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ドラマ【スロウトレイン】感想文|心が軽く、温かくなる物語

すごく個人的な、とりとめのない感想を書き連ねます。

日々を営み、ただ生きて

子を残さない人にそっと毛布を掛けてくれるような優しいドラマだった。

自分の子へ、そのまた子へ、先祖から未来へといのちを繋ぎ、その想いを伝えていくことを是として感動を描く物語は多い。
人はいのちを脈々と繋いでいくもの。
大切に繋げられたその世界は尊く素晴らしい。

それは、わかる。

けど、いのちを繋がない人はそこからこぼれ落ちて、自分はその尊く素晴らしい世界を形作るメンバーではないのだと時折自覚して辛くなる。

けどそれは自分の選択だから仕方ない。
私は命を繋がない異端なのだから仕方ない。
仕事で多少役に立てれば、この世界にご厄介になっても大丈夫かな。
時折辛くなると、そんな風に思ってやり過ごしてきた。

けどこのドラマは、
それでもいいじゃない、日々を営み、ただ生きて、生きて、その営みがどこへ繋がって行くのかはわからないけど、それでいいじゃない
と言って、優しく毛布をかけてくれるような物語だった。
見終わったあと、心がとても前向きになった。
子を残さない自分を、初めて自分できちんと肯定できた気がする。

親を亡くしたこどもたち

私は19歳の時に母を亡くした。
その時弟は16歳。
父の立場からだと亡くしたのは妻なので私たち姉弟の感覚とは違う。
だから私にとって弟は、あのとき母を亡くした感情や出来事を共有できる唯一の人。

このドラマの3人も、3人がそれぞれにそう思ってるんだろうなというのが見ていて分かった。

うちの母、突発性の病気である日突然亡くなったので、その時からやっぱり「人はあっさりしぬ」という感覚が体験を伴って自分の中にあるから、「計画したって明日しんじゃうかもしれないじゃん。私たち、経験したじゃん」という都子の気持ちがすごくよく分かる。
都子が結婚をためらう理由にそれがあるのもすごく納得できる。
そうなのだ。それぐらい、その慢性的な危機感は脳に刻み込まれてしまうのだ。
そういう心の描写が、大げさすぎず、でも小さすぎず、すごくリアルに描かれていた。

うーたんも、「近所の人に、親御さん亡くなって可哀想可哀想ねえって悪気もなく言われまくって、俺別に可哀想じゃねえし、って心の中で毒吐きながら可哀想な子やってたなあ」がすごくリアル。
私も弟も言われたなあ、可哀想ねえ、可哀想ねえって。言われるたびに無性に怒りが込み上げた。
野木さんの書く「可哀想」は私の思う「可哀想」とそんなに遠くないように感じて、少し安堵した。

すべては「日常」

野木さんが描く「日常」が本当に大好きだ。
たとえば若い時に親を亡くした人、
たとえば同性の恋人がいる人、
たとえばずっと長く独身でいる人、
たとえば海外の恋人と海外に住む人。
他の人からみたらイレギュラーな出来事や生き方に見えても、その人にとってそれは一生懸命生きてる日常であってそれ以上でもそれ以下でもない。
ハコ姉の言う通り、日々を営み、ただ生きて、生きているだけ。
そういういろんな人のいろんな日常を、優しく丁寧に描いてくれている野木さんの作品が本当に大好きだ。

私は長女なのでやっぱりどうしてもハコ姉に感情移入してしまう。
トトロを見た時に、上の子はサツキに、下の子はメイに感情移入する、という説と同じだろうか。
立場的にも、私は結婚こそしているものの子は居ないので、ハコ姉の「私は子を残しません」がすごく心に響いた。
私は、子を残さない事をどうしても、「個人の自由ではあるが『良い事』ではない」とうっすら感じていた。
私は未来へいのちを繋がない。
でも、
「日々を営み、ただ生きて、生きて」
「小さなわたしたちの営みは、どこへ繋がっていくのでしょう」
というハコ姉の言葉が、私の心をぐんと軽くしてくれた。
そしてこんな温かい言葉を紡げる野木さん、すごい。

新しい年が始まったばかりのこのタイミングで、こんなに温かい素敵なドラマを見させて頂いて本当に嬉しい。
ありがとうございました。

〈関連〉野木さん作品の感想文いろいろ

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