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短編小説 |校庭のたんぽぽ4/6

第四章:絆の力

朝日が病室の窓から差し込み、美咲は目を覚ました。リハビリ生活が始まって1ヶ月が経過していた。少しずつではあるが、確実に進歩を感じていた美咲。しかし、まだ教壇に立てる日は遠く感じられ、時折不安に襲われることもあった。

そんな朝、田中看護師が明るい笑顔で部屋に入ってきた。「伊藤さん、おはようございます。今日は特別な日ですよ。」

美咲は首を傾げた。「特別な日...ですか?」

田中看護師は優しく微笑んだ。「ええ、今日はご家族の面会日です。そして、午後には特別なサプライズもあるんですよ。」

美咲の目が輝いた。夫、大学生の娘、高校生の息子に会えるという喜びと、サプライズへの期待が胸を躍らせた。

午前中のリハビリでは、木村理学療法士の指導の下、立位訓練と歩行訓練に励んだ。

「伊藤さん、素晴らしい進歩です。」木村さんは美咲を励ました。「1ヶ月前と比べると、随分と安定してきましたね。」

美咲は汗を拭きながら答えた。「ありがとうございます。でも...まだまだです。家族のために、早く元気にならないと。」

木村さんは優しく肩に手を置いた。「焦らないでください。一歩一歩、着実に前進しているんです。」

リハビリを終えて部屋に戻ると、夫の健太郎と娘の美月、息子の翔太が待っていた。

「お母さん!」美月が涙ながらに駆け寄ってきた。

美咲は思わず涙がこぼれた。「みんな...来てくれたのね。」

家族との再会に、美咲の心は温かさで満たされた。健太郎は美咲の手を優しく握り、回復ぶりに安堵の表情を浮かべた。

「よく頑張ってるな。」健太郎が優しく言った。「家のことは心配するな。俺がしっかりやってるから。」

美月は母の髪を優しく撫でた。「お母さん、大学の勉強も頑張ってるよ。早く元気になって、また一緒に買い物に行こうね。」

翔太は少し照れくさそうに言った。「僕も...勉強頑張ってるよ。お母さんが戻ってくるの、待ってるから。」

家族との時間は、美咲に大きな勇気と力を与えた。彼らの支えがあれば、どんな困難も乗り越えられると感じた。

昼食後、高橋ソーシャルワーカーが訪れた。「伊藤さん、午後のサプライズの準備ができましたよ。」

美咲は期待と少しの不安を感じながら、車椅子で病院の中庭に向かった。そこには...

「美咲先生!」

驚きの声に、美咲は目を見開いた。中庭には、担任していたクラスの生徒たちが集まっていたのだ。

「みんな...」美咲の目から涙があふれ出た。

生徒たちは次々と美咲の元に駆け寄り、手作りのカードや花束を差し出した。

「先生、早く元気になってください!」
「数学の授業、先生が教えてくれるのを待ってます!」
「私たち、先生のこと応援してます!」

美咲は一人一人のカードを受け取りながら、涙を拭った。「みんな...ありがとう。先生、必ず戻ります。だから...待っていてね。」

生徒たちとの再会は、美咲に大きな希望と決意をもたらした。彼女は改めて、教師という仕事への情熱を感じた。

夕方、佐藤医師が回診に訪れた。「伊藤さん、今日は特別な一日でしたね。」

美咲は嬉しそうに頷いた。「はい。家族や生徒たちに会えて...本当に幸せでした。」

佐藤医師は優しく微笑んだ。「そういった支えが、回復には非常に重要なんです。特に、お子さんたちの存在は大きな励みになりますよ。」

その夜、美咲は窓際に座り、今日一日を振り返っていた。夫や子供たち、そして生徒たちの顔が次々と思い浮かび、彼女の心は温かさで満たされた。

翌日の朝、美咲は新たな決意を胸に、リハビリに向かった。

「おはようございます、伊藤さん。」木村理学療法士が明るく迎えた。「今日はどんなことに挑戦しますか?」

美咲は強い意志を込めて答えた。「歩行訓練を...もっと長い距離で挑戦したいです。家族のために、生徒たちのために。」

木村さんは嬉しそうに頷いた。「その意気込み、素晴らしいですね。では、始めましょう。」

美咲は平行棒につかまりながら、一歩一歩慎重に歩を進めた。昨日までよりも、確実に歩幅が広がっていた。

「素晴らしい!」木村さんが声をかけた。「昨日の面会が、大きな励みになったようですね。」

美咲は汗を拭きながら答えた。「はい。家族や生徒たちが待っていてくれる...だから、頑張らないと。」

午後の作業療法では、鈴木作業療法士の指導の下、書字訓練に取り組んだ。

「伊藤さん、ゆっくりでいいですよ。」鈴木さんは優しく声をかけた。「一文字一文字、丁寧に。お子さんたちへの手紙を書くつもりで。」

美咲は必死に集中し、震える手で鉛筆を握った。最初は歪んでいた文字が、少しずつ形を整えていく。

「よくできました。」鈴木さんは美咲の努力を称えた。「毎日の積み重ねが、必ず結果につながります。」

夕方、高橋ソーシャルワーカーが訪れた。「伊藤さん、良いニュースがあります。学校から連絡がありました。」

美咲は期待に胸を膨らませた。「はい...何でしょうか?」

高橋さんは嬉しそうに告げた。「復職に向けての具体的な計画を立てたいそうです。あなたの回復状況に合わせて、段階的に職場復帰を進めていく方針だそうです。ご家族の協力も得ながら、無理のないペースで進めていきましょう。」

美咲の目に涙が浮かんだ。「本当ですか...?ありがとうございます。家族にも相談しながら、頑張ります。」

高橋さんは続けた。「まだ時間はかかりますが、目標ができたことは大きいですね。これからのリハビリにも、さらに力が入るでしょう。」

その夜、美咲は日記を書いた。左手での書字はまだぎこちなかったが、一文字一文字に思いを込めた。

「今日、家族と生徒たちに会えた。健太郎、美月、翔太、みんなが私の回復を待っている。生徒たちのためにも、必ず教壇に戻る。そのために、明日からもっと頑張ろう。」

翌日の朝、美咲は早くからリハビリ室に向かった。

「おや、今日は早いですね。」木村さんが驚いた様子で迎えた。

美咲は決意を込めて答えた。「はい。一分一秒を大切にしたいんです。家族のため、生徒たちのため。」

その日のリハビリでは、美咲は自己最高記録を更新した。歩行距離、立位保持時間、どれも大きく伸びた。

「素晴らしい進歩です!」木村さんは喜びの声を上げた。「この調子で頑張りましょう。」

午後、佐藤医師との定期診察があった。

「伊藤さん、ここ数日の進歩は目覚ましいものがありますね。」佐藤医師は満足そうに告げた。「このペースで続ければ、予想よりも早く社会復帰できるかもしれません。お子さんたちの成長を見守りながら、教壇に立てる日も近いでしょう。」

美咲は喜びと希望に胸が膨らんだ。「ありがとうございます。家族のためにも、もっと頑張ります。」

その日の夕方、美咲は病院の屋上で夕日を眺めていた。遠くに見える街並みを見つめながら、彼女は教壇に立つ自分の姿、そして家族との団らんを思い描いた。

「必ず...必ず戻ってみせる。」美咲は小さくつぶやいた。

その瞬間、彼女の携帯電話が鳴った。画面を見ると、息子の翔太からのメッセージだった。

「お母さん、今日の放課後、友達と話してたんだ。みんなが『お母さんは強い先生だ』って言ってくれたよ。僕も、お母さんのこと誇りに思ってる。だから、頑張ってね!」

美咲は思わず涙ぐんだ。息子の成長と思いやりの心が、彼女の心に温かく響いた。

その夜、美咲は久しぶりに安らかな眠りについた。明日への希望と、回復への決意が、彼女の心を満たしていた。

翌朝、美咲は新たな決意を胸に病室を出た。廊下では、田中看護師が優しく微笑みかけた。

「伊藤さん、今日も頑張りましょうね。」

美咲は力強く頷いた。「はい、必ず...家族のもとに、そして教壇に戻ります。」

美咲の回復への道のりは、まだ始まったばかり。しかし、夫や子供たち、生徒たち、そして医療スタッフの支えがあれば、どんな困難も乗り越えられる。彼女の心には、強い希望の光が灯っていた。

その光は、これからの困難を照らし、美咲を導いていくだろう。彼女の物語は、新たな章へと進んでいく。家族との団らんと教壇に立つその日まで、美咲の挑戦は続く。そして、その日が来たとき、彼女はきっと、より強く、より優しい妻として、母として、そして教師として、愛する人々の前に立つことができるはずだ。

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