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幻夏。を読んでみた
「太田 愛3部作」の2作目、幻夏は先の「犯罪者」と同じく鑓水、相馬、修司の3人が繰り広げるエンターテイメントなのですが、物語を包む世界観はかなり違っております。
‥23年前の夏の終わり‥
川辺の流木に奇妙な印、そして土曜日の時間割が入ったランドセルを残し忽然と姿を消した12歳の少年、なぜ金曜日の登校時間に姿を消したのか‥
懸命の捜査にもかかわらず、その行方が知れないまま23年の時が過ぎ‥
鑓水の怪しい興信所に怪しい依頼がきます。
依頼人に指定された一軒家を訪れる鑓水、そこには妙齢の美女が1人‥
「23年前にいなくなった子供を探してほしい」
この依頼に危険を感じながらも、あちこちの支払いに窮していた鑓水は「300万円」を受け取り、修司を無理矢理引き込んで調査を始めます。
時を同じくして、前作「犯罪者」の一件で組織に与する事ができず左遷された相馬は応援要員として、ある少女の失踪事件の捜査にあたっていたのですが、その少女が最後に目撃された現場であの奇妙な印を目にするのです。23年前、流木に刻まれていたあの印を‥
‥時折、23年前の情景を無声映画のように差し込みながら物語は進んでいくのですが、ある事実が判明することで、柔らかなセピア色した世界観は吹き飛び、悲しい過去と現実を読む者に突きつけてきます‥
この物語のテーマですが、ズバリ
「冤罪」
です。
この国では、一旦被疑者になると何かの製造ラインに載せられたように「警察」「検察」「裁判」と、流れ作業の如く進み「被告人」そして「罪人」を創り上げてしまう‥
そんな刑事司法の闇が鋭く描かれており物語の終盤、ある人物の口から
「10人の真犯人を逃すとも、1人の無辜を罰するなかれ‥という刑事裁判の大原則、これは幻想でしかない現実がある」
と語られている場面では、読んでいて背筋が寒くなり
「明日は我が身かも」
との思いが脳裏をよぎりながらクライマックスへ‥
前作の「犯罪者」から続く鑓水、相馬、修司の関係性はこの「幻夏」で色味を増して3作目の「天上の葦」に引き継がれていきます。
この3人、鑓水と相馬はファミリーネームで呼ばれ、修司だけがファーストネームなのがこの3人の立ち位置と人物像を表していて、この関係性が愛おしくも可笑しく‥末っ子のような修司は年上の2人に決して敬語を使わない‥読めば読む程この3人が大好きになります。