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前髪を切ったくらいで何かが変わるなんて思ってないよ、でも
でも今日までのわたしとは違うんだと思いたい、そういうときがある。
夏から伸ばしていた前髪を切った。推しが黒髪ストレートロング前髪なしが好きだと繰り返し言うので伸ばしていることが多いけど、たまにこうして自分で切ってしまう。
初めて自分で前髪を切ったのは、中学生の頃。学年で一番かわいい女の子がオン眉になって教室に入ってきた。ちょっと恥ずかしそうに、切りすぎちゃったとはにかむのも可愛かった。
美容院で切ってもらうのが当たり前だったから、自分で前髪を切る子もいるんだと衝撃だった。どういうきっかけだったか忘れたけれど、わたしもやってみることにした。
案の定失敗して、ガタガタになるか切りすぎるか。ぱっつんにしたい時期と前髪なしにしたい時期が交互にくるわたしはいつも「前髪迷子」で、高校大学とセルフカットを続けていた。
居間でちゃぶ台に新聞紙を広げて切るときもあれば、お風呂場でお風呂の蓋に鏡を置いて切るときもある。今日は後者で、「切るぞ!」と気合を入れていたわけでもないのになんとなく無性に切りたくなった。
夏から今日までのわたしが、ここに詰まっている感じがした。そんなこと言ったら根本まで切らなきゃいけないんだけど、なんなら坊主にしなきゃいけないんだけど、そういうことじゃなくて。
この10センチ弱を切ることで、何かと決別したかった。ザクザクと音を立てて、そこにあったものがなくなっていく感覚。パラパラと風呂場の床に落ちて、突然ゴミになるわたしの髪の毛。
ずっと自分の一部だったもの、毎日毎日シャンプーして、トリートメントもして、ヘアオイルつけてドライヤーして、大事に大事に櫛でとかしていた髪の毛が、鋏でジョキッと切られた途端にわたしじゃなくなる。
その感覚に、どこか救われるような気がした。ずっと持っていたからって、ずっと「わたし」だったからって、これからもずっと持っていなきゃいけないわけじゃない。ずっと大事にすることを自分に背負わせなくたっていい。
苦しかった今日を、明日に持っていかなくてもいい。けど、すっかり忘れたら苦しかったわたしが無駄だったみたいで悲しいから、やわらかく覚えていてあげたい気もする。
前髪を切ったくらいで何かが変わるなんて思ってない。でも、今日のわたしより明日のわたしのほうがほんのすこしでもいいほうに進んでるって思いたいよ。だから、ちょっとだけ何かを切り落としたわたしで、明日を迎える。
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