ドジャース、ヤンキース、ブルージェイズ、ツインズなどなどの[ス]と[ズ]・・・英語複数接尾辞-sの発音との違い(3)
はじめに
「ドジャース、ヤンキース、ブルージェイズ、ツインズなどなどの[ス]と[ズ]・・・英語複数接尾辞-sの発音との違い」(1)(2)に続く(3)で
す。まず(1)(2)をお読みください。
語幹が有声音で終わるか無声音で終わるか
改めてinflectional suffix(屈折接尾辞)-sに関するphonology(音韻論)のルールを更にチェックしてみましょう。このinflectional suffix(屈折接尾辞)-sを付けるstem(語幹)となるfree morpheme(自由形態素)の最後の音が、voiced sound(有声音)か、voiceless sound(無声音)かで決まります。第150回で述べたように、voiced sounds(有声音)ではvocal cords(声帯)が振動し、voiceless sounds(無声音)では振動しません。喉仏に手を当て、/b/を3回発音してみましょう。今度は/p/を3回発音してみましょう。前の音では声帯が響くのを感じるのでvoiced(有声)です。後の音は響かないのでvoiceless(無声)です。英語のvowels(母音)とsemi-vowels(半母音)はみなvoiced sounds(有声)ですが、consonants(子音)はvoiced sounds(有声音)とvoiceless sounds(無声音)に分かれます。
今回はこれらのphonemes(音素)の発音がキーです。TOEFL iBT®テストの準備をしている読者は、今回も次のサイトで練習してみましょう。
The Sounds of English and International Phonetic Alphabet(IPA)
Phonetic Symbols
OED Pronunciation を勧めます。両方とも発音が聞けます。今回はstem(語幹)の最後の音がvoiced(有声)かvoiceless(無声)かが重要なので、喉仏に手を当てながら、以下の単語を発音しながらvoiced/voicelessのチェックをしてください。(*17)
[Voiceless] /p/→chip /f/→if /θ/→tenth /t/→kit /s/→ bus /š/→pressure /č/ porch /k/→risk /h/→hay
[Voiced]/i:/→pea /u:/→shoe /e/→pate /ə/→ but /o/→pinto /æ/→cat / a/→spa /ɔ/→knot /w/→wow /m/→him /y/→yet /b/→knob /v/→olive / ð /→those /d/→pad /z/→buzz /ž/→pleasure /d/→lid /n/→pan /l/→pill /ǰ/→judge /g/→dog /r/→right /ŋ/→sing
各語の最後の音がvoiced(有声音)の場合、-sの発音は/z/で、voiceless(無声音)の場合は/s/です。例えば、pansの-sはvoiced(有声音)/n/の直後にくるので/z/と発音され、chipsの-sは無声音/p/の直後にくるから/s/と発音されます。また、peasの-sは母音/i:/の直後にくるので/z/と発音されます。母音はみなvoiced(有声音)だからです。ここで例外があります。Stem(語幹)の語尾の音がA Comprehensive Grammar of the English Language(以降Quirk, et al 1985)で言うsibilants、すなわち、/s//z// /š/ /ž/ /č//ǰ/のいずれかで終わる場合は、(*18)例えば、bus→buses、buzz→buzzes、bush→bushes、church→churches、judge→judgesのよう-esと表記され、全て/ ɨ z/と発音されます。これら複数形-sの発音に関しては、中学英語で勉強したものばかりです。(*19)しかしながら、頭で分かっていても実際の会話の場では即座に出て来ないものです。筆者も渡米したばかりの時はそうでした。丸暗記して詰め込んでも、それはdeclarative memory(宣言記憶)に蓄えられただけで、体験を通して覚えるprocedural memory(手続き記憶)に蓄積されていないからです。使い慣れなければ出て来ません。(*20)いくつか例をあげてみました。上記のルールに沿って喉仏に手を当てながら、次の名詞の複数形を発音してください。
lips, pits, cups, glasses, dogs, cats, pins, bones, seas, shoes, cafes, pianos, kilos, radios, potatoes, motto(e)s, coaches, automobiles, horses, buildings, napkins, disks, scarfs, eye-lashes, ribs, moms, spas, dads, hills, laps, doors, toes, tongs, windows, boys etc.
続けて、2020 Postseasonを戦ったMLBのチーム名の括弧内の英語表記を、最後のスペル-s注意しながら発音してみましょう。
[American League] Rays, Blue Jays, Indians, Yankees, Twins, Astros, Athletics White Socks
[National League] Dodgers, Brewers, Padres,(*21)Cardinals, Cubs, Marlins, Braves, Reds
AthleticisとWhite Socksのsは無声音の/s/で、その他はみな有声音の/z/になります。ついでに、他のMLBチームや他のスポーツのチーム名もチェックしてみてはいかがでしょう。あくまでも原則です。英語でもそうですから、日本語表記の「ス」と「ズ」にその原則は当てはまる訳がないし、後述するとおり、そうする必要はありません。スポーツチーム名だけではなく、そうした例は他にも幾つかあります。筆者の頭に浮かぶのは、レディース(ladies)(*22)とか2020年COVID−19の研究で脚光を浴びたジョンズ・ホプキンス(Johns Hopkins)です。
Hopkinsという固有名詞は上述したthe Hopkinsで家族を示-sの用法に由来すると解釈するとやはり複数を示すinflectional suffix(屈折接尾辞)の-sと解釈します。(*23)すると、英語読みでは原則/s/ではなく/z/になります。勿論、ladiesの-sも/z/です。上述した通り、みな、原則であって、発音は生き物です。Yankeesですが、母音の後で原則/z/ですが、例えば、kissのスペルssの部分はvowel(母音)/i/の直後であるのにもかかわらずvoiceless(無声)の/s/で、/kiz/ではなく、/kis/と発音されます。恐らく、最初の/k/がvoiceless(無声)でそれにつられてconditioningという現象が起き/i/も無声化され/s/になったのでしょう。同じように、Yankeesでもvoiceless sound(無声音)/k/の直後の長母音/i:/も無声化され、その直後の-sもvoiceless sound (無声音)/s/となり/yænki:s/になることもあり得ます。Dinneen(1967)が述べるように、極端なことを言えば、どの言語でもwhispering(ささやき)では、すべてのvoiced sounds(有声音)がvoiceless(無声)化され、英語でも上記のような環境では母音が容易に無声化されることはありそうです。日本語でも、丁寧な話し方では、喉元を絞り声帯を張り詰めさせるため、voiced sounds(有声音)が無声化されます。銀行の受付になったことを想像し、顧客に「いらっしゃいませ!」(Irasshaimase!)と言ってみてください。恐らく斜体下線部の、本来ならvoiced(有声音)の全てが無声化している筈です。
「ドジャース、ヤンキース、ブルージェイズ、ツインズなどなどの[ス]と[ズ]・・・英語複数接尾辞-sの発音との違い」(4)に続く
(*17)「その先の英文法:Loud Talking(大声)…」でも述べたとおり、古くは、英国のReceived Pronunciation(RP)を命名したDaniel Jonesそして、アメリカ英語ではJ. S. Kenyon-T.A. KnottのA Pronunciation of American English.そして、G.L. Trager and H. L. Smith. An Outline of English Structure. Battenberg Pressなどがあり、それぞれが異なる方言を基に異なる発音記号を使っています。紙媒体の辞書は語の発音方法を発音記号で示しますが、インターネット上の辞書は発音記号を通さなくても直接音声で聞けます。筆者らが若かりし頃は紙媒体中心でしたから、辞書やテキストにより違う発音記号に戸惑ったものです。大学受験では仕方なく丸暗記しました。後にアメリカでphonetics(音声学)とphonology(音韻論)の授業でphonetic symbols(音声発音記号)とphonological symbols(音韻発音記号)の違いがあること、そして、分析者による違いがあることが分かりました。発音記号は複雑で、アメリカ人の同級生も四苦八苦していました。Merrium-Websterなどのサイトでは語句の発音が無料で聞けるので練習する習慣をつけましょう。
(*18)以前紹介のR. Quirk他著A Comprehensive Grammar of the English Language (以降Quirk, et al. 1985)の5.80 “The Pronunciation of the Regular Plural”参照。本書は大学の図書館にあります。アメリカ留学を目指す読者には学生用簡略版A Student’s Grammar of the English LanguageやA Communicative Grammar of Englishなどが良いでしょう。
(*19)他にも、leaf→leaves, knife→knives, wife-wivesなどの例外がありますが、これらは、(wo)man→(wo)menや、sheep→sheep carp→carpと同様に、不規則形として扱われます。
(*20)スポーツと同じです。古希チームで野球を楽しむ筆者は、YouTubeで打撃の打ち方を勉強します。とても良い解説ですが、練習や試合を通して実践しなければ身に付きません。打撃の知識はdeclarative memory(宣言的記憶)で、実践を通して蓄えるのがprocedural memory(手続き記憶)です。言語もスポーツと同じです。英文法で言うと、前者はreflexive grammar(分析的文法知識)で、後者はfunctional grammar(機能的文法知識)です。母語話者が母語習得で身につけるのは後者で、前者は言語分析者が追究するものです。何年勉強しても英語が話せないと言うのは前者の知識に力点を置いた英語教育法に原因があります。TOEFL iBTテストの準備をしている人は、発音、語彙、文法、意味の基礎知識を学びながら、聞き、話し、読み、書きの4技能をバランスよく実践し、習ったことを手続き記憶に残るようにしましょう。
(*21)San Diego Padresは、スペイン語のpadre(神父Father)の複数形で、スペイン語では-sは発音されないので、発音されないかもしれません。San Diegoは由緒ある古道のMission Street(布教道)にあり、その伝統を重んじて-sを発音しないかもしれません。Merrium-Websterも複数形の発音を明記していません。
(*22)英語では“ladies”のaにstress accentが掛かるので/ ˈlā-dēz/ (Merrium-Webster参照)と発音されます。カタカナ で表記すると「レィディーズ」ですが、日本語では「レディース」の方が言いやすく、しっくりきます。
(*23)メリー・ポピンズ(Mary Poppins)はPoppin →the Poppins→ Poppinsという経緯を取ったのでしょうか。この場合は「ス」ではなく「ズ」で、Johns Hopkinsは同じ/n/の後でありながら「ス」、(そう意味ではJohnsも/n/の後で「ズ」)と表記されているのは興味深いです。
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