ヒーローになりたい
今回は私が尊敬する辻村深月先生のデビュー作『冷たい校舎の時は止まる』を語ろうと思う。本当に大好きな作品だ。
私が初めてこの本を読んだのは2年前のの秋ごろ。今日が2度目の読了となった。同じキャラクターで同じストーリーなのに、感じることの量が前回とは桁違いだった。そういう面でも、辻村先生の作品は本当に驚くことばかりだと実感する。
まず、この本の1番の良さは脇役が1人もいないことだ。校舎に閉じ込められる8人の高校生全員が、多かれ少なかれ想いを抱えている。自分のことも、他人のことも。それらを心の中の冷たい校舎の中に閉じ込めているのだ。高校生の話だが、中学生の私が共感できることもある。例えば、充くんの「明るい絶望」。充くんほど深いものではないが、私も薄っぺらな優しさを使ってしまうことがあるから、はっとした。こんな気持ちが生まれるから、進学校の秀才軍団が一気に近く感じられるんだな、と思う。
この本の良さ2つ目は、菅原 榊があまりに良い人すぎるところだ。序盤はただの単細胞の不良だと思ったのに、まさかこんなに友達思いだったとは…(笑)。個人的には「ー俺は逃げない。」が1番刺さった。そして、「ヒーローになりたい」という亡きヒロちゃんの願いを金色のピアスとともに継いでいく彼の姿がかっこよかった。
この本の良さ3つ目は、読後感が爽やかなところだ。最後に亡き春子が鷹野に微笑むシーンが本当に好き。深月を傷つけ8人と読者たちを敵にまわした春子だが、彼女だって若くして命を失ってしまった1人の女子高校生なのだと実感する。春ちゃんは本当に深月とやり直したかったのではないか、と思うのは私だけなのかな。
ーーごめんね、みづき ーーみづき、ゆるしてね
きっとあそこで春子が出てきた理由は、深月が彼女を許したからだ。手首と心に穿たれた傷跡を抱えながらも強く生きようとする深月がたまらなく愛おしかった。
辛い時間を乗り越えれば、きっと白い光が私たちを包んでくれるはず。冷たい校舎の中で親友たちとホストと過ごした8人が、これからも誰かにとってのヒーローになれますように。そう願いながら本を閉じた。
私も辻村先生のようなヒーローになりたい。