新たな感動をありがとう 「ドラゴンクエスト3」HD-2D版 (ネタバレ無し)
はじめに
RPG好きだった祖父がSFC版ドラクエ3を遊んでいた姿を見て、3〜4歳の俺はTVゲームという娯楽を知った。
当然ながら初めて遊んだソフトもドラクエ3だった。そして連鎖的に、本棚に並んでいた旧エニックス発の攻略本『公式ガイドブック』や、FC版公式アンソロジー(?)『知られざる伝説』が俺の絵本代わりになった。
それから四半世紀余りの人生の中で、俺はSFC・GBC・スマホ版のドラクエ3を合計5〜6回ほどクリアした。勇者一人旅・仲間遊び人縛り等々、頓挫した未クリア分も含めれば10周以上は遊んでいる。それ程までに大切なゲームが、俺にとってのドラクエ3だ。
そんなドラクエ3が、大幅な仕様変更を経て、遂に現代基準で新たにリメイクされた。2021年5月の発表から数えて早3年半。待望の本作を味わうために俺はあらゆる余暇をプレイに割き、遂に先日クリアに至った。
本作を100点満点で評価するなら85〜90点(SFC版が80〜85点)。原作のFC版を遊んでいない立場から言うのも気が引けるが、SFC以降の様々なバージョンにおいて、本作は間違いなく最高傑作と言える。様々な理由から購入を迷っているドラクエファンの皆様にも、ドラクエ未経験者の方々にも、そして今は亡き祖父にも強く自信をもってお勧めできる一本だ。看過できないUIの悪さ数点さえ改善されれば、100点満点の大傑作RPGにさえ成り得る。
まだ裏ダンジョンや裏ボスの攻略・ハードモード等々、遊び尽くせていない要素は多いが、クリアしたばかりの熱量が残っているうちに感想をしたためておきたい。
◎主人公父:オルテガの掘り下げ
産まれたばかりの主人公を残し、魔王討伐の旅に出た父:オルテガ。今回のリメイク版では、彼が関わった人々・土地で度々回想シーンが挟まれることで、彼のエピソードが大幅に補完された。
この追加要素により、本来のドラクエ3が持っていたシンプルなストーリー「魔王を倒す旅」の中に「偉大な父の足跡を追う旅」というもう一つの軸が加わった。後の作品:ドラクエ4〜11の魅力であるストーリーの濃さを、遂にドラクエ3も手にしたのではないか……?とさえ感じている。
FC版のグラフィック(カンダタの色違い)のせいで「カンダタじゃん!」「パンイチじゃん!」「無謀な脳筋!」などと、不憫にもWEB上でネタキャラ扱いされがちだった(気がする)オルテガ。本作では彼が旅路の中で経験した出会いと別れ、愛する家族と魔王討伐を天秤にかけ後者を取った葛藤、全盛期の強さ等々、外面・内面共に様々な要素が過不足なく描かれており、その全てが上手くハマっていた。後付け設定だとは思われるが、取って付けた感・蛇足感は全く感じなかった。
とりわけ「オルテガの兜」にまつわる数々の新エピソードは印象深く、これまでドラクエ3で味わったことのない種類の深い感動を与えてくれた。市井の人々の期待を一心に背負う重み、やがて主人公に継承される思いを描いたこのシナリオは、個人的にドラクエ史上屈指のサブストーリーだった……と断言しても良い。2018年末に発売された「ビルダーズ2」の「少年シドーのモノづくり」以来、久々にドラクエの物語で感動させられてしまった。
○何だかんだで魅力的なグラフィック(世界観表現)
「オクトパストラベラー」に端を発する「HD-2D」は、「FF6」「クロノ・トリガー」のドット絵世界を立体化させたような映像表現がウリとなっていた。2021年に公開された初報PVでは、その要素がふんだんに見て取れる。
しかし、情報が本格的に解禁されるにつれ、フィールドは3D(PS2版ドラクエ5にやや近い質感)・キャラクターは2Dドット絵という折衷表現への変更が判明し、実際に操作するまで「HD-2Dの魅力を失っていないか……?」との疑念を抱いていた。
実際に遊んだところ、確かにオクトラ的なHD-2Dらしさは感じなかったが、3D化への違和感そのものは一切覚えなかった。そう感じた理由は「世界観の雰囲気作りの上手さ」にあったと思われる。
ドラクエ3の世界は我々が住む地球の世界地図をモデルにしている。町や城も「ジパング」=日本、「イシス」=エジプト等々、実際の世界各地を思わせる場所が数多くを占めている。ドラクエ3をプレイすることは、いわば擬似的な世界旅行でもあった。新たにデザインし直された町の風景はいずれも素晴らしく、その体験の大幅な強化に繋がっていた。
改めて考え直せば、PS版DQ7・天空編リメイク等々で、我々は3Dマップ+2Dキャラクターの表現を既に体験している。遊べば違和感を覚えないのも当然だったかもしれない。
○豊富な探索要素
クラシカルなワールドマップ制RPGにおいて、町から町への移動は最短距離で済ませてしまいがちだ。本作のように、地図を見ればシンボルの場所が最初からわかるRPGなら尚更だろう。
しかし、本作はマップ上の至る所にアイテム収集ポイント(各一度きり。設定的には「他の冒険者の落とし物」あるいは「行き倒れた冒険者の遺品」か)・新要素のスカウトモンスターが潜む秘境ポイントが散りばめられており、文字通りの「寄り道」を存分に楽しむことができる。その報酬はほとんどが実用的でパーティの強さに直結する点が嬉しく、「無駄な寄り道をした!」と嘆くこともない。
反面、世界中を歩き尽くすと必然的に多くの敵と遭遇する羽目になる。敵にストレスを感じることなく快適な旅をするためには、エンカウント率低下技「忍び足」・秘境ポイントの隠しアイテムを探すための呪文「レミラーマ」を覚える盗賊が必須と言えよう。ただでさえ強い職業だった盗賊の価値が、SFC・GB版以上に増したとも考えられる。
○不遇職の是正
豊富な職業の存在こそドラクエ3の良さであるが、そのバランスは必ずしもうまくいっているとは言えなかった。例えば、これまでは「素早さの1/2=素の防御力」という仕様の影響で、鈍足=耐久力の弱い戦士を入れるくらいなら武闘家・盗賊を入れた方がメリットが大きい……という定石があった(と思われる)。
本作では、かつての不遇職のテコ入れが行われている。個人的に感じた範囲では、特に戦士・遊び人が実用性に足る職業となったように思われる。
戦士は素早さが防御力と連動する仕様の撤廃、数々の特技追加(剣の舞・メタル切り等々)により、十分に実用に足る職業へと進化した。
ネタ職の遊び人は「将来的に賢者へ簡単に転職させるためのつなぎ」であることは間違いないが、数々の有用な特技(ツッコミ・ハッスルダンス・魔力覚醒)を習得するほか、圧倒的な運の良さが会心の一撃率を高めてくれるため、やがて武闘家を目指すキャラクターの前職としても大いに役立つ。
一方、かつての強職の弱体化は特にみられず、例えば先述の通り盗賊の重要性がこれまで以上に増している点は留意しておきたい。また、本作で追加された新職業の「魔物使い」の習得特技(特に低コストの四連攻撃「魔物呼び」、二回行動状態付加「ビーストモード」)はあまりに強すぎる。「魔物呼び」を覚えたキャラクターのAIは、以後それでしか攻撃行動をしなくなる程だ。もう少し「魔物呼び」「ビーストモード」の取得タイミングを遅らせるか、魔物使いを賢者同様、特殊条件下のみ転職可能な存在しても良かったとも感じる。
何にせよ、明確な「ハズレ職」がなくなり編成のバリエーションが増えたことで、今後周回プレイの楽しみも増すだろう。
ちなみに筆者は、【勇者・魔物使い→商人→武闘家・盗賊→賢者・僧侶→遊び人】の四名でクリアに至った。勝手な行動をしてばかりの遊び人が、ラスボス戦で命令を聞かず大暴れ(悪い意味で)してくれたのは良い思い出だ。
△所々のUI・ユーザビリティの悪さ
さて、ここまで様々な点を褒めちぎってきた本作に100点満点を付けられなかった理由が、要所要所におけるUI・ユーザビリティの悪さだ。「楽しんでおいていちゃもんを付けるな!」と言う意見もあるだろう。だが、絶賛派の自分の目から見ても、どうしても看過できなかった点が複数ある。一プレイヤーの感想として製作陣に届くよう、どうしても述べさせていただきたい。
・HPとMPのフォントが小さすぎる
まずは、以下の比較画像をご覧いただきたい。画像は全てNintendo Switchにて撮影した。
どの作品のHP・MP数値が見やすいか……?と人に問えば、多くの方が10もしくは11と答えるのではないか。
今作のHP・MP表記はとにかく見辛い。数字のフォントは著しい小ささで、頼みの綱のゲージも細い。(Switch版の場合)ドックに繋いでTVで遊ぶ分には問題ないが、携帯モードで遊ぶと無性にストレスを感じる。画面左の「たたかう」コマンドウィンドウは問題のない大きさをしているため、余計に違和感が募る。
RPG──特にドラクエのようなコマンド式ターン制RPGは、「数値の管理をするゲーム」だと考えている。敵からの被弾ダメージと味方のHP・MP、それらを考慮し計算に入れて遊ぶためには、数字の視認性が第一だ。もし携帯用ハード:Nintendo Switch Liteで遊んでいる老眼の方がいるとしたら、この視認性の悪さによりプレイ体験に大幅な支障をきたす可能性すらある。果たして、これ程までに小さな表記にする必要性・必然性はあったのだろうか?どうにか11並みの大きさへと変更可能にならないものだろうか。
・戦闘のテンポが最速の「超速い」でも遅く感じる
本作には戦闘速度切り替え機能が付いているが、デフォルトの「普通」のテンポが非常に悪い。最速モードの「超速い」を選んでも、歴代最速かつ快適なテンポを誇るPS2版「ドラクエ5」の方が体感的に速いな……もう少し速くても良いのでは?と感じた。とはいえ、歴代のドラクエ3中では間違いなく最速で遊び易いため、余り目くじらを立てるべきでないかもしれない。
・ラーミアの遅さ
大きな翼を広げて羽ばたく不死鳥ラーミアは、本作のキャラクターグラフィックの中でも随一の美しさを誇る。しかし、その大きな翼に似合わず、本作のラーミアはマップの広さに対してあまりに遅すぎる。恐らく徒歩と同程度の速さしかない。しかも方向キーやスティックを押さなくても良い自動飛行機能・ドラクエ8のレティスが持っていたダッシュ機能もないため、「おおぞらをとぶ」爽快感を得ることは非常に難しかった。特に本作では「ラーミアでしか行けない高台エリア(レアアイテム等々が手に入る)」が多く乗り降りする頻度が多いため、尚更気になって仕方がなかった。
・改善への期待
上記に挙げた点はバグ・不具合ではなく明確な仕様なので、製作陣が意図して・納得して実装したと思われる。仕様である限り、変更される見込みも薄いだろう。
とはいえ直近に発売されたドラクエ新作「モンスターズ3」では、発売後にプレイヤーから頻出していた数々の問題点(配合所へのアクセスの悪さ・レアモンスター出現卵の低出現率など)がフィードバックされ、アップデートで修正されていたため、本作も修正への期待を捨てていない。せめてHP問題に関してだけでも、設定画面で「サイズ表示変更」が可能になることを願っている。
?はぐれメタル逃げ過ぎ問題
これは単なる気のせいかもしれないので、決して作品の減点要素にはしていないが……。本作のメタル系モンスター(メタルスライム・はぐれメタル)、とにかく逃げる。すぐに逃げる。気がする。
4匹出てきて4匹即逃げはザラにあり、3ターン目まで逃げなかった例を見た経験がほぼない。一応レベル上げを想定した「スライム系限定エリア」的な場所が幾つか存在するが、かえって効率が良くない(メタル系以外の経験値が低いため、メタルの低出現率・逃走率を考えると割に合わない。普通の敵からも安定した経験値を得られるラストダンジョン1Fがお勧め)。全力でメタル狩りを決行するためには、武闘家がレベル40代後半で習得する「会心必中」が必須となるだろう。
メタル系を倒して莫大な経験値を得る快感・なかなか倒せず逃げられるストレスを天秤にかけ、前者が勝るのが歴代ドラクエのバランス調整だ(はぐれメタルが大した経験値を持っていないFC版2を除く)と考えているが、本作は後者の比重が大きくなり過ぎている気がしてならない。本当に過去作よりも逃げやすく設定されているのかを知りたい。
おわりに──ドラクエ1・2リメイクへの期待
以上で、クリア直後の「ドラクエ3 HD-2D」総評を終える。
確かに「ないものねだり」をしようと思えば、いくらでもねだりたい部分はある。更なる隠しダンジョン、更なる裏ボス等々のやり込み要素、更なる新職業、更なるミニゲーム……。求めたい要素を挙げ出したらきりがないが、「現状に満足している」という感情を、ひとまず残しておきたい。
本作に続き、2025年内には「ドラクエ1・2リメイク」が発売される予定だ。ネタバレ回避のため仔細は述べないが、追加シナリオが加わることは間違いない。無論、以前から「2025年のゲームとして発売するからには何らかのエピソードの追加は行われるだろう」と想像してはいた。だが、「単なる蛇足や改悪だったらどうしよう……」と、不安寄りの考え方をしていたのも事実だ。
しかし、その不安は本作で払拭された。本稿冒頭で述べたオルテガの追加エピソードがとにかく刺さったため、ストーリーの大幅補完に対しては非常に期待が持てる。後は快適性を損なっていた要素に対するフィードバック、やりごたえを残したまま理不尽さを取り払う調整(特にドラクエ2、敵の全体即死呪文の命中率を下げる等々)が成されるかどうかが気に掛かる。
ドラクエ1・2はシンプルな初期作であるゆえに、ドラクエシリーズの中では影が薄い風潮がある(人気ランキング上位に挙がる作品は、3・5・11辺りの印象が強い)。今度のリメイクによりその評価が一転し、3以上の名作RPGとなって再誕することを切に願っている。今回の3リメイクの完成度は、その期待を持たせてくれる程の出来だった。その未来への期待をもって、本稿の締め括りとしたい。
・おまけ