「万年筆」インクの入れ方
インクの入れ方、第一歩
万年筆で筆記するためには万年筆にインクを入れる必要があります。自分でインクを入れるというのは、ちょっと煩わしいかもしれませんが、このことは他の筆記具にはない万年筆の最大の特徴の一つに他なりません。この作業を受け入れることができれば、自分だけにカスタマイズされたオリジナルペンを手に入れる第一歩となるでしょう。
それぞれの方式
インクを入れる方法としては、大きく分けてボトルインクを用いない「カートリッジ方式」と、インクをボトルから取る「コンバーター方式」そして「吸入式」の、3つの方法があります。今回はそれぞれの方式の説明を行っていきます。
〇カートリッジ方式
インクの入った使い切り方式のカートリッジを万年筆の首軸から差し込む方法です。万年筆を買うとインクカートリッジが付属されていることも多いです。
カートリッジ方式は使いやすいという長所があります。インクが無くなれば、また新しいインクカートリッジを差し込むだけです。10本入りひと箱500円~1000円前後で販売されています。(価格・本数はメーカーによってまちまちです)
また、インクの色を変えたい時にも首軸から先を水で洗浄して新しい色のインクカートリッジを差し込めば完了です。
ただし、使い勝手の良い反面、メーカー毎に規格の違いがあり、その規格のインクカートリッジしか使えません。そのためインクのバリエーションもある程度限られてしまい、いろいろな色を楽しむという使い方が出来ないなどの制約もあります。
互換性
パイロット、プラチナ、セーラーといった日本の主要万年筆メーカーのインクカートリッジは独自規格を採用していて互換性はありませんが、一方で、「欧州共通規格」(ヨーロッパ共通規格)と呼ばれる規格のインクカートリッジもあります。
これは統一の規格によってインクカートリッジに互換性を持たせるようにしているもので、モンブラン、ペリカン、ウオーターマンなど、多くのヨーロッパのメーカーが採用しているものですが、インクカートリッジに限らず「自社製品以外のものを使用した場合の責任は負いかねます」とアナウンスしているメーカーも多く、欧州共通規格を採用していても、組み合わせの相性には良し悪しもあるようです。
筆者お勧め万年筆
シェーファー100 万年筆 レッドトランスルーセント 細字
〇コンバーター方式
コンバーターとは、インクを吸い上げる機能のある器具のことです。それをカートリッジ方式のように首軸から差し込んでペン先からインクを吸い上げて使います。コンバーターはインクを詰め替えることのできるカートリッジの発展形、と考えておくとわかり易いと思います。
コンバーター方式を採用する万年筆はインクカートリッジも使えますので、カートリッジ/コンバーター両用式と表示されています。ほとんどの万年筆はこのタイプとなりますが、万年筆の形状などによりコンバーターの使えない万年筆もあります。
また、コンバーターもインクカートリッジと同様に各社ごとの規格となり、独自規格を採用しているメーカーの万年筆では他社のコンバーターは使えませんので、その点は注意が必要です。
コンバーター方式の最大の長所は好きなインクが使えるところにあります。インクの種類はインク専業メーカーのインクも含めると数百種類あります。ペン先の太さとインクの組み合わせは無限に広がります。お気に入りの組み合わせを見つけることは、他の筆記具にはない万年筆にしかない楽しみです。
自社のインク
ただし、メーカーは公式には自社のインクを使ってくださいと必ずことわっていますので、他社インクを使う場合は自己責任でということは付け加えておきます。筆者の経験ではどのインクも問題なく使えますが、同じインクでも色の出方が違うことは当たり前にあって、相性のいい悪いはあります。しかしインクを入れたまま長い間放置しない限り、メーカーの違いによるトラブルはありませんでした。
もっとも、長期間の放置による目詰まりは、同じメーカーのインクを使用していてもよく起こることですが、ここでもうひとつコンバーター方式の長所があげられます。カートリッジ方式だとインクの流れはカートリッジからペン先、紙の一方通行ですが、コンバーター方式だとインクをペン先から吸い上げるため、筆記する時と逆の流れがペン先に生じて、通気・インク通りが保たれるため、使用しながらにライトメンテナンス効果があります。
ただし、最初のうちはインクを瓶から吸い上げる作業はちょっと手間がかかるものなので、敬遠したくなるかもしれません。インクを吸入する時に手にインクが付いてしまうこともあります。慣れれば問題ないのでしょうが、筆者はいまだにインクが手につくことが多いです。
また、違うインクに変える際には、コンバーターの洗浄が必要となりますが、時間がかかるうえに、完全に前のインクを取り除くのはなかなか難しいということがあげられます。ペン先は水に浸して10回ほど吸引排出を繰り返せば完了しますが、それでもコンバーター内に残ったインクは完全に除去できないことがあります。
筆者はどうしても取り切れない時は新しいインクを一回吸い上げてコンバーター内を慣らし、もう一度インクを吸い上げて使用しています。洗浄で内部に残った水で薄まっているので気にはならないレベルだと思いますし、どうしても気になるようでしたらコンバーターを追加して買えば大丈夫です。コンバーターが別売りで付属していない万年筆も多く、500円から1000円前後で関連商品として買うことができます。
〇吸入式
吸入式とは、万年筆本体にインクを溜めるタンクを備えた方式のことです。胴軸最後部にピストンを動かす軸があり、それを回転させることでペン先よりインクを吸入するので、インクの補充がしやすい仕組みとなっています。また、構造的に複雑になるため、価格も高額になりがちで、高級万年筆に多く採用されている方式でもありますが、カートリッジ式やコンバーターに比べてインクの容量が多く、単一のインクで大量に筆記する場合や頻繁に使う場合には一番便利で、長い目で見ればランニングコスト的にもなかなか悪くないのではないでしょうか。
ただし、こちらも違う種類のインクに変えるとなると、前のインクをインクタンク内から完全に取り除くには手間がかかります。機構が複雑なこともあって、分解してしまうともとに戻せなくなり修理に出さなくてはならないこともあるので、インク選びには慎重にならざるを得ません。
次回はそれぞれの方式の吸入を写真や実演も交えて紹介していきたいと思います。