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sang comme paris

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#家族

Sang comme paris Chapitre5

最後に喪主であるミッキーの挨拶になった。ミッキーは大柄で前に立つとなんだか迫力があった。「父は。」話し始めたミッキーの声は絶対に聞けないであろうとてもしおらしい声で、ミッキーは挨拶を始めた。

「父は本当に素晴らしい人でした。そして同時に私にとってあこがれの存在でした。穏やかで博識でそれでいて力強い父が大好きでありました。最後の任地から日本に戻ってきた父は痩せていてかつての力強さこそ無くなっていた

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Sang comme paris Chapitre4

式が始まった。喪主のミッキーが入ってくると、ひそひそ声がたくさん聞こえる。ミッキーは少し控えめなカツラに、シンプルな喪服。店で見たどのミッキーよりも化粧が薄く、ほとんど素顔に近い感じがした。しかし目だけは泣いた後を隠そうとするのか少し派手なように見えた。ゆっくりと参列者に向かいお辞儀をするミッキーの厳かさに、ひそひそ声もいったんやんだように感じた。

するとケイちゃんは「ちょっとトイレ」といいバッ

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Sang comme paris Chapitre 3

列が進むと「あっケイチャン。」と中年太りしたおじさんがケイチャンを見つけて前から歩いてきた。「誰ですか?」僕が小さな声でケイちゃんに聞くとケイちゃんは笑って「わからないのかお前、カナコだよ。」汗をハンカチで近づいてきたのはよく見るとたしかにang comme parisのホステスの中でおじさん人気No1のカナコ、彼女だった。お店にいるときはかかわいらしい服装で、ころころとよく笑うひとだけどこうして

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Sang comme paris Chapitre 1

その年の秋は、僕にとって、とても忘れられない小さな出来事が起こった。 それはうだるような夏が終わりすこし涼しくなり始めた頃、突然の訃報からはじまった。

     

改札を出ると、喪服をきた人たちがちらちらと目に入った。            知らない顔で階段を下りて駅前の喫煙所に向う。途中、僕も喪服を着ていたのでじろじろと見られる。歩きながらポケットを探ると煙草が切れていることを思い出して立ち

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Sang comme paris Chapitre2

お店の名は『sang comme paris』 フランス語の直訳で「パリは血」という意味だそうだ。オカマバーはこの街に一件しかない。しかももう8年も店を続けている。中は普通のバーと一緒でカウンターがあり、ボックスが何個かある。ホステスは常時4~5人いて、あとはカウンターでお酒を造るバーテンが一人いる。ママは基本カウンターの中にいて接客をしていることが多い。時々昔からの常連さんなどが来ると一緒にお酒

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