読書感想文:『橋はなぜ落ちたのか』 ヘンリー・ペトロスキー
再読です。図書館でパッと目が合って、また読みたくなって読みました。10年ぶりか、もっとになると思います。
正直言って、読みやすい訳では全然ないです。しかも私は建築にも橋にも詳しくないので、トラスとか片持ち梁と言われてもどんな構造かわかりませんし、旅行好きでも英米好きでもないので、北西ウェールズのメナイ海峡を渡るブリタニア橋と言われても、どこのどんな橋なのかわかりません。写真が掲載されていれば「ははあ、これがそうか」。確認できて嬉しいけれど、もう一歩踏み込んでネットで調べるところまではしていません。
そして本書の内容は2文で要約できます。すなわち、「過去の失敗を学べ! 成功が続いたときこそ過去の失敗を改めて学べ!」、これに尽きます。
そこまでわかっているなら何でわざわざ読み直すのか?と訊かれると私にもわかりません。ですが、なんだかものすごく独特に魅力的な本なのです、たぶん。私には。
もう2回読んだから3回目は読まないかな、と思っていますけど、もし図入りの用語説明を付録でつけて新訳で出し直してくれたなら、今度は買ってしまうかも……と思ったりもする。でもそう思った先から、いやいやいや、やっぱりこの微妙に読みにくい訳なのが魅力なのかもしれん、新訳じゃダメかもしれん、と思い直したりするので始末に困る。
……どういう魅力かわかりませんけど、たまー…にこういう本に出合うから楽しい。
内容は、最初から最後まで、わりと、橋・構造を主題に扱っている本ですが、8章だけは設計者のジョン・ローブリングさんに焦点が据えられます。というのも、徹底して過去の失敗を学び、同時代の失敗からも学び、安全第一を考えつつも新しいことに挑んだかただからです。
息子のワシントンさんも最後にちょこっとだけ登場して、キャットウォーク(仮設足場。吊り橋の場合は、華奢な作業用吊り橋。写真で見る限り、だいぶヒョロヒョロそうで怖い)の手前に彼が立てた警告標識が紹介されています。いわく、
実に具体的でわかりやすい指示なのがカッコいい。が、写真に写る看板向こうの人たちはキャットウォークの上でかたまって立っているような……? 7人くらいだから良いのか? 端っこのほうだから良いのか??
10章にはジョン・ハーシーの小説が紹介されています(Hersey, J 『A Single Pebble』。邦訳はなさそうです…)。
中国・揚子江をジャンク(伝統的な小舟か何か?)で遡る若い技術者が年老いた船主から興味深い話を聞く。船の形は昔から同じなのに、危険な早瀬を乗り切る新しい方法がいまもなお見つかる、と聞いて技術者が驚くと、船主は、
そしてこれについて紹介者であり本書の著者であるペトロスキーさんは、「西欧の技術者たちは30年間しか待てない」、「古い方法を新しいと称し(まだ新しいものを古いと呼び)、設計の世界での職業上の祖父母やもっと古い先祖が理解していたものを忘れる」と警鐘を鳴らす。
……なんか新訳が出なくても、また読み直す日があるような気がしてきました。やっぱりなんか、大事な本のようです、私には。
156ページには、〈20世紀末に日本人が完成した1マイルスパンの吊り橋〉ということで明石海峡大橋がちらっと出てきます(訳注によると原著執筆当時は建設中)。
あっ、私も渡ったことあるで!と、ちょっと嬉しい。まあ渡ったと言っても、私はただぼんやりJRに乗っていて運んでもらっただけですが。しかも個人的には楽しいより、長すぎて怖かった……。もちろん、落ちる心配はしてませんでしたが。
『橋はなぜ落ちたのか 設計の失敗学』
ヘンリー・ペトロスキー著 中島秀人・綾野博之訳
朝日新聞社(朝日選書) 2001年
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