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私たちの100円の寄付に本当に意味はあるのか。

年末にかけて活発化する、赤い羽根募金や歳末助け合い募金。
まちかどでふらっと100円を募金箱に入れてみて、ちょっといいことをした気分になる。はたまた、学校から配られた赤い羽根だけを、なんとなく名札に貼ってみただけ。

結局あの募金は誰のために、何のためにあったのかも分からないまま。
そんな人も少なくないのではないでしょうか。

そんな年末の募金が持つ意味から始めて、わたしたちの社会とお金の関係を今回は深ぼってみたいと思います。

『お金が貧困を解決する』それは本当か。

そもそも、なぜ年末には多くの寄付活動が実施されているのでしょうか。
ほとんどの企業や役所、公的機関の福祉機能はもちろんのこと、日払いの労働現場までも、年末年始には軒並み休暇に入ります。その結果、支援や仕事を必要とする方々にとって、この時期は非常に厳しい期間です。

とりわけリーマンショックの影響も重なった2008年には、日比谷公園で『年越し派遣村』という官民共同の支援活動も行われました。コロナ禍で経済が停滞した今年も、厚生労働省が各自治体に年末年始の臨時窓口設置などを呼びかけており、NPOなどの民間団体による食料配布や生活相談といった支援と共に、困っている方々の孤立を防ぐ取り組みが行われる予定です。

NO YOUTH NO JAPANの12月投稿でも紹介した通り、日本の寄付金は諸外国と比較すると極めて少額です。
2018年にイギリスのチャリティー団体CAFが発表したWorld Giving Index(世界寄付指数とも言われます)によれば、日本で過去1か月に寄付を行った人はわずか18%と、国際平均の29%を下回ります。一方、寄付大国と言われるアメリカでは富裕層を中心に超多額の寄付が行われています。寄付をする人の数や寄付金の多寡で一概に測ることはできませんが、日本では寄付を行うことが諸外国に比べて習慣化されていないと言えそうです。

ここで関連する問題として思い浮かぶのが、貧困の問題。
日本に貧困があるなんて、信じられないかもしれない。しかし、日本の7人に1人の子どもは相対的貧困*にあると言われます。

*相対的貧困とは
世帯の所得がその国の等価可処分所得の中央値の半分に満たない状態のこと。日本の場合、1人世帯では約120万・4人世帯では約250万以下で暮らしている家庭が該当。

この数字はOECD諸国の中でも極めて大きいもの。もし寄付が日本にもっと根付いていたら、このような状況はほんの少しでも、変えられるのかもしれません。(もちろん、市民任せにしない政治行政の対応が重要だということが大前提です)

でも、現実として貧困が解決しない理由はそれだけでしょうか。
寄付を必要とする人に、必要なお金やモノを届けるのは大切なことです。
しかし貧困とは、『金持ちはもっと寄付すべき』・『寄付さえすれば良いんでしょ』で済ませて良い、あるいは、それで解決する問題なのでしょうか。


『見えない貧困』がお金以外のものまで奪う

この違和感を探るひとつの手がかりが、『見えない貧困』という視点。

ここでいう「貧困」は、お金以外も問題となります。
見えない貧困とは具体的には、本や服など、物の所有が限られる『物質的貧困』、塾に通えなかったり、修学旅行に参加できないような『教育的貧困』、両親が朝晩問わず働いているなどの理由で、家族を含め人との繋がりに乏しい『つながりの貧困』などがあります。
スマホや自転車などは持っているし、週何回ものアルバイトや奨学金で学校には通えていて、一見「普通」に見えても、実は周囲からは「見えない貧困」の状態にある場合も少なくないのです。

7人に1人が貧困、という数字が多いと感じられるのであれば、当事者の努力で外からは見えづらくなっているからかもしれません。覆い隠していることと、それによる苦しみが続いていることは矛盾しないのです。

健全な繋がりや教育を経験できないと、自己肯定感が奪われ、誰かに助けを求めることが難しい立場に追いやられる。また、物を持たない子たちは、教育や繋がりの中で不利な立場に立たされる。
このループの中で虐げられた子どもたちは、学歴や就職でもより大きな困難に直面し、苦しい立場に置かれ続けます。こうした複雑な構造はただ見えにくいだけでなく、それが故に『見えない貧困』の存在自体が疑われたり、自己責任論に還元されてしまうことも少なくありません。更に、『見えている貧困』ではないために、長らく支援も届かない状態でした。

こうした複雑な構造が明らかになるにつれ、自治体による早期発見や国レベルでの社会保障制度へのアプローチの必要性も高まってきます。
では、わたしたち市民ができること、わたしたち市民の責任は何でしょうか。


分断と無関心の社会で、寄付がもつ意味

見えない貧困、とりわけ『つながりの貧困』は、言い換えれば、わたしたちが貧困に苦しむ人々から自分自身を遠ざけてきたり、社会の一員として関わろうとしなかったことにより生じた問題でもあります。
数年前、南青山に児童相談所を建設しようという動きに対し『港区の価値が下がる』という、偏見や誤解に基づく反対意見が出たことがありました。もし、わたしたちが同じ社会の一員として、児童相談所を必要とする人々と関わろうとする姿勢を見せていれば、こんなことは起きたでしょうか。

近年、わたしたちは似通った人々からなるコミュニティの中に留まり、分断されつつあると言われます。政治的思想・人種・ジェンダー・収入・ライフスタイル…。そういった要素で分断されたコミュニティの中にいると、わたしたちはその『外側』の人々に関心を抱かなくなります。
エコーチェンバー効果・フィルターバブルなどの言葉が示すように、こうした傾向はインターネット上にも現れます。誰と繋がるか選べるようになったということは、言い換えれば『誰と繋がらないか選べるようになった』ということでもあります。

そうした無関心が産んできた問題の一つが『つながりの貧困』であり、更にはそれに基づく 『見えない貧困』なのではないでしょうか。

このとき、わたしたちに求められるのは、問題を正しく認識し、関心を持つこと。
その時重要になってくるのは、寄付の金額の多寡以上に、『どれだけの人が問題意識と関心を持ってその問題と向き合うか』だと思います。そうだとしたら、『多くの人が少しずつでも寄付に関わる』ことで、目に見える形でその関心を示すことは、金額が劣るからと言って無意味とは言い切れないはずです。(実際、寄付とボランティアは、個人ができる社会貢献の両輪であるという主張もあるくらいです。)

同じ社会に生きる、わたしたちにできることを


ここで『寄付が正しい』『いや、繋がろうとすることが正しい』『その両方が正しい』等と言うつもりはありません。そもそも寄付をするよう強いる権利など誰にもない。
だからこそ、『わたしたちはどうしたいか』を考え、一人ひとりがそれに向けて行動する覚悟が問われているのだと思っています。
もし、あなたがたとえ無力でも貧困の連鎖を断ち切りたいと思うのであれば、わたしたちができる考え方は、『できる人ができるときにできるだけのことをする』ということではないでしょうか。

何も自分一人の暮らしで精一杯のときに、生活費を削ってまで寄付をする必要は無い。
同じ社会に生きる人々が抱える苦しみに関心を持ち、起こせるときに行動に繋げる。そこに、私たちが様々な人々と同じ社会に生きている意味があるのだと思います。

全世界がコロナ禍に見舞われた2020年、人との繋がりはオンライン上のものに姿を変えました。私たちNO YOUTH NO JAPANのメンバー一人ひとりも、今なお先の見えない感染症との付き合いの中で、オンラインを用いた新しい繋がりの形を模索すると共に、オフラインで会えることの大切さを身に染みて感じることがありました。

一方で、そんな人との強いつながりを得られない方も、同じ社会の中で生きている。そうした方が抱える問題への関心を積み重ねられるのは、わたしたち市民一人ひとりの数の力であり、それが生み出せる救いがあるかもしれないと思います。

こんな年の年末だからこそ、改めて人との繋がりの重要性と、それに関わる問題点を考え直し、わたしたちと同じ社会に生きる様々な立場の人に想いを馳せてもらえればな、と思います。

参考文献

NHK NスぺPlus『子どもに広がる「見えない貧困」』
https://www.nhk.or.jp/special/plus/articles/20170303/index.html

Charities Aid Foundation『CAF World Giving Index 10th Edition』
https://www.cafonline.org/docs/default-source/about-us-publications/caf_wgi_10th_edition_report_2712a_web_101019.pdf

Charities Aid Foundation『CAF World Giving Index 2018』
https://www.cafonline.org/docs/default-source/about-us-publications/caf_wgi2018_report_webnopw_2379a_261018.pdf

NPO法人Learning for All『「二人の高校生」特設サイト』
https://learningforall.or.jp/movie/

厚生労働省『平成29年版 厚生労働白書 -社会保障と経済成長-』
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/17/backdata/01-02-01-18.html

OECD『OECD 対日経済審査報告書 2017 年版』
http://www.oecd.org/economy/surveys/Japan-2017-OECD-economic-survey-overview-japanese.pdf

日本ファンドレイジング協会 事業紹介
https://jfra.jp/ltg/class

NHK『コロナ禍の年末年始 生活困窮者に住まいや食料支援』 https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20201221.html

共同通信『年越し支援「孤立防げ」コロナ禍、食や住まい確保』
https://this.kiji.is/715481626835927040?c=39546741839462401

(文=野口 俊亮)

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