ハートフル ドライブ
当時名前も知らなかった伊坂さんのこの作品を手に取った理由。パッと思い浮かぶのは、表紙にすごく惹かれたことだ。かわいい緑色の車と「本小説は車が主人公です」という文字。気づいた時には伊坂さんと緑デミの虜になっていた。
この本の一番面白いところはやっぱり車どうしの会話だと思う。
「ワイパー動くよな。」 へえ、興奮するとこう言うんだ!
「ブレーキペダルとアクセルペダルが逆に取り付けられているかのようなやつだな」 確かに、極悪人を例えるのにはいい言葉かも!
他にもミスター・タンクローリーの伝説や貨物列車のコンテナのご利益など、読んでいて思わずクスッと笑ってしまうようなものがたくさん散りばめられていた。
車に劣らず楽しめるのは緑デミを取り囲む人間たちの魅力。サバサバしたお調子者の母・郁子、家族との距離は遠めだけどちゃんと自分を持っている姉・まどか、鈍感でお人好しな兄・良夫(グッドマン)、誰よりも大人な弟・亨。凸凹がぴったりハマったような望月家は私の憧れだ。人間味あふれる玉田憲吾も個人的にすごく好きなキャラクター(笑)。
そして最も伊坂さんのセンスが光ったのはエピローグ。
「『あの緑の車はどうなったの?』と、みんなに思い出してもらえる存在になれたんだね。おめでとう、緑デミ!」
彼にそう言ってあげたくなった。翠ちゃんが車の言葉を理解できるという驚きの展開も結構好き。
ハートフルなドライブのように、軽快で温かい一冊だった。というわけでこの感想文も、「お、し、ま、い」。