BTS "달려라 방탄(Run BTS)" 答えはここにある 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.051
달려라 방탄(Run BTS)
論峴から100m
そこが 俺たちの根城
学校が終われば会社からの呼出
(はい、はい)
「あ、今ちょうど行くところです!」
「どうか実家送りにはしないで下さい!」
たまにあの日の夢を見てうなされる
目覚める度にこう思うんだ
あの頃には戻りたくない、と
進め!進め!進め!
10年の月日をかけて
俺たちはどん底から這い上がってきた
そして 愛しい君をみつけたんだ
俺たちのペースはちょっと速いよ
我ら7人 運命共同体
よく見て
俺たちは俺たちだ
君はどうしたいの?
何がしたいのか、教えてくれよ
(俺たちが生き急ぐなら
若いうちに死なせてくれ)
魂をぐいと抜き出すよ
(動かせ、左へ右へと)
それが誰であろうとも
(動かせ、左へ右へと)
両の素足が俺たちのガソリン
さあ、行こう!準備はいいか?
走れ防弾、走れ
お前は走らなきゃならない
走れ防弾、走れ
お前は走らなきゃならない
走れ防弾、走れ
お前は走らなきゃならない
走れ防弾、走れ!
俺が正しかった
論峴洞の雨漏りしていた作業室で
缶焼酎を開け、身の上話なんかして
誓ったあの言葉
成功したらあいつら全員ただじゃおかねぇ
バンタンの成功理由?
俺も知らん そんなのどこにある?
俺たち皆必死こいて走ったんだ
不平を口にしようが走ったんだよ
答えはここにある ハハ
慰労 手に入れた
志操 手に入れた
良き音楽 手に入れた
良きチーム? 畜生!
あんたは熱烈だと言った
本気か? 正直に言え
跳ねてる奴の上で
飛んでる奴の上で
地に足つけて走るバンタンよ
さあぁぁぁ行こう!
10年の月日をかけて
俺たちはどん底から這い上がってきた
そして 愛しい君をみつけたんだ
俺たちのペースはちょっと速いよ
我ら7人 運命共同体
よく見て
俺たちは俺たちだ
君はどうしたいのか?
何がしたいのか、教えてくれよ
(俺たちが生き急ぐなら
若いうちに死なせてくれ)
魂をぐいと抜き出すよ
(動かせ、左へ右へと)
それが誰であろうとも
(動かせ、左へ右へと)
両の素足が俺たちのガソリン
さあ、行こう!準備はいいか?
走れ防弾、走れ
お前は走らなきゃならない
走れ防弾、走れ
お前は走らなきゃならない
走れ防弾、走れ
お前は走らなきゃならない
走れ防弾、走れ!
妄信してただ走って、両足で
それが俺たちのやり方の全て
そうやって証明した
7人のチョウォン達
100万ドルの価値で
ジミニ、ヴィ お疲れさん
ナムジュニ、ホプ お疲れさん
ユンギヒョン、ッジン お疲れさん
ジョングギ、みんな
ほんとにありがとさん
準備しろ!準備しろ!
前へと 更に
やってみよう!やってみよう!
走ろう!走れ!
(俺たちが生き急ぐなら
若いうちに死なせてくれ)
10年の月日をかけて
俺たちはどん底から這い上がってきた
そして 愛しい君をみつけたんだ
俺たちのペースはちょっと速いよ
我ら7人 運命共同体
よく見て
俺たちは俺たちだ
君はどうしたいのか?
何がしたいのか、教えてくれよ
(俺たちが生き急ぐなら
若いうちに死なせてくれ)
魂をぐいと抜き出すよ
(動かせ、左へ右へと)
それが誰であろうとも
(動かせ、左へ右へと)
両の素足が俺たちのガソリン
さあ、行こう!準備はいいか?
走れ防弾、走れ
お前は走らなきゃならない
走れ防弾、走れ
お前は走らなきゃならない
走れ防弾、走れ
お前は走らなきゃならない
走れ防弾、走れ!
韓国語歌詞はこちら↓
https://m.bugs.co.kr/track/32563059
『달려라 방탄(Run BTS)』
作曲・作詞: Dwayne Abernathy Jr , RM , Ebenezer , j-hope , GHSTLOOP , Jung Kook , SUGA , Oneye , Daniel Caesar, Ludwig Lindell , Melanie Joy Fontana , Michel “Lindgren” Schulz , Feli Ferraro
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今回は、2022年6月にリリースされたアンソロジー・アルバム「Proof」Disc2の1曲目として収録されている "달려라 방탄(Run BTS)" を意訳・考察していきます。
ロック寄りなトラックで全体的に裏打ちのビートで成り立っており、タイトルや歌詞にある通り「走れ!」とスピード感があるテーマの楽曲ながらも抑え気味のテンポで懐が深く、グルーヴ感たっぷりの一曲になっています。彼らがまたひとつ新しい扉を開いた楽曲であると言えるのではないでしょうか。
KBSの放送不適格判定により意図せぬ形で話題に上ったこの楽曲ですが、ARMYさんたちの期待がそこでより高まった感がありました。私もどんな歌詞なのか予想してワクワクしながらリリース当日を待ちました。
訳してみてなるほどな感じで、期待通りのぶっ飛ばし方が気持ち良かったです。意訳ではほんの少しオブラートに包みました(笑)
とは言え具体的な悪口や社会的な批判が含まれている威圧的な歌詞では全くなくて、むしろ私は、全体的に或る種の悲哀をこの歌詞に感じました。
「走る」ことが楽曲のテーマであり、練習生時代からずっと走り続けてきた彼らが抱えている率直な思いからは、壮絶な過去と現在を垣間見ることができます。
1.戻りたい過去、戻りたくない過去
楽曲の歌詞はまず、彼らのルーツ、過去の象徴である論峴洞の描写から始まります。
論峴洞への言及は "For Youth" でもなされていますが、ここで面白いのは2曲の間でその扱いが全く逆だということです。
「I wish I could turn back time(時を戻すことができたらいいのに)」と無邪気だった当時のことを振り返っている "For Youth" に対し "Run BTS" では「I don't wanna go go back again(あの頃には戻りたくない)」と、夢でうなされる程壮絶な記憶として当時の様子が胸に刻まれていることがうかがえます。
練習生と学生の二足の草鞋を履いていた頃。会社からのcalling(おそらく電話がかかってきた時点で遅刻してる)に対する弁解内容(当然だけどしっかり敬語なのがいじらしい)からもその過酷さが伝わってきます。
同じ時代を振り返っているはずの二曲でのこの大きな違い、大変興味深い描写の方向付けだと思います。あらゆる事象が多面的であることがここでも具現化されているのだと思います。
歌詞中もう一か所、論峴洞が登場するのがSUGAの奥義「高速」ラップです。不遇だった当時、自分たちを馬鹿にした奴らを成功したら見返してやると誓ったことが綴られています。(不適格判定を受けた箇所のひとつはこのあたりだと思われます)
そしてこの楽曲全体の中で核になる部分なのではないかと思うのが、「あいつら全員ただじゃおかねぇ」と啖呵を切った後の部分です。
※1
새빠지게(쎄빠지게)は全羅道、慶尚道の方言(사투리)とのこと(参考)。
「舌が落ちる」の意味が転じて、余りにも困難な状況を指す。
※2
뭐라 하다=文句を言う、不平を言う(参考)
この部分は「周りに何を言われようが」ではなく、「辛くて不平不満を口にしようが」の意味になります。ひとつ前の文で우리들이(俺たちが)と主語が入っており、直後のこの文も文句を「言う」のは周りではなく彼ら自身であると考えました。厳しいレッスンやスケジュールに対して口では文句を言いながらも身体は行動をし続けた、という状況になります。
これまで数々受けてきたインタビューの中で、幾度となく繰り返されてきたであろう「成功の理由」。なぜ「BTS」はここまで愛されるのか。
そんなの自分でもわからないとしながらも、ひとつ答えを挙げるならば「どんなことがあっても走り続けてきたこと」であるとしているのです。
過去から現在、そしてこれからも、走り続けていく。
それはもしかしたら、戻りたくない過去から遠ざかることも理由のひとつなのかもしれません。
2.防弾という名の靴を履き
歌詞の中で印象的なのが「ガソリン」という単語です。
ガソリンは言わずと知れた車などが動くために欠かせない燃料です。
そして「裸足」という表現は、"길(Road)" にも登場しています。
"길(Road)" 当時に「防弾という靴を履いて」進むことを決意しているのに、ここにきて「裸足がガソリン」であるとしている点に若干の矛盾を感じたのですが、「裸足=(個々の)本質」と捉え、「防弾という靴」が車であると例えると、前進するためには「ガソリン=裸足=本質」が必要、という式が成り立つんです。
今回、防弾会食での会話内容よりグループでの活動ペースがこれまでとは異なるものになっていくことがわかりましたが、この歌詞を踏まえるとつまり彼らは今「ガス欠」状態で「防弾という靴」を履いたまま前に進むことが困難な状態なのかもしれません。
どんなに履き心地のよい靴でも、一生履き続けることは不可能です。ここで一旦素足になって、足つぼマッサージなり足湯なりで癒されて、また「防弾という靴」をカッコよく履きこなして欲しい。そう思います。
3.Live fast, die young
私はこの歌詞に悲哀を感じたと冒頭で書きましたが、具体的にそう感じた箇所がこちらです。
※1
bae=大切なもの、愛しい人に対して使われる。babyやbabeから転じたとも、before anyone elseの略とも言われる。(参考)
※2
Live fast, die young「太く短く生きる」の意味。(参考)
「愛しい君」はARMYと思います。
このパートで歌われているのは、バンタンとARMYの関係を「恋は盲目」なものにはしたくない、という想いなのではないかと思うのです。
どん底から這い上がってやっと出会えた「愛しい君」がしたいことを叶えてあげることに固執するがあまり、自分のキャパを越えて尽くすことで命を削ってしまう=生き急いでしまう。そんな状態が続くのならいっそ幸せの絶頂で若くしてこの世を去らせてくれ、と。
決して本心ではないのでしょうけれど、元々古くからある「Live fast, die young(太く短く生きる)」という英語のフレーズにLet us do(~させてくれ)というアレンジをつけている点が切実です。
___余談ですが私は「生き急ぐ」という言葉を聞くと27クラブ(ロックスターは27歳で亡くなる説)を思い出します…___
周りよりも速く走り続けることでバンタンとしてのアイデンティティを守り続けてきた彼らが、その速度が故に生き急ぐようなことにならないためにはどうすればよいのか。
ここで希望を感じるのが「良く見ろ、俺たちは俺たちだ」と宣言している部分です。この「地に足がついた感じ」が「走る」というキーワードをさらに強めていきます。
4.地に足つけて「走れ防弾!」
ここで注目したいのがナムさんのラップパートです。
※1 志操=ゆるぎない志
※2
本来の文章は「You said you are hot, oh man, you are not. 」なのではないかと思われます。そして更に形容詞hotの後ろにBTS fan(あえてARMYではなく)といったワードが入るのでは?と。
このナムさんのパートの前半で描かれているのは、数々のインタビュアーや縁故であいさつしに来たどこぞの者とも知らない人など、「BTS」というグループの勢い「だけ」に吸い寄せられてきたことが明らかだった者たちへの皮肉と、そんな者たちに対しても「BTS」の顔を見せなければならなかった自分への憤りなのではないかと思います。
途中のGood team?に対するGoddamn!が何に対しての苛立ちなのかなと暫く考えたのですが、お決まりの質問を浴び、それに対して同じような答えを返し続ける自分に対しての苛立ちなのかな?という思いに至りました。
そして次の2行が、この楽曲全体の核となっているであろうもうひとつの部分だと思います。
跳ねている者、飛んでいる者。
それらはつまり努力を軽んじて「苦労を避ける者」たちであり、または、周りの評価や人気を鼻に掛けて「浮足立つ者」たちのことでもあるのではと思います。
それらに対してバンタンはデビュー前から地道に「(地に足つけて)走っている」のだという揺るぎない自負があるのです。底辺から10年かけて這い上がり、人気が出ても舞い上がらず、誰よりも上の世界に躍り出ても尚「走り続ける」。それが防弾少年団であるのだ、と。
それが例え「無知な信仰」であろうとも、彼らは走り続けます。
※1
映画『말아톤(マラソン)』の主人公チョウォン(演:チョ・スンウ)のこと
母親にランナーの才能を見出された自閉症の青年がマラソン大会に挑むお話です。
2005年公開の映画ですが、Daum영화の作品紹介ページで予告編を見ることができます。該当の「百万ドルの足!」の台詞も聴くことができます。
私は当時出産直後で劇場には観に行けなかったんですけど、その後DVDで1度観ていたのでなつかし~と思いました。バンタンメンバーはまだ小学生の頃ですね。
チョウォンは走ることで内からも外からも存在を肯定することが叶ったわけですが、バンタンもまた同様である点でこの引用が採用になったのではないでしょうか。
既存のストーリーからの概念の引用は、既にホビの十八番とも言える手法だと思います。その時々のテーマにマッチした作品を取り込んでいくセンスがあり、歌詞の世界を無理なくより具体的に、より鮮やかなものにしてくれています。
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マラソン、というワードが出たところで、"낙원(Paradise)" の歌詞を振り返ってみようと思います。
始めに翻訳をした時は思いもしませんでしたが、今読んでみると "낙원(Paradise)" は彼らが密かに出していたSOSでもあったのかも…なんて思ってしまいます。
これまで彼らが楽曲で伝えてきたメッセージがたくさんのARMYの手を引き上げてくれたように、彼らもまた、自身の楽曲に何かを得ることもあるのかもしれないと、そうであったらいいなと、思う次第です。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
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