彼氏と別れた。付き合っていたのは一年半だけど、わたしが一目惚れしたのは2020年の2月。大学三年生の終わりがけだった。コロナに関する報道がすこしずつ増えていくなかで、ちょうどこれから就活のわたしたちはそんなの絶対に信じたくなくて、つとめて変わらない日々を送ろうとしていた。
目の奥に沁みるチカチカしたライト、お酒と煙草と香水の混じった匂い、露出の多い女の子たちとブランド名が大きく書かれた男の子たち。お腹の底がずんと震える重低音のなかで、つまらなそうにスマホをいじっている彼がなんだか気になった。
顔を上げたらすっごくきれいで、だるそうに煙草を吸うのを見て隣に座って声をかけた。「あの!つまらないですか?」と耳の横で大声を出したあの瞬間を忘れることはきっと一生ないんだと思う。
今朝目が覚めたら、当たり前に世界があってがっかりした。一秒の間に一秒が過ぎていて、歩行者信号はピヨピヨ鳴っていて、大きなトラックのエンジン音がうるさくて、たまにうちの前で立ち止まって話し込むひとたちがうざったい。昨日となんにも変わってない。わたしだけが置いてきぼり。
去年の3月にnoteを始めてから、彼氏が登場する頻度はとんでもなく高かった。だから別れ話をされて彼氏関連のnoteを非公開にするときに、わたしの生きてきた時間もアーカイブされたようで虚しかった。なかったことにしないように、ほんのすこしだけここに残しておこうと思う。
こうして並べてみると、すこしずつ影が濃くなっているのがわかって切なくなる。けど一番新しいnoteまで、ずっとわたしは彼のことが大事で大好きだったんだなあと思う。ちゃんと書き残しておいてよかった。こんなに大好きになれてよかったね、ありがとうね。
一年半、人生の真ん中に置いて過ごしてきた習慣を突然変えるのは難しい。特にインスタなんて最悪だ。彼が好きな白いフレンチブルドックのリールを見つけたら、ついつい紙飛行機のボタンを押してしまう。
簡単に作れる美味しそうなレシピを見つけたとき。名古屋のおしゃれなごはんやさんを見つけたとき。彼が好きそうなかわいい女の子を見つけたとき。ついつい画面の左下に親指を伸ばして、もう送る相手じゃないんだということにふと気づいて所在無げにうろうろする。
そんな日々がきっとしばらくは続いていくんだろうと思っていて、だんだん薄れていくのが嫌だなと思うわたしもいて、この痛みが鮮やかなうちにこうして何かを残しておきたいと思った。
3月末に別れ話をされたとき、reGretGirlのsoakを聴いて息をしていた。「だって血が滲むほど愛したって壊れないから」を何度も何度も自分に染み込ませて、絶対大丈夫って何度も何度も自分に言い聞かせてた。
たまに流れてきたグッドバイで泣きたくなくて、スプリングでいつかこんな風に後悔してくれるだろうかと遠くを見たりして。インスタントが流れたら、最初はセフレだったんだから彼女になれただけでもよかったじゃんと思ったりもして。
でもやっぱりカーテンコールを聴いて、絶対別れたくないって思ってた。「最後でよかったって言えますように」と口ずさんで、絶対これを最後にするんだって誓って、折れそうになっても諦めたくなかった。
よくがんばってたなあと思う。とりあえず、お疲れさまって言ってあげたい。お互い、疲れたよね。まだキリキリする胃をさすって、とめどなく溢れてくる涙を拭って、それでも一秒の間に一秒過ぎてるから大事に生きていかなきゃいけない。これからもっと幸せになってねって、今は言えないけど、そのうち言えるようにがんばるよ。今までありがとう。