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私たちはどう生きるか

緑の中を歩いてきた老人は里山を眺めながらこう言った。

「生活していると時々人間忘れちゃうんだよ
だからこうやって緑の中で人間を取り戻すんだ」


2024年4月。
私たちは、コンクリートの上を歩くとすぐに疲れるが土の上だと疲れを知らないーという体質なので東京の端っこの山と川に囲まれた地に新居をかまえた。

ここは、東京とは思えないほど自然に溢れている。
低山に囲まれていて、大きな川が流れている。
自宅はマンションの3階だが、日に何度もベランダの前を青鷺が飛んでいく。
「君たちはどう生きるか」(スタジオジブリ)のあの青鷺だ。
菅田将暉の声をもつあの青鷺が目の前を飛んでいく。
青鷺を初めて見たわけではないが「君たちはどう生きるか」のおかげで目の前を飛んでいく青鷺を見た時はなんだか感動した。
そして「君たちはどう生きるか」という問いが頭の中を巡っていく。


私たちは歩くのが好きなので、4月5月あたりは毎週末のように新しい土地を歩き回っていた。

あの日も、朝から低山ハイクに出かけた。
目的の山を決めて、ぐるぐると歩き回りそろそろ疲れたというくらいに田んぼが広がる場所に出た。


里山だった。

緑が生い茂り、舗装されていない道に轍だけが続く。
生き物の鳴き声と風の音しか聞こえない。

夫は里山に茂る植物に興味津々で「あれは何かな」「○○に似てるけど違うのかな」と少年のようだった。
ストレスの多い仕事を日々こなしている夫が自然の中に入ると少年のようになる。

植物についてもっと知りたくなってしまった夫が「あの人に聞いてみる!」と声をかけたのが、あの老人だった。

老人は「(植物については)私もわからない」と言いながらも、どのような経緯でこの里山が守られているのか、どのような生き物たちがいるのか、里山を守る人たちのことを話してくれた。

老人が里山の管理団体の会員だったのが縁で私たちの里山保全活動がスタートした。
毎週土曜日、8時半に里山に集合し、その時期に必要な作業をする。

ある作業日、外部の団体が田植え体験にやってきた。

参加した子供たちは汗と泥にまみれた笑顔で「見てー!」と虫を捕まえた拳を突き上げる。
それは、何にも変えられない光景だった。

どんな虫がどこで生きているのか、季節ごとにどんな花が咲くのか。
植物の香り、土の匂い、虫や動物の鳴き声。
図鑑では再現できない本物がここには残っている。


人間を取り戻すために私は今日も里山へ行く。









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なつき希
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