「めいだい・りべらるあーつ」vol.2
名古屋大学にて最先端研究を行う研究者についてお伝えする新企画「めいだい・りべらるあーつ」。約2年ぶりの復活です。
今回は名古屋大学大学院医学系研究科にて神経回路といった脳の仕組みについて研究を行う中村和弘教授にお話を伺いました。
中村先生に一問一答!「本質を究める」
-先生はどのような研究をされているのですか?
一言で言うと、生命を維持する脳の仕組みの研究です。脳には、体の中
の状態を一定に保つように調節する神経回路があります。その仕組みには
まだよくわかっていないことがたくさんあるのですが、私達は体温を一定
に調節する脳の神経回路を明らかにしました。私達のさらなる研究から、
この神経回路は体温を保つだけではなく、肥満を防いだり、ストレスから
身を守るような働きもあることが明らかになり、生命にとってとても重要
な仕組みであることがわかってきました。
-研究の道に進んだきっかけは?
私が学生の頃は、脳の研究が盛り上がりつつある時代でした。研究室に
配属され、お皿の中で培養された神経細胞を使った研究をしていたのです
が、そこで見えた現象が本当に体の中で起こっているのかを知りたいと思
うようになりました。そこで、ネズミの脳の中の構造や神経の働きを調べ
ていくうちに、(風邪をひいたときなどに)発熱を起こす司令を送る神経
細胞を発見しました。それをきっかけに、平常時の体温を調節する神経回
路などを解き明かすことができ、研究の面白さの沼から抜け出せなくなり
ました。
-研究が面白い!と思った瞬間はどんな時ですか?
発熱を起こす司令を送る神経回路を発見した研究の中で、麻酔をかけた
ラットの脳の特定の場所に非常に微量の薬物を注入する実験を行いまし
た。実験機器のボタンを数回押して、自分が見つけた脳の部位にわずかな
薬物を注入するだけで、いとも簡単に目の前のラットの発熱が止まったの
です。発熱は誰でも経験しますが、その身近な現象を起こす重要な神経細
胞を世界で初めて明らかにすることができたその瞬間はとても興奮しまし
た。
-今だから言える、ここだけの話を聞かせてください。
学生時代から一貫して生命を維持する脳の神経回路の研究を続けてきま
したが、実は、博士号を取得した直後の1年間だけ別の研究をしていまし
た。それは、当時流行っていた分野の研究で、流行に乗って研究分野を変
えようと思ったのです。でも、流行っているということは、すでにたくさ
んの研究者が先に研究を進めており、そこに後から参入しても世界を先導
するような研究をすることは難しいのだということを学びました。それ以
降は、流行に流されるのではなく、自分が重要だと思う、誰もやっていな
いユニークな研究にこそ本当の面白さがあるのだと思うようになりまし
た。
-休日はどのように過ごされていますか?「健康」のために気を付けていらっしゃることがあれば教えて下さい。
平日にデスクワークが続くと運動不足になりがちですので、休日は森の
中などを歩いたりしています。また、できるだけ睡眠を十分に取るように
心がけています。
-先生は学生時代を関西でお過ごしですが、名古屋/名古屋大学の印象について、ビフォー&アフターでお聞かせください。
関西にいたときは、名古屋には学会で国際会議場に来る程度で、名古屋
大学には来たこともありませんでした。名古屋大学に移ってから9年目に
なりますが、基礎研究を大切にする素晴らしい環境と文化があり、精力的
に研究に取り組むことができています。近年では応用研究を重視する時代
の流れがありますが、科学技術の発展にはレベルの高い基礎研究が必須で
す。また、基礎研究は、人々が持つ根源的な知的欲求や好奇心を満たす大
切な役割があり、心の豊かさや文化レベルの向上に欠かせません。基礎研
究を大切にする名古屋大学の文化は大変貴重です。
-My Best Wordを教えて下さい-
本質を究める
-この言葉を選ばれた理由は?
研究とは、対象となる問題や疑問の本質を見極め、そしてその本質を解
き明かす営みです。私達の研究で言えば、生命を担う仕組みの中で最も重
要な核心部分がその本質であり、それを解明することが最大の目標です。
研究を通じて生命の本質に迫ることで、いつか、「生命とは何か?」とい
う究極の問いに答えを出す日を夢見て、日々、研究に励んでいます。