「仮面ライダー555」を想いながら、首都圏外郭放水路に行った
●「仮面ライダー555」放送開始20周年
今日から丁度20年前、2003年1月26日。特撮TVドラマ「仮面ライダー555」の放送が始まった。
登場人物の心が終始すれ違い続ける群像劇。異形の怪人となった者の生々しい悲哀。怪人=悪人ではない世界観。伏線と独自設定だらけの謎めいた物語。このように555は“子ども向け”を完全に逸脱したダーク・シリアス色の強い内容であったが、スタイリッシュなデザインや変身アイテム(折り畳み式携帯電話)が子ども達の心を掴み、根強い人気と高い売上を獲得した。
俺自身も好きな平成ライダーを挙げるとしたら、本作はW・000と並ぶTOP3に入る。決して気軽には観れないし所々“投げっぱなし”に感じる部分もあるが、入り組んだ重厚な人間ドラマ、ぶっきらぼうで“偽悪的”だが愛嬌のある主人公:乾巧、センス溢れる各種デザイン等、魅力を感じる要素が非常に多い。俺はリアルタイムでは観ておらず約5年後(高校時代)に夢中になったのだが、この壮大な“誤解とすれ違いの物語”は、恐らく小学生時代では楽しみきれなかったように思える。
それから時は経ち、今から約10年前、大学3年生の頃。“地下神殿”という愛称でもお馴染み:首都圏外郭放水路へ写真撮影に行った。この場所は首都圏を水害から守る施設であること以上に、俺にとっては“555最終決戦のロケ地”として深く印象に残っていた。作中設定では「スマートブレイン※新社屋建設予定地」だったと記憶している。
施設関係者やプロの撮影でしか入れない場所だと思っていたので、一般見学を受け付けていると知った時は、喜び勇んで即座に申し込んだ。同じく555ファンだった友人を巻き込んで。
●ロケの痕跡
首都圏外郭放水路は、春日部市の江戸川沿いに建てられている。都心から片道1時間以上。ちょっとした旅行気分だった。
施設内には小学生の社会見学を想定してか、水害や地層を学ぶ資料館的コーナーも設けられていた。それらも大変勉強になる展示物だった……はずだが、写真を撮っていなかったのでよく覚えていない。
俺の目を惹いたのは、以下のパネルだった。
飾られていたのは、メインキャスト陣のサイン。
左上が主演:半田健人(以下、人物名敬称略)のサイン。歌謡曲・ビル等の多趣味タレントとしても活躍中の“昭和を愛する人”。そんな半田健人が演じた巧は、とにかく愛想の無い不器用な男。彼が抱えた大きな秘密=愛想無く振る舞う理由が明らかになった時には、(伏線があるとはいえ)誰もが驚愕したはず。
その下に、もう一人の主人公となる怪人:木場勇治を演じた故・泉政行のサイン。早逝が惜しまれる。木場と巧の間に育まれる友情、そしてすれ違いによって、物語が大きく動いていく。物語中、最も善悪の狭間で揺れ動いたキャラクターではないだろうか。
一番下は誰よりも捻くれ、そして誰よりも優しかった怪人:海堂直也役:唐橋充のサイン。絵が上手いのはイラストレーターを兼ねているため。高い役者的技量も相まって、海堂は555中でも特に魅力的な人物だった。彼が遂に本心を曝け出す木場との決別シーンは、間違いなく555終盤の白眉だろう。
また、聖地巡礼者用にこのようなパネルが。555等の特撮番組に限らず、多くのドラマ・映画でも使われているようだ。
●いざ、最終決戦の地へ
──さて、そろそろ本題に移ろう。
いよいよ地下への入り口に突入する。扉の先には、長い長い階段。
「とても滑るので、くれぐれも足元にお気を付け下さい」
係員の方が繰り返し注意をする。その本気度を察した俺は、湿った手すりに捕まりながら階段を降りていった。一歩一歩、濡れた地面から足を踏み外さぬように。
階段を降りるにつれて全身を包んだのは、かつて経験したことがない強烈な湿気と、独特の臭気……。当然だ。雨を貯めておく施設なのだから。
ちょうど見学の数日前、埼玉では雨が降ったばかり。貯水量によっては見学が中止となってしまうため、大した被害がなかったことに安堵した。
むしろ、少し雨が残っていたお陰で、思わぬ恩恵に預かることもできた。
水溜まりのおかげで、地面が“ウユニ塩湖化”していた。ただでさえ壮大なスケールの場所だが、その壮大さが倍になったようにも思える。階段はどこまでも続き、穴には始まりも終わりもない。
さて、この穴を振り返ると、有名な“地下神殿”の柱がある。
……残念なことに、撮影は思うように捗らなかった。
明るさが足りず、とにかく写真がブレまくる。俺の見通しが甘かった。地下施設の暗さをナメていた。このような場所を撮影する際には、立派な三脚を購入し持参するべきだった。
それでも、一枚だけは絵になる写真が撮れた。かつて巧たちが死力を尽くして戦った場所。この地を収めることができたのだ。これ以上の贅沢は言うまい。
見学会が終わり、俺たちは恐るべき湿気から解放された。屋外の風が心地良い。
──ふと足元に目をやると、地上にも雨の痕跡が残っていた。
脳裏をよぎったのは「仮面ライダー555」のクライマックス。巧が最後の戦いを終え、仲間と並んで寝そべっていたのも、確かこのような雰囲気の草叢だった。
“自らの夢”を持たず、常に誰かの夢の守人として戦った巧が、遂に一つの夢をぽつりと語る。……その結末の後に待ち受けている“彼ら”の運命を想いながら、俺は決戦の地を後にした。