『水車小屋のネネ』とDVDをいくつか

 な、長かった……。久しぶりに、読んでも読んでも終わらん気分の小説を読みました。しかも読んでいて退屈かというと全然そうではなくて、私がこの本で書かれている分を読み終わっても物語は続いていてほしいなあ、続いていくんだろうなあ、と、読みながら思う小説でした。

 物語は、10年を節目に語られます。1991年、2001年、2011年、そしてエピローグの2021年、と、その長さ40年分。連載していたのは毎日新聞ですが、驚いたのは新聞掲載以前にほぼ全編書き終えていたらしいことです。それってすごくないですか……? めちゃくちゃ仕事が速い人??

 発端は、そこそこな都会に住む母+娘二人の3人家族のところへ、母の恋人が加わってくるところから始まります。このとき姉は18歳、妹8歳。娘二人はいっしょに家を出ることを決意して、他県に引っ越し、姉はおそば屋さんで働き始めます。仕事は、そば屋での接客と近くの水車小屋でのそば粉作り。水車と石臼を使って粉を引くのですが、その〈見張り役〉としてすでに働いていたのがヨウム――ネネと名付けられた喋る鳥でした。姉が引き受けた仕事には、このネネの世話も含まれます。
 そば屋・水車小屋・姉妹の住居を足場にして、地方都市というよりはもう少し鄙びた印象の町に住む人々との交流・拒絶(←これも大事。とても)が描かれる40年です。


 〈何かのときに読む〉用に、津村さんの最新刊には手を出さない・全作品を読みきらない、と決めていたのですが、早速禁を破って読んでしまいました。何かのときって何やねん、と冷静に考えたらどうでも良くなってしまったのと、最新作を読んでも全作品を読むことにはならないな、と良い逃げ口上を思いついてしまったのがその理由。そしてやっぱり読んで良かったと思いますので、結果は良しでした。

 物語の細部は実際に読んでじわじわ味わわないともったいないと思うので触れませんが、興味深く思ったのは、これは〈お地蔵さん小説〉なのかも、ということでした。故人と生者をつなぎ、集落の古株と新参者をつなぎ、みんなに世話をさせるけれど同時に独特の仕方で〈守り神〉的でもある……って、ネネの立ち位置はお地蔵さんなのだな、と。あるいは私の近所で言えば大きな楠とか。
 鳥のネネは実際に生き物だから具体的な世話が必要だけど、本来、石の置物なお地蔵さんにはまめまめした世話は要りません。でも日本の(そして多分私が詳しくないだけで、おそらく世界の)あちこちでは、集落において〈その地のお地蔵さんの世話をする人々〉としてまとまっている側面があった・あるはずで、そこに何か、ある種の原始宗教の雰囲気を感じてしまいました。

 これまで読んだ限り、津村さんの小説のキーワードになる、と私が思うのは〈抑圧〉と〈勇気〉ですが、組織の在り方として、人間ばっかりで固めると〈抑圧〉が強くなりすぎるのかもしれないな、と、そんなことを思いました。大学時代のお師匠さんが組織論みたいな話の中で、組織の真ん中・トップにリーダー(=人)を持ってくる仕方がいま現在は一般的だけれど、敢えて真ん中を空きにしておく・具体的な人を置かない仕方もある、みたいな話をしていたことをうろ覚えながら思い出して、もしかしてこういうことだろうか……なんて思いました。お師匠さんが亡くなったいまとなっては答え合わせができず辛いところですが、学生時代の延長で「アホか」と言われる可能性も高いから、それならそれで、先生の解釈が聞いてもみたい。たぶん、絶対、おもしろい。もう聞けないのが惜しい。


 『水車小屋のネネ』 津村記久子
 毎日新聞出版 2023年



 DVDは、なんだか〈つよい人〉の活躍が見たかったらしく、いろいろな意味でつよい人の出てくる作品ばっかり見てました。自分がいま特に身体的・精神的に弱っている心当たりはありませんので、単にキャーキャー言いたかっただけかと思います。

●身体的に〈強い人〉編
 〇『蛇拳』…ジャッキー・チェンの初期作品。このころの格闘シーンは様式美的な、〈実際に強そう〉というより〈型としてリズムが良い〉みたいな動きが多いのですが、それでも見入ってしまうのはジャッキーの肚がピタッと決まってぶれないから。やっぱり身体能力高いよねー。抜群の安定感に見蕩れます。
 〇『マッハ!!!!!!』…ムエタイの映画。も――、強い強い。ごちゃごちゃ動いた後でピシッ、ピシッと基本の型に身体を整えるのが実に美しい。「1(というか番号無し)」を公開当時に映画館で観てキャーキャーなっていましたが、先日ツタヤで棚を見たら続編がいくつか出ていて驚きました。トニー・ジャーが出ているなら観たいな……。
 〇『グロリア』…『水車小屋のネネ』で取り上げられていて鑑賞。銃撃戦系の強さですが、地味に大胆な主人公にびっくりしました。独特の色気と緊張感が素敵。私はシャロン・ストーンのリメイク版でなく、ジョン・カサヴェテス監督、ジーナ・ローランズ主演のオリジナル版を観ました。

●根性的に〈勁い人〉編
 〇『サンドラの週末』…主人公サンドラは精神的に強い人か、というと、たぶん全然強くないです。が、きっと根っから親切で周囲の人の支えを裏切りきれない根性の強さというか優しさ・弱さがあって、結果的にはしぶとく粘る。冴えないネエチャンが主人公やな……と思って観ていたら実際は有名な女優さんで、〈世界でいちばん美しい顔〉の第1位にも選ばれたことがあるそうです。うーん、無知って怖い。ちなみにその主演はマリオン・コティヤール。
 〇『フリーウェイ』…赤ずきんちゃんがもしもド根性の持ち主で、しかも判断力抜群の切れ者だったら、という話。なんかいろんな意味でえげつなくて、爽快感を感じれば良いのか・目を点にして呆然とすれば良いのか迷う映画です。ドラマ『24』のキーファー・サザーランドがかなり情けない役で出ている、ということで一部で話題になっていたそうですが、これまた私は『24』未見なので、あ、そうなんや、としか。ちなみに赤ずきんちゃん役はリース・ウィザースプーン。主役はもちろんこっちです。筋の通った凶暴さにしびれます。いや、やってることはホントにかなりムチャクチャなのですが。

 『マッハ!!!!!!』を前のめりで見ていたら私もムエタイがしたくなりました。教室を調べると打撃練習付きのところがほとんどのようで、私はそれは要りませんので、とりあえずは本見てほそぼそ一人練習でも始めるか、いやいやその前に体幹鍛えなきゃならんからタントウ功でもするか、というわけで100円ショップでストップウォッチを買ってきました。精々3分しか続かんくせにストップウォッチも何も要らんやろう、と、悲しく突っ込みつつ買ってしまうのが悲しい。

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