映画『トワイライト・ウォリアーズ』を見てきました

 映画『トワイライト・ウォリアーズ』を見てきました。この邦題では何の映画かわかりませんが、副題は「決戦!九龍城砦」。かつて香港にあった巨大建築・九龍城砦きゅうりゅうじょうさいを舞台にした香港ノワール・アクション映画です。
 感想をメモ書きしますが、感動しました!系ではありませんのであらかじめご了承ください。

 20代の頃に宮本隆司さんの『九龍城砦』という写真集を見て、私は衝撃を受けました。外観は超巨大アパートというか団地というか、10数階建ての生活感あふれる・くすんだ・そこそこ高層なコンクリート住宅群なのですが、内部の異様な増殖具合がものすごい。金属製の管ではなく軟性のホースとかチューブがむき出しに天井を走りまわり、溶けたように角の取れた階段が狭くて暗い廊下の段差をつないでいる。そして白黒写真のところどころで、強烈に写される太陽光。敢えて写真に写すということは、ほかは真っ暗ということ? ……これはいったい何なのだ?
 解説を読むと、イギリス・日本による占領・植民地状況と、中国の政治状況とが相まってできた特殊な治外法権の一帯が九龍城砦で、もともとは清朝の官僚たちが多く住み、やがて中国からの難民や事情のある人、暴力集団が逃げ込む場所になって人口が急速に増え、激しい増築に至った、ということだそうです。1993年に取り壊され、95年に跡地が公園にされました。

 映画は、取り壊しが数年後に決まった頃の九龍城砦において、派閥抗争による恨みつらみと、取り壊しに絡む利権をめぐっての抗争が描かれます。

 私は九龍城砦のセットが見たくて鑑賞しました。前評判通り、セットは確かにすごかった!と思います。遠景も室内も、きっとこんな感じなんだろうな感が裏切られない。でも実際に行ったことのない私が感じる〈こんな感じなんだろうな感〉にどれほどの意味があるんだ?と考えると、もどかしいし頼りない。でも、じゃあ行ってこいよ、と言われても、もはや建物はありませんし、あったとしても、確実に私には怖すぎて近寄れない。
 あらためて、〈わからない〉〈わかりようがない〉ことを体感する映画鑑賞でした。

 アクションについては、古典的な意味でのカンフー度は低かったです。早回し(ですよね?)とワイヤーの多用があまりに過ぎて、私にはただただしんどかった……。
 黒澤明監督の『用心棒』で、監督が伝説的名シーンを確認しようとフィルムを見てみたら、演者の抜刀が速すぎてフィルムに写っていなかった、でも再生したら動きとして見えるから感心された、みたいなことを何かで読みましたが(橋本治さんの『チャンバラ時代劇講座』? 未確認ですが可能性は高い…)、そういう、天然で超越的な速さだとフィルムに自然な抜け・飛びがあるのかして、見ていてもしんどくないしビリビリ感激もするのですが、最近のアクションシーンは本作に限らず、映像のぎゅうぎゅう感がすごすぎて疲れる気がします。たぶん、私が年とったせいだけではないと思うのですが……。若いと平気だったのかなあ、いまとなってはわかりませんが。

 ストーリーは、比較的あっさり無難にまとめられた印象でした。アクション主体・〈セットの特異性〉主体の映画で、あれ以上物語を詰め込んでも訳が分からなくなるでしょうから、ほど良い具合かな、と思います。
 おもしろかったのは重要人物が監禁されるシーンで、てっきり、狭い個室に閉じ込められるのかと思ったら、タヌキの罠くらいの檻というか籠に体育座りをさせられてました。確かに檻だと見張りやすいし、長時間に及べば血行不良でダメージも与えられそうだし、なんというか、この即物的に合理的な感じが中国っぽいなあと、ちょっと苦笑い……。

 映画全体への不満は、生命力のインフレ度が高すぎたことです。ここまででもうあなた10回は死んでるでしょ!と突っ込みたくなるような目に遭いながら、まだがんばって立ち上がってピンシャン戦っている。いくらPG12でもこれは無いでしょ……。桁外れの気功はネタでしょうからともかくとして、特殊設定のファンタジーじゃないのだから、もうちょっと、リアルな生き物の限界を考慮してほしかった……。


 ところで関係ないですが、〈超巨大アパート〉と書きながら、M-1敗者復活戦の〈例えば炎〉を思い出し、笑ってました。でも無骨な九龍城砦は、いくら巨大でも、やっぱり、マンションって感じではないのですよねー。

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