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慶應義塾大学SFC初代総合政策学部長加藤寛先生に大学改革について聞く (2)

(1)に続く(2)です。2011年8月に行われたインタビューの模様をそのままお届けしております。



大学改革ということ

鈴木:加藤先生が慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(以下SFC)の総 合政策学部長としてご活躍の頃、すでに土光改革などいろいろ な改革をされた後ですから、これからはいよいよ大学の改革だ ということをお考えになったと思います。それは今でもお変わ りになっていないのではないでしょうか。

加藤:そうですね。今できることは大学の改革しかありません。

鈴木:大学が変わらなければ、優秀な人材が出てこないですね。

加藤:全くその通りです。大学改革は経験して分かるんですけれど も、いくつかの段階があります。例えて言うなら、まず「新幹 バックナンバーはこちら いいね!これが一番やりやすい。これは、どんな土地 をつかって、どんなふうに学校を作っていくかということを、 自由にさら地に作るのと同じように、自分で新しい建築ができ ます。そういう意味で非常にプラスの改革です。問題は次の 「在来線大学の改革」です。これは古い歴史をもった先生がお られて、この先生が自分のやり方が一番いいと思い込んで、そ れを主張される。つまり自由な教育ができないですね。別の言 い方をしますと、在来線大学の改革というのは、古い駅弁を名 物かのように思って一生懸命売るんです。もちろん、中には美 味しい駅弁もあって、それはそれなりに特色がありますが、全 体として古い弁当が多い。いろいろなおかずを寄せ集めて入れ れば、これで教育ができていると思っている。こういうばかば かしい教育をしていたら、全然前に進めません。


加藤寛先生と筆者(嘉悦大学学長室にて2011年9月)

鈴木:駅弁改革とは、今まであったものを全く変えず、寄せ集めて形 だけ変わったように見せる改革ということですね。

加藤:そう。この在来線大学の改革が一番難しい。在来線改革は、や ればやるほど、そんな新しいことをやったらかえってだめだよ なんて言われて、続けていくのが大変です。だから寄せ集めの 駅弁改革になってしまうことが多いですね。そして、三番目が 「トロッコ大学の改革」です。ま だ運転手もいないトロッコです。まわりの景色は美しいけれ ど、それだけでは勉強にならない。だからトロッコ大学はまず 駅弁大学になって、それから新幹線大学になるべきだと思いま す。だけどそれもなかなかできず、浮き上がるのは本当に難し いと思っています。

鈴木:加藤先生の言う新幹線大学はどこでしょうか。

加藤:やっぱり慶應義塾大学や立命館大学でしょうか。寄付金が多か ったり、県から30億円をポンともらったり、といったこと もあると思うのですが。あれは成功している例の新幹線大学で すね。大体の大学は、苦しんでいる在来線大学ですよ。

鈴木:加藤先生はSFCの後に行かれた千葉商科大学でも改革を実施さ れ、改革された部分は今もしっかり残っていると思います。

加藤:いやあ、新幹線ではなく在来線大学の改革は、なかなか難しか ったですね。語学まで手がまわらない。

鈴木:加藤先生が以前おっしゃって、とても印象に残っているのは、 「学生は未来からの留学生だ」という言葉です。未来からの留 学生に対して、私たち教師は責任を持てるのか、ということだ と思います。今我々が持っている知識をいくら教えても、それ は未来には通用しない。ですから、その言葉を今でも立命館大 学でモットーにさせていただいています。

加藤:それは立命館もよくなるね(笑)。今の先生たちは自分の過去 を教えようとするんですが、過去を教えてもらってもしょうがないですね。だから本当に未来を教えるというのは、SFCが原 点だったんですね。

鈴木:でも新幹線大学の改革の機会など、そうそうないですよね。こ れから日本の教育が停滞してしまうと非常に困ります。

加藤:困りますよ。経済学でノーベル賞の学者がなぜ日本から出ない かというと、それは外国に行かないからです。自分の考えてい ることを外国人にわからせる英語の能力がなければ、絶対にノ ーベル賞はもらえない。そういう意味で、日本の経済学者は外 国に行かないので、なかなか日本人の考え方をわかってもらえ ない。その点、理工系は、みんなアメリカに行きますから、そ こで新しい勉強もして、英語で日本をどんどん知らしめていく ことができるんですね。

日本人にとって必要な英語教育とは

鈴木:すると、日本人にとって英語教育はどの程度必要で、どうした らいいと思われますか。

加藤:英語は必要でしてね、TOEFLテストをやればいいんですよ。ト ロッコ大学も、TOEFLテストだけをやればいいということを自 覚する。これが重要です。英語教育でこれをやったほうがい い、あれもやったほうがいい、文法もこうだなんて言っていた ら、すべてできなくなってしまう。そんなことよりはむしろ、 TOEFLテストを一生懸命やっていれば、それで充分英語の力が できてくるという時代になってきた。

鈴木:加藤先生は以前にもセンター試験のことをおっしゃっている時 に、SATやTOEFLテストを引き合いに出しておられましたね。年に1 回の一発試験で、右も左もわからない高校生の人生を決めてし まうのは、非情だと。

加藤:そう、あのやり方は間違いです。体が冷えちゃいけないと親が うどんを作って持ってくるような冬の寒いときに試験するなん て大間違い。好きな時、体調のいい時にテストを受けるという SATやTOEFLテストのような教育技術が、英語の国で発達したという のは偉いもんだなぁと思います。自分のことをあれだけ改革し ていけば、いい改革ができるでしょう。それと、教えることを 自分で考えず、ただ適当にテキストを決めてやればいいとしか 考えていない教師の授業は、英語教育ではないですね。自分の ことをしゃべれるようにならなければ英語じゃない。

鈴木:ええ、それは英語教育ではないですし、経済的に見て も、人の話すことを聞くだけでは人が作ったものを消費するだけの「消費者」になってし まいます。自ら発信する「生産者」にならなければ。

加藤:そうそう。

鈴木:生産者は自分が何を考えているのか話さなければいけないし、 どういうものを作りたいか、作ったか、売りたいか、発信しな ければならないわけですよね。そう考えると、やっぱり、英語 は学力というより、話したいという気持ちを起こさせるように すればいいと思うのです。

加藤:どんなに貧弱なボキャブラリーであっても、それを使うことが できるということが重要です。例えばハーバード大学のマイケ ル・サンデル教授が、日本でも「ハーバード白熱教室」という 講義をやりましたね。あれを見ていると、「君、どう思う?」 とよく聞いていますね。するとあそこに来るような人はかなり 勉強しているから、みんな日本語だったら答えられるけれど、 英語だと答えられない。英語で答えられないとなると、もう半 分も話をしていないということになってしまう。だからこうい うのはおかしいのであって、どんな幼稚な英語でもいいから、 Bad とGoodを区別して話ができるような人間を作らなければ なりません。人間は実際、本当に関心を持てば、専門用語も覚 えていくものです。

鈴木の後記


加藤先生からはこれまでに多くのことを教えていただきましたが、実学 がそのひとつです。言いかえれば「役に立つ」ということでしょうか。 私に与えられた課題は、役に立つ英語教育です。道半ばですが、私なり にその目標に向けてなんとか精進したいと考えております。久しぶりに 加藤先生とお会いできて、この思いを強くいたしました。


2014年8月付記

実学は加藤先生が学んだ慶應義塾創始者福沢諭吉先生のモットーです。筆者が考えるに幕末に渡米した福沢先生はアメリカのpragmatismの影響を受けたのではないでしょうか。実と学の一体、実だけでは軽佻浮薄、学だけでは机上の空論に終わります。実という機関車に学という運転手が居て世界のレールを走るそんなメタファでしょうか。今や世界に誇る新幹線を造る鉄道王国日本を動かす若手運転手をいかに育てるか、大学をはじめ教育界にも突きつけられた課題です。

(3)に続きます。





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