2月3日/2023
(続き続き)
越前岳頂上。ここにはたくさんのベンチがある。やっとゆっくり座れる。リュックを放り出すように下ろしてベンチに腰かける。は~疲れた。まずは水を一口。続いてランチパックを取り出し昼食。ここまで誰にも会っていなかった。でも頂上には十里木の方から来ている人がいるのかなと思ったけど、誰もいない。越前岳からの絶景は独り占め。とはいうものなんだこの風。凄まじい突風。動きを止めたらどんどん体温が下がっていく感じ。風を遮る場所ないかなと周りを見渡すも視界が開けている分風を遮る場所はどこにもない。風の音に混じって自衛隊の砲弾の音。ここは戦場か?。ここでちょっとゆっくりしていこうかなと思っていたけれど。もう寒さに我慢できない。靴紐が緩んできたから入念に締め直して、すでに帰り道の準備を始める。手持ちのストックは一本にして残りの一本はリュックに括る。降りの道のりのことを思うと憂鬱になるな。いったい、いくつ難所があるんだ?。心配しても、考えても、あの鳥居の向こうには戻れない。一箇所ずつ確実にこなせばいつか帰れる。そう自分を励まして立ち上がる。さあ、降りよう!!。一瞬、十里木の方へ降りたいなと脳裏をよぎったが、それは無理な相談。富士見台、山神社駐車場方面の道標に従う。まず最初はあの壁のような岩。帰りは降るということだ。あそこが登りで一番キツかったから、あそこ降れば、他もいけそうだ。最初は緩い下りでまもなく岩の壁が現れる。手足を可能な限り駆使して慎重に岩にしがみついて降りてゆく。あまりにも夢中で怖さとか疲れとか寒さとかどこかに飛んでいってしまった。ときに握ったストックを下に放り投げつつ岩をつかみどうにか無事に下に着いた。さてここから駆け上るような気持ちで富士見台へ。ようやく身体のだるい感じがなくなったみたいだ。さっき通ったばかりなのに、再び富士山に見とれる。きっと同じような写真を何枚も撮ってるんだろうな。ここは座る場所がないからぐるぐる歩き回って富士山をいろんな角度から眺める。ここも展望がいいということで風が強い。やっぱり長居はできなさそう。さあ、行こう!!。富士見台から先も急で断崖の坂道だった。そこを越えればあとは普通の下り道。富士見台を出るとすぐにその道に差し掛かる。慎重に一つ一つ段差を降りていく。さっきの最大の懸念の場所をクリアできた勢いで、富士山の絶景ともサヨナラしなくちゃいけないな。さあ、ここからも雪の急な道が続いているはず。細心の注意を払って降りて行こう。それにしてもほんとに今日は人に会っていない。この山の中に自分だけしかいないのかと思うくらい。さっき登って来た道筋に自分の足跡が残っている。この足跡を逆に辿って行けば、道に迷うことはないはず。頼もしい?かな?。急な坂道をなんとか通り過ぎて下り道も若干緩やかになってきた。雪の量もだいぶ少なくなって来たみたい。ちょっと気持ちも軽くなってきたところで人の声。わ、団体様御一行がそこのけそこのけの勢いで到来。おはようございますの挨拶を浴びてやり過ごす。頑張っていってらっしゃい。そして、しばらくするとまたも同じような団体さん。さっきまであんなに静かだったというか静かすぎるぐらいで不安を感じるくらいだったのに、けっこうな人気ルートみたいじゃないか。人と真っ向から絡むのは、山の中に限らず嫌なんだけど、山の中に一人放り出されたような状況は決して好んでいるわけじゃない。この団体様以降は下まで結局誰にも出会うことはなかった。話を元に戻す。ゆるい下り坂をドンドン歩く。チェーンスパイクは雪を噛むというより落ち葉を靴底に収集し始めた。登ってくる時にチェーンスパイクを装着した鋸岳展望所ではずそうと思っていたんだけど。気づかないで通過しちゃったみたい。もうこの雪の装備は御役御免だな。適当な場所見つけてチェーンスパイクをはずす。もう雪は怖くないや。帰りは霜が溶けてドロドロ道になってるかなと思っていたが、まだ霜柱はガチガチに凍っている。泥に足を取られることもないみたい。登りに比べて帰りは道程が短い感じがする。富士見峠の分岐の道標が見えて来た。ようやく先が見えた。ここで一休みしたいところだが、やっぱり休む場所がみつからない。もう、このまま行っちゃおう。そのまま急な坂を下る。雪もない岩の道。どこか緊張感を失ってバランス崩して転んだ。派手にじゃない。足がもつれて倒れ込んだ感じ。身体にダメージはない。ただ両足の膝に泥がついた。何やってんだ!。しっかり行こう。この先に最後の難所ポイント。ハシゴがある。いったん坂を降りるとなんだかよくわからない半分朽ちたような建物のところに出る。近くにある岩に腰掛けて靴紐結び直す+水の補給。さあ、これから最後の難関?梯子下りの場所に向かう。ちょっと緊張。でもそこ肥えたらゴールはもうすぐ。さあ行こう。すぐに切り立った崖の道。足がすくむ。慎重に慎重に!!。すぐに梯子が現れる。もう一本のストックもチュックに括りつけ。両手をフリーに。その両手と両足で梯子を降りていく。梯子を降りることはさほど困難ではないのだが降り切った後の足の置き場が難しい。下手に滑ったらどこまでもどこまでも落ちてしまいそう。びくつきながら着地点を探る。ここで行けるかなという点を探し当てて全体重を任せる。ふー、無事に降りれたじゃないか。あと少し険しい断崖の道を歩いたら、杉林の階段の道。鳥居の向こうに帰り着くのももうすぐ。朝積もっていた雪もすっかり溶けているみたいだ。しんとした杉の林の中を下っていく。ここを登っていったのが遥か前のことのように思える。舗装された道が見えてきた。鳥居も近づいてくる。その前にある小さな社に無事に返してくれてありがとうございますと一礼して鳥居をくぐる。ただいま!!現世!!。