Sang comme paris Chapitre2
お店の名は『sang comme paris』 フランス語の直訳で「パリは血」という意味だそうだ。オカマバーはこの街に一件しかない。しかももう8年も店を続けている。中は普通のバーと一緒でカウンターがあり、ボックスが何個かある。ホステスは常時4~5人いて、あとはカウンターでお酒を造るバーテンが一人いる。ママは基本カウンターの中にいて接客をしていることが多い。時々昔からの常連さんなどが来ると一緒にお酒を飲む。繁華街と言われるほど盛んな街ではないけれど、やっぱり店柄上最初はそうとうは大変だったらし時々、その時の話を聞かせてくれる
僕が初めて行ったのは1年半前で、上司に連れられて行った。今までそういうバーにはいったことはなかったけれど不思議とバーの雰囲気とママの人柄にひかれて、それから徐々に毎週一人で通うようなった。
そんなミッキーのお父さんは、外交官でずっと現場で仕事をしてきた人だとミッキーから聞いたのを思い出す。2年前の赴任地で体調を崩して帰国してらはずっと入院生活をしていたらしい。
参列するだろうお父さんの仕事関係者を思い描きながら歩きながら僕はつい「みんな来るのかな。」と口に出して言っしまった。その言葉にケイちゃんは「実はな、ママから香典はいらないからぜひ来てくれって俺たち言われてんだよ」僕はすこし驚いてケイちゃんの方を見る。「お父さんに俺らの姿を見せたいらしい。お父さんすごく店に行きたがっていたらしいから」そういうとケイちゃんはにっこり笑い持っていた黒い大きめのリュックを指した。「もしかして、それって」「あぁ、いつもの仕事着さ」僕はびっくりすると同時になんだかおもしろくなりそうだと思い「いいね」と言って笑った。
そう話していると斎場が近くに見えてきた。
僕らは近くのコンビニで煙草を捨て駐車場に入っていく。
まだ時間まで30分以上あるのに、斎場の駐車場はもうすでにたくさんの車が止まっていた。『きっちり』と喪服を着た人たちが車から入口まであふれていいる列にならんでいく。僕らも半分濡れた体をぬぐいながら列に加わった。 みんな明らかに社会的には偉そうな人たちで、なんだか僕らは場違いな感じがしていた。僕はすぐに弱気になり、こんな人たちが来るなら時間をずらしてくるべきだったと少し後悔した。
ふとケイちゃんが「なぁ、俺たちオカマは田舎じゃ生きられねぇのかな。」とつぶやいた。僕は何も言えなかったけれど心の中ではミッキーがこの店にお店を開いた理由を思い出していた。もっと都会でお店を開けばいいのにと思い僕がなんでこの街なのと聞くと、にんまりと笑ってミッキーは答えた「父に来てほしいからよ。」
各地を転々とする忙しいお父さんはミッキーがお店を開いた時と同時に仕事でカナダに行ってしまった。「父はね。」お父さんの話をする時のミッキーはとても優しい目になる。「決して私の生き方を否定したり、隠そうとしたりはしなかったの。よくあるじゃない、『そういう』の特にああいう四角四面じゃないといけない仕事についてる人は」子どものセクシャリティを理解できず子どもと縁を切ったり、同性を愛するのは病気だと決めつけ無理やり変えようとする人もいるとはきいたことがあった。だけどミッキーのお父さんは一言「『わかった』、たったそれだけよ。ちょっと拍子抜けしたわ。」ミッキーが本当の自分をお父さんに教えたのは家を出る朝だった。本当は黙って家出をしようとしたけどそれはできなかったらしい「父の顔が浮かぶの。父が起きないうちに家を出ようと思って夜が明けないうちに出ようとしたけど無理だった、私が家を出た理由を知らなくて苦しむ辛そうな父の顔が浮かぶの。とうとう夜が明けても出られなかったわ。そのまま玄関で固まっちゃったの。」少し笑い遠くを見ながら話を続けた。「そうこうしているうちに父が起きてきちゃって。あの人朝が強いから寝ぼけていることなんか何にもないの。だからいつもと同じ澄んだ目で私を見て聞くの。『どこに行くんだ』って。」お父さんに見つかったミッキーは観念して全てを打ち明けた。「話している時、私はずっと父の顔が見ることができなかったわ。悲しむ顔を見て家を出たくなかったの。」話している間お父さんは一言もしゃべらなかった。ただ静かにミッキーの顔をみて話を聞いていただけだという。全てを話終えるとミッキーは恐る恐るお父さんの顔を見た。「怖かったわ。うちは小さい頃に母が亡くなってからずっと一人で父が私を育ててきたの。ああいう仕事だから任地が決まるとすぐに外国に行かなくてはならなくて、父は私を親戚とかに預けずに必ず海外へ連れて行ったわ。おかげで学校には行けずじまいだったけど、行く先々の国はとても楽しくて、日本に帰る時が来るとよく駄々をこねたわ。」少し笑いながら続けた「あの人は非常にまじめでとても世間からずれるような事をするような人ではなかったの。私はそれなのにこんなはみ出し者が生れてっていう罪悪感がとてもあったわ。打ち明ける前までは当然父に悲しまれて勘当されるると思っていたの。だってそれが普通だと思っていたから、それが世間の常識だと思っていたから。当然父もそうするだろうって。」ところがお父さんはわかったといいミッキーの家出を見送った。「それから私は色んな所に修業にいって今に至るって感じ。」と言いにっこり笑って話を締めくくった。
そんな話を思い出しながらも目の前に並んでいる人たちを見るとやっぱり不安になる。僕はいつもは笑って楽しくお酒を呑んでいるホステスさんたちが大好きだった。だからこそこんな人たちの無理解で傷つく姿をみたくないとおもっていた。しかしこの後僕と悲しい予想をはるかに上回る出来事が起こった。
その驚きを僕は今でも忘れない。
斎場内にちらほらいた、一目でわかる夜の住人たちは、皆なんだかこれから何かが起こるとわかっているようでそわそわしていた。
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