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不変もなければ、不可逆もない世界――「ツーリング・エクスプレス」シリーズ

 世界が激変するとそこらじゅうで言われると、それは大変だと慌てたくなるかもしれません。そんなときは過去の歴史を振り返ることができる物語を読むと、気分が落ち着きます。河惣益巳先生の「ツーリング・エクスプレス」は、近現代史をじっくり見つめ直すのにぴったりな作品のひとつです。

 陰謀に満ちた国際社会を舞台にICPOの刑事シャルルとバイセクシュアルの殺し屋ディーンのラブストーリーを描いた名作少女漫画「ツーリング・エクスプレス」の連載期間は、なんと来年で四十周年。
 チェルノブイリが爆発してベルリンの壁が崩壊しても、アメリカ同時多発テロ事件からアラブの春を経て世界規模でISISが台頭しても、休止期間を挟みながら続いてきました。

 白泉社の少女漫画雑誌「花とゆめ」別冊夏の号で「ツーリング・エクスプレス」が連載が始まった1981年は、冷戦真っただ中の激動の時代。暗殺、誘拐、テロ、ゲリラ……。今も昔も、国際社会は物騒な言葉が飛び交っていました。
 私たちは銃弾が飛び交う大事件に次から次へと遭遇するシャルルとディーンの活躍に心躍らせながら、そもそも最初から変わることのない平和なんかなかったのだと実感する一方で、逆に完全に何もかもが変わってしまう不可逆の変化もありえないのだと気づかされます。
 なぜなら「ツーリング・エクスプレス」は国家や組織による謀略や争いだけではなく、可愛らしくも強かなシャルルや冷酷で情熱的という矛盾を抱えたディーンといった魅力的なキャラクターたちの切実な関係性を描いているからです。

 「ツーリング・エクスプレス」のような優れたエンターテイメント作品を読んで人類の歴史というものは元々困難なものなのだとしみじみと思えば、変化への恐れも少しは薄れて「次は何が起こるんだろう?」とわくわくできるくらいの余裕が持てそうな気がしませんか?

 混迷を極める時代になればなるほど面白くなるこのシリーズがこれからどう続くのか、私はとても楽しみにしています。

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