Sang comme paris Chapitre 3
列が進むと「あっケイチャン。」と中年太りしたおじさんがケイチャンを見つけて前から歩いてきた。「誰ですか?」僕が小さな声でケイちゃんに聞くとケイちゃんは笑って「わからないのかお前、カナコだよ。」汗をハンカチで近づいてきたのはよく見るとたしかにang comme parisのホステスの中でおじさん人気No1のカナコ、彼女だった。お店にいるときはかかわいらしい服装で、ころころとよく笑うひとだけどこうしてみると普通の人当たりがよさそうなおじさんだった。
しかしここではいつもの笑顔じゃなく少し目を赤くし「この度はご愁傷様です。」とぼくとケイちゃんに丁寧にお辞儀をしてまた汗を拭い、目をすこし抑えた。ケイちゃんと同じように大きなバッグをもったカナコは「またあとでね」とケイちゃんに目配せすると静かにどこかに消えていっていった。
列が少しづつ進むと横のガラス張りの喫煙所に背の高いモデルのような男の人がいた。とても綺麗な人で喪服がとても似合っていた。「おいあれ、ユウじゃないか。」ケイちゃんがその男の人の方に向けて顎をしゃくる。確かに言われてみればユウさんのようにも見える。ユウさんはsang comme parisで働いていたホステスさんで、とても人気があった。品があって、クールでまるでアニメのキャラクターのようだった。一時期店にはユウさん目当ての女性まで来ていたほどだった。ユウさんはsang comme paris初のママさんだった。半年前にミッキーから独立をしてもいいといわれ都会に店を出したのだった。長く美しい髪を結いあげ、首からちらりとタトゥーが見える。「ほんとですね、ユウさんも来たんですね。」「あぁ。店で忙しいと思うのに。あいつ」ケイチャンはユウさんと仲が良かった。ユウさんが店を出る『卒業パーティー』では店にいるにも関わらず男泣きしてしまい、それにつられてユウさんも地声で泣くほどだった。呟くと少しハンカチで目をこすった。
しかしこのまだ式の始まっていないいわば『幕前』状態で一番の注目を勝ち取ったのはang comme paris№1のミカだった。ミカは18の時に両親と喧嘩して家を飛び出して、繁華街をうろうろしていたところをミッキーに拾われこの世界に入った子だった。いわばミッキーの一番弟子。そんなミカは夜の先輩たちが『普通の』スーツで来ているのに対し、彼女は初めから『自分の服』で来た。彼女は黒の和服に髪型もきりりとしっかりと整えて、まるで映画かドラマのワンシーンのように綺麗に歩いて斎場にはいってきた。誰もが見惚れ一瞬時間が止まったように見えた。僕もぼーっと見ているとケイちゃんが呟いた「ありゃ相当辛いな。」「どうしてわかるんですか?」「みろ、いつものミカより化粧が濃いだろ。あいつミッキーと一緒で濃い化粧はしないんだよ。それが濃いってことは相当泣いたんじゃないか。」一回だけミっキーに聞いたことがあった。新年とお盆はミカと一緒に実家に帰るそうだ。「ミカは家族に認められなかったミカは、ミッキーのお父さんを本当のお父さんのように慕っていたらしいぜ」ミカは本当に綺麗に見えて、そして心から喪に服しているように見えた。
受付を済ませてホールに入り僕らは席に着いた。しばらくすると司会が出てきて落ち着いた声で式を始めた。
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