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【エッセイ】両親と寿司屋へ行った話。
私が小学5年生の頃「寿司屋」へ行った。
特に何かお祝い事があったわけではない。
ただその時に「寿司屋」へ行ったのだ。
その「寿司屋」は、よくあるチェーン店の回転寿司ではなく、およそ中級くらいの「回らない寿司屋」だった。
時刻は夜の10時ほど。
外は既に真っ暗であり、空には黄色く輝いた月が、あたり一面を照らしていた。
「寿司屋」までは車で20分ほどの距離だ。
家は車を持っていなかった。
そのため、家の近くで母がタクシーを呼んだ。
母と2人でそのタクシーに乗り込んだ。
タクシーで移動するのはワクワクした。
私にとってはちょっとした旅行に行くようで、
家の近所から離れる「非日常」も感じた。
母は助手席に座り、
私は後部座席に座った。
私は眠い目をこすりながら母と時折会話をし、ビュンビュンと通り過ぎる外の景色を眺めていた。
ウインカーの「カチカチカチ」
という音が車内に響く。
その音がとても心地よかった。
私たちを乗せたタクシーが「寿司屋」の前で止まった。
母が料金を精算したあと、
2人でタクシーを降りた。
「寿司屋」の前では、
先に向かっていた父が立っていた。
父は顔が赤くなっており、
お酒を飲んでいたように思う。
そこで一言二言、父と言葉を交わし、
そのまま3人で「寿司屋」へ入った。
--
私の記憶はここで途切れている。
確かに私たちは「寿司屋」へ入って、
寿司を食べて帰ったのは間違いない。
しかし、この場面だけが切り取られたようにまるで記憶にない。
その後に覚えていることは、
「寿司屋」から出てタクシーに乗って帰宅した。
ということだけだ。
--
今でも不意に思い出す。
父と母と私の3人で「寿司屋」へ入った。
そこで寿司を食べた。
そして帰宅をした。
私はこの出来事が嬉しかったのだ。
寿司を食べたことを全て忘れてしまっても、
今でも昨日のことのように、
しっかりと私の脳裏に刻まれている。
つづく。
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