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大きな一歩、感じる月日

僕の通うスポーツマッサージの学校では
先週、スチューデントクリニックがオープンした。

これは生徒によるマッサージ屋のことで、お客はタダ同然でマッサージが受けられて、僕ら生徒には見知らぬ他人で練習できるはじめての機会。

ロックダウンの影響で予定が大幅に遅れていたため、僕にとってこれは待ちに待ったオープンだった。

そこに僕はある知り合いを招待した。

その女性をマッサージする事は、僕にとって重要な意味があった。


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その女性「ステーシー」は、僕の通うヨガクラスの先生だ。

今の町に来たばかりで誰も知り合いがいなかった頃、彼女は最初に親切にしてくれた人の一人だった。

友達と呼べるほどの間柄でもないけれど、それ以来、もう10年近い知り合いになる。


初めて会った時の印象は今も鮮明に覚えてる。

「おぉ、バイオハザードの主役がいる!」

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一瞬で美人だと思った。

そんな彼女は僕より一回り年上で、今は孫が何人もいるらしいけど、それでもヨガインストラクターでベジタリアンな彼女は、10歳は若く見える。

性格も穏やかで
とてもニュージーランドの女性とは思えない!
(おっと失言…)


そのステーシーは、昔、マッサージ師をやっていた。

もうやめてしまって長いけど、7~8年前、彼女のマッサージを何度か受けたことがある。

当時の僕は、オイルマッサージよりやっぱ指圧だろーと思ってた。

しかし彼女の施術は過去の誰よりもうまくて、僕はすぐに虜になり、知り合いに会えば「この町でNO1!」と吹いて回るくらいだった。


今回、その彼女に僕が治療をする。

不思議な感覚だ。

僕は前日からワクワクしていた。


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当日の朝、時間通りに到着し、

「マッサージ受けるの久ぶりなのよー」

とちょっと興奮気味に語る彼女は、

すこしだけ緊張していた僕の心を和らげてくれた。


1時間のマッサージは順調だった。

このところ集中的に練習を重ねてきた僕は、なんとなく感覚がつかめてきていて、触ってやるべきポイントがわかる感覚があった。

緊張もないリラックスしたムード。
いい空気が流れる。

ただ、僕にはちょっと気になることがあった。

というのも、一週間前、彼女からある話を聞いていたから。


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彼女の本職はヨガ先生ではなくて、ヘルスケア分野での何か特殊スキルを有する専門職だった。

そんな彼女は、今週、その職を失った。

ワクチンを拒否したからだ。


というのも、政府の方針で、彼女の職種が強制ワクチン接種対象になり、反ワクチン派の彼女はそれを拒否したのだった。

このまま職を失うかもしれない、、とは聞いていたが、先週クビになってしまったらしい。

抗えない社会の流れ。

その話を聞いて、僕はいたたまれない気分になった。

同時に「なんて強い女性なんだろう」と感心もする。


けれど、マッサージテーブルに横たわる彼女の背中は、心なしか疲れて見え、出会ってからの長い月日も感じられ、僕はなんだか切ない気分になった。

自分のマッサージが少しでも癒しになれば・・と思って、手を動かし続けた。


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1時間のマッサージを終えた。

着替え終わった彼女は、僕に笑顔で「最大限の賛辞」くれた。

それはもう、これ以上ないと言っていいくらいの褒め言葉だった。

素直にうれしい。

あのスーパーマッサージャーな彼女に喜んでもらえるなら、この道でも十分やっていける気がする。。

僕にとって彼女の言葉は、この一年の集大成にも思えた。


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ふとした時に、いろいろな人に囲まれて生きててることを実感する。

意識しないまま、すーっと流れてきた彼女との縁も、よくよく考えてみたら10年間って、なかなかだ。

彼女との出会いは、もしかしたらこの日のためにあったのかな。。


ありがとうステーシー。

100回言いたいくらいの気持ちを、3回だけ言葉で伝えて、

元気にクラスを出ていく彼女の背中を見送った。





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