バコロドという島の懐かしい思い出。
2019年2月、フィリピン・バコロド島。田舎の語学学校の小汚いルーフトップで初めてその人に出会った。アルコールがだいぶ入った仲間たちが、ゲラゲラと笑いながら世間話をしているなか、その人は白い帽子を深めに被り、ちびちびと弱めのお酒を飲んでいた。
その語学学校は、少人数制で先生たちとの交流も密だった。みんなでご飯を食べに行ったり、お酒を飲んだりもした。先生含め全員が一コマ目に二日酔いで出席したこともあった。
本当に濃密で、日本にいたら自力では到底作り出せない環境下で毎日を過ごす日々。座学では絶対に学べない経験や文化がそこにはあった。そのなかには、間違いなく、その人と過ごした時間も入っていた。
始まりがあれば、終わりも見えてくる。徐々に時間は過ぎていき、それと同時にその人の帰国日が近づいていた。彼女は韓国に帰る予定だ。
「遠距離恋愛。しかもお互い第二言語の英語。無理だ、できない。」
私はそう思った。
ルーフトップから見た星空が、今までに見たことないぐらい美しく、悲しかった。
***
見晴らしの良い、うっすらと丘になっている芝生の上で私たちは横たわっていた。そこはビーチとつながっており、海水の香りがツンと鼻に残り、なぜかそれは私を眠たくさせる。遠くに映るバンクーバーのダウンタウンが夕焼けに飲み込まれていくのがわかった。
もう8月か、とふと思い、同時に今の状況に何か不思議な違和感を覚える。
2019年の夏、私はカナダに来ていた。あの時のフィリピン以来の語学留学、多少慣れてはいたが、初めての土地。やはりナーバスになる部分もあった。フィリピン含めアジアの選択肢は私には毛頭なかったが、カナダ以外にも選択肢はあった。しかしこの国を選んだ。
快感を忘れることができなかったのである。
2019年3月に日本に帰国し、4月、人に酔うと感じるほど大勢の人たちに囲まれ大学の入学式を終えた。新しい環境、土地に若干動揺させられたが、なんとか夏まで漕ぎ着けた、そういう印象だ。
私たちは2月以降もちょくちょく会った。そして私はまた、”あの分からない何か”が欲しくなり、夏をあの人と過ごすと決めたのだ。
何か違った。寂しい、という一言で表すのは幼稚な、不思議な感覚だった。
久しぶりに対話できる喜びと、もうこれっきり一生会わないのではないかという恐怖、不安。その繰り返し。「ガールフレンドに依存」とはまた違う何かだった。
夏が終わり、だんだんわかってきた気がする。
国籍が異なり、生きている国も違う。こんな環境の中、ほつれかけた糸を、またたぐい寄せて会う。その瞬間の感覚に依存しているんじゃないかと。
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