカナで「ス」と「ズ」と表記し発音しますが、(*15)その際、英語では英語の音韻ルールで自動的に/s//z/// ɨ z/ に分けられますが、日本語では呼応する音韻ルールが無いために、ある意味無秩序に混在することとなったと思われます。英語でもallomorphic(異形態素的)な要素を日本語でこだわる必要がないからでしょう。(*16)

「ドジャース、ヤンキース、ブルージェイズ、ツインズなどなどの[ス]と[ズ]・・・英語複数接尾辞-sの発音との違い」(3)に続く




(*4)定冠詞theは特定の人や物事を指しますが、あるグループを総称して「全部」という意味があります。The Japanese are…とJapanese are…では意味合いが違います
(*5)Streaming News and Insightより。
(*6)MLBのチームは、企業ではなく個人が所有するオーナー中心のクラブ・チームで、家族という意識が強いようです。The Yankeesなどにはそんな意味もあるのでしょうか。日本のプロ野球チームのように、企業、団体が所有するという慣例は無いと聞きました。
(*7)The +形容詞は〜の性格を持った人になります(the brave =勇気がある人)。また、The pen is mightier than the sword.のように、普通名詞にtheをつけると、「ペンを使うこと=文」、「刀を使うこと=武力」に抽象化されます。ことわざ、モットー、スローガンによく使われます。
(*8)稀にnative(nate- + -ive)のように両morphemes(形態素がbound morphemes(拘束形態素)のケースもあります。
(*9)Macdonald先生は、root(語根)とbase(基体)の2つの用語を使いました。例えば、“teachers”を分析すると、“teach”+derivational suffix(派生接辞)-erで“teacher”になり、それに+inflectional suffix(屈折接辞)-esで“teachers”になります。この過程での“teach”をroot(語根)、“teacher”をbase(基体)と称します。本稿では、語からderivational/inflectional suffix(派生/屈折接辞)を除いたもの(この例では”teacher”)を指すstem(語幹)を採用します。
(*10)いかなる言語でもderivational affixesは造語されたり借入されたりして数が多いです。近世英語では“to a great degree”を意味するprefix “be-“が造語され、“beloved”などがその名残りです。反して、inflectional affixesは各言語の構造上の基幹であり骨格であり、簡素化されても新たに付け加えられることはないでしょう。第85回を参照してください。
(*11)動詞の3単現の-sも{_Z}ですが、名詞複数形を{-Z1}、こちらを{-Z2}と表記して区別します。
(*12)第150回で述べたように、phonemes(音素)は、無数のphones(素音)から主たる特徴を取り出して抽象化したもので、phonemes(音素)は/ /でphones(素音)は[ ]で表記されます。例えば、put、speak、topという3語にある/p/というstops(閉鎖音)は、語の最初か、中間か、最後かで空気のaspiration(気音)が異なる[p]が生じます。第150回を参照してください。
(*13)言語学です、一般的で代表的なものをunmarked、特殊なものをmarkedとします。
(*14)詳細は割愛しますが、/z/と発音されるallomorphの表記はa {-/z/}です。小文字aは{}の左上に表記されます。
(*15)日本語では、例えば、busesの/ ɨ z/に対応する「イズ」は見当たりません。
(*16)これが/bus/と/buz/のようにmorphomic(形態素的)な意味を変えてしまう違いなら、日本語でも「バス」(bus)と「バズ」(as in ‘buzz’ lightyear toys)をはっきり分けて発音、表記するでしょう。
ろうと予想できます。言説の正誤の問題ではありません。

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