琉球料理と沖縄料理の違い
沖縄には、琉球料理と沖縄料理がある。2つは全く違う。
沖縄独自の材料や調理法を使って長く長く受け継がれてきたのが琉球料理。
タコライスやポーク玉子など、戦後にアメリカ合衆国の影響を受けて作られるようになったのが沖縄料理。
ゴーヤーチャンプルーを例にあげる。
琉球料理では、豚の三枚肉や豚こま肉を使う。
沖縄料理では、ポークランチョンミートを使う。
同じように思えるかもしれないけど、その背景、文化、栄養価は違っている。今の沖縄では、琉球料理と沖縄料理が共存している。
食文化のチャンプルー
沖縄には、そこにしかない独特の味がいっぱいある。
青い海と空、澄んだ空気、深い緑。
そして温かい気候と、温かい人の心が育ててきた食文化。
かつては「琉球」という島国で、日本だけでなく中国や台湾など、アジアの影響を広く受けながら、独自の食文化を育ててきた。
1945年にアメリカ合衆国の統治下に置かれたことで、ポークランチョンミートやチョコレートなどアメリカのエッセンスが注ぎ込まれた。
1971年に「沖縄」という県になる頃には、琉球とアジアとアメリカの食文化がミックスされた「チャンプルーな食文化」が出来上がった。
チャンプルーな食文化の中で育った私は、琉球食の全てを知らない。
おばあちゃんが食べていた琉球食。沖縄の長寿の秘訣。
だからもっと知りたいと思った。
「似ているけれどさらによい」
探して出会ったのが、この本だった。
琉球料理研究家の山本彩香先生は、那覇の花街、辻で料理人をしていた養母から琉球料理を習った。50歳で那覇市久米に「琉球料理乃山本彩香」を開店された。歌舞伎俳優の故坂東三津五郎さんや演出家の宮本亜門さんら著名人も通う、予約が取れない人気店だった。
77歳で店を畳んでからも、知人に琉球料理を振る舞ったり、アメリカに渡り琉球料理を教えるなど力強い女性だ。
歳を重ねても、背筋を真っ直ぐに伸ばし、新しいものを吸収しようとする姿はなんてかっこいいんだろうと思う。
山本彩香先生の著書「にちにいまいし」は、沖縄の言葉で「似ているけれどさらによい」という意味だ。
琉球料理の歴史は、沖縄の食材と風土を生かしながら、中国料理や日本料理のいいところを取り入れて発展してきた。その歴史をたった一言で現してしまうのも、この方の凄いところだと思う。
本の前書きに、こんな言葉が並ぶ。
昨日よりもちょっとおいしく。
今日よりもちょっといい明日を迎えるために。
私を支えてくれている、琉球料理の知恵と沖縄の言葉をおくります。
私は、彩香先生のこの言葉がとても好き。
進化したちんすこう
琉球王朝の後期、宮廷の包丁人たちは料理の勉強のために中国に渡った。そこで出会った焼き菓子の技術を現地で学んで、帰ってきて琉球の風土に合わせてアレンジしてできたのがちんすこうだ。
その包丁人の一人の新垣淑康氏が、初の菓子職人として新垣菓子店をおこした。当時のちんすこうは、手のひらほど大きくて、食べるとボロボロ崩れるのが難点だった。
淑康の六男である淑扶は、どうにか改善できないかと考え、米軍基地のクッキー型を再利用して一口サイズのちんすこうにした。これが食べやすいと好評を呼び、今でもちんすこうはこの形で愛されている。
伝統を守るのは大事。だけど、食べる人のことを考える思いやりは、次の世代にも支持されて、ちゃんと伝わって、それがまた新しく伝統になるのだと思った。
プロの料理人が教えてくれるぬちぐすい
伝統的な料理って聞くと、なんとなく格式が高く、ルールを守っていなければならないものだと思ってしまう。私も実は琉球料理というものに、そんな思いを抱いていた。
だけど本当は「今」に視点を置いて、美味しくしようと常にアップデートをしていくものなのかなと思った。山本先生や、琉球王朝の料理人がそうであるように。最近は少しずつそう思うようになっている。