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大塚邦明『時間治療/病気になりやすい時間、病気を治しやすい時間』

☆mediopos3698(2025.1.3.)

「時間治療」という
聞き慣れない言葉を目にした

病気には「なりやすい時間」と
「治しやすい時間」が存在する

ヒトには「生体リズム」と「体内時計」が備わっていて
それらが健康と病気に重大な影響を及ぼしていることから
注目を集めているのが「時間治療」だという

脳の視床下部とよばれるところに
体内時計があることが発見されたのは1972年のこと
その後1997年には体内時計の細胞中に
時を刻む遺伝子(時計遺伝子)があることが発見された

「生体リズム」とは宇宙的リズムを背景に
体内時計が調節している血圧や自律神経等の体のリズムのことで
その代表的なものが「サーカディアンリズム」
(約24時間のリズム/概日リズム)である

病気が生じやすいタイミングとして
「朝」(心筋梗塞・脳梗塞・くも膜下出血・不整脈)
「月曜日」(狭心症)
「冬」(心臓死)などがあったり
脳出血や心臓性急死にみられる約1.3年のリズムがあったり
薬が効く時間や効かない時間があったりすることからもわかるように

生体リズムが乱れると健康を害する引き金ともなるため
そのリズムの視点を生活改善や薬物治療などに活かすという発想が
「時間治療」で

規則正しい生活とバランスの良い食事というような
あえて教えられなければならないようなことではない
極めて常識的な視点だともいえるのだが

たとえば「眠らない社会」というような
現代における仕事や生活の変化は
生体リズムに不調をもたらさざるをえないのは確かである

2006年にはそれが「社会的ジェットラグ」と名づけられたそうだが
そうした用語をつくりそれに対する治療という視点を
導入しなければならないということそのものが
現代人の病の様相を表しているともいえる

人にはそれぞれ長年続けてきた生活習慣や食事があり
「正しい」からといって
いきなり変化させようとすると
それまでにかろうじて保っていたバランスさえ
失ってしまうことにあるだろうから
一般的な「正しさ」は必ずしも
その人にとっての「正しさ」とは限らないところがあって難しい

しかし少なくともヒトには
「生体リズム」と「体内時計」という
生物体ならではのリズムと時間があることを
意識しておくことは必要なのではないかと思われる

最後に一点
本書の最後に時間治療においては
腸内細菌叢のはたらきが注目されていることを加えておきたい

脳が第一の脳と呼ばれるのに対し
腸は第二の脳と呼ばれるようにもなっているように
腸と脳は双方向コミュニケーションをとりながら
身心の健康を維持しているからである

頭で思考していると錯誤している人は
じぶんが腸でも思考しているということを
(さらには四肢や各種臓器や血液なども)
イメージしておいたほうがいいかもしれない

頭だけで思考していると妄想している人にこそ
「時間治療」の視点が求められるともいえる

■大塚邦明『時間治療/病気になりやすい時間、病気を治しやすい時間』
  (講談社ブルーバックス 2024/12)

**(「はじめに」)

*「病気には「なりやすい時間」と「治しやすい時間」が存在するのですが、それはなぜでしょうか?

 そのカギを握っているのが、「生体リズム」と「体内時計」です。私たちの体には、よく知られているように約24時間の「サーカディアンリズム(概日リズム)」が備わっていますが、じつはこれ意外にも、7日のリズムや1年のリズム、あるいは1・3年のリズムといった、さまざまな生体リズムが存在しています。そのリズムを刻一刻と刻んでいるのが体内時計です。

 病気になりやすい時間と治しやすい時間が存在することは、これら人体に備わる複数の生体リズムが、健康と病気に重大な影響を及ぼしていることを意味しています。そして、生体リズムと体内時計に基づく新たな標準医療として注目を集めているのが、本書のテーマであるである「時間治療」です。」

**(序章 体を守る「体内時計」、病気をもたらす「時差ぼけ」)

*「体内時計によって刻まれる「体の中の時間」に注目し、「薬の効果を高める治療」を工夫することが求められるようになってきています。そして、体内時計のしくみに基づき、従来よりも効果の高い治療を目指す治療法は、「時間治療」と呼ばれています。

・序・1 「体内時計」の発見

*「私たちヒトを含む、地球上のすべての生物の体内に、生体リズムとしての時を刻む時計が備わっています。
 体内時計はなぜ必要なのでしょうか。
 それは、私たちの体にさまざまな生体リズムが存在するからです。(・・・)
 ヒトはもとより、他の動物や植物にも、それぞれの環境や生体に応じた生体リズムが備わっています。それらを適切に機能させるためには、体内時計を通じて〝時刻〟を知っておくことが必要不可欠なのです。」

*「現在では、体内時計は「昼夜交代する地球環境を予知し、これに適応し、種を保存するために欠かすことのできないしくみである」と考えられています。」

・序・2 ヒトの体内時計はどこにある?

*「ヒトの体に体内時計があることが発見されたのは、1972年のことです。私たちのそれは、脳の視床下部とよばれるところに存在していました。」

「その視床下部の中にある左右一対の、米粒のような細胞の塊が、ヒトの体内時計でした。その発見から25年が経った1997年には、体内時計の細胞中に時を刻む遺伝子(「時計遺伝子」とよばれています)が存在しており、正確に時を刻んでいることが発見されました。」

・序・3 体内時計を惑わす時差

*「海外渡航による時差は、体内時計を狂わせる大きな要因を生み出しました。」

「外的脱同調は、体内時計を狂わせてしまいます。血圧や心拍のリズムは、すぐに海外の生活リズムに順応できますが、体温や排便のリズムは、新たな生活リズムに順応するのに1〜2週間かかります。その結果、出発前に日本での生活時間に適応して体内時計が調整していた体温や血圧、自律神経やホルモン、睡眠・覚醒などのリズムのシンフォニーが、新しい環境下ではバラバラになってしまいます。このような現象を外的脱同調に対して、「内的脱同調」といいます。
 内的脱同調が起こると、疲労感や睡眠障害、頭痛は吐き気、便秘や胃のもたれといった症状が現れ、仕事の能率が上がらなくなってしまいます。これが「時差ぼけ」です。」

・序・4 体内リズムとは

*「体内時計が調節している血圧や自律神経等の体のリズムのことを「生体リズム」といいます。
 約24時間のリズムが生体リズムの代表です。たとえば、就寝時間や起床時間など、体のリズムは24時間を基本としつつも、日々少しずつ異なるのが通常です。そこで、24時間(ラテン語で「一日」を表す「ディアン」)の前に「約」(ラテン語で「一日」を表す「ディアン」(同じくラテン語で「サーカ」)をつけ、「サーカディアンリズム」(約24時間のリズム、あるいは「概日リズム」)と呼んでいます。」

「先ほどの時差ぼけでみたような体内時計の乱れの主役は、「位相のずれ」です。
 位相とは、振動や音波のような、同じ運動が周期的に繰り返されるときの波形全体を指す言葉です。体内時計に基づく生活時間でいえば、その波形のずれが体内時計をかき乱すことになります。」

・序・7 「社会的ジェットラグ」とはなにか

*「仕事や生活のエレクトロニクス化による「眠らない社会」は、生体リズムにも大きな影響を与えています。なかでも、明るいディスプレーを見つめ続ける長時間のパソコン操作や、夜遅くまで明るい照明の下での長時間労働は、生体リズムに不調をもたらします。これが「社会的ジェットラグ」です。

 社会的ジェットラグは、2006年に名づけられた言葉です。」

・序・8 社会的ジェットラグがもたらす健康被害と時間治療

*「社会的ジェットラグが生じると、健康に大きな害をもたらすことがわかっています。」

「社会的ジェットラグがあたりまえのようになってしまった現代人には、体内時計が乱れていることを自覚して、それを効率よく調整する工夫が必要です。

 サーカディアンリズムの乱れを治す時間治療の基本は、生活治療です。
 まず、朝に光を浴びることが生活治療の第一歩です。光を浴びることで、サーカディアンリズムの位相を移すことができるからです。朝は、深部体温が最低値になる位相の後の時間帯です。朝に浴びる光は、サーカディアンリズムの位相を前進させます。一方の夕刻は、深部体温が最低値になる位相よりも前の時間帯であり、夕方に浴びる光はサーカディアンリズムに位相を後退させます。」

・序・9 運動は「朝」がおすすめ

*「サーカディアンリズムの乱れを治す生活治療の2つ目は、眠りのホルモン「メラトニン」への配慮です。」

「たとえば、夕方の薄暮のころにメラトニン製剤を投与すると、サーカディアンリズムの位相は前進する一方、早朝にメラトニン製剤を投与すると、サーカディアンリズムの位相は後退します。」

*「3つ目は運動です、運動にもサーカディアンリズムの位相を移す働きがあります。朝の運動はサーカディアンリズムの位相を前進させる一方、夕方から夜遅く(いつもの眠りにつく時間の前頃の時間帯)に運動するサーカディアンリズムの位相が後退することが知られています。」

・序・10 「いつ食べるか」で生活習慣病を改善する

*「「いつ食べるか」でサーカディアンリズムの振幅が変化し、生活習慣病が改善されます。」

・序・11 「食事のリズム」に関係する遺伝子

*「「いつ食べるか」に加えて、「どのくらい食べるか」を考慮すると、また違った時間の効果が現れます。」

「食事のリズムに関係する時計遺伝子としては、Per1とPer2、Cry1とCry2、細胞核内受容体のRev-erbαなどい関与が指摘されています。一方、Bmal1は昼間に消費したエネルギーを夜間に回復する役割を担っており、Rev-erbαとともに代謝の恒常性維持に重要な時計遺伝子ですが、食事のリズムには関係していないと考えられています。Bmal1に異常があっても食事のリズムはほぼ正常に生み出され、食事のリズムの合わせて血管・心臓・肺などの時計遺伝子のサーカディアンリズムも正しい時を刻んでいるからです。
 リアルワールでは「何を食べるか」よりも、まずは「いつ食べるか」に注意すること、そして規則正しい食生活が肝要です。」

**(第1章 病気になりやすい〝魔〟の時間があった!
   ——時間を考慮した治療はなぜ重要なのか)

*「病気には、病気になりやすい〝魔〟の時間があります。たとえば、心筋梗塞や脳卒中は朝の発症率が高いことが、よく知られています。
 しかし、病気になりやすい〝魔〟の時間は朝だけではありません。朝は約24時間のリズム、すなわちサーカディアンリズムに基づくものですが、じつはそれ以外にも、約12時間のリズム(夕方に増える)、約1週間(7日)のリズム(月曜日に増える)、約1ヶ月のリズム(1週目に増える)、約1年のリズム(冬に増える)に加え、さらにトランスイヤー(約1・3年)のリズム(年を越して、梅雨頃までの季節)等に基づくものがあるのです。
 すなわち、病気になりやすい〝魔〟の時間帯は単一ではなく、多重に見られる現象ということになります。」

*「ミネソタ大学のハルバーグ教授は、ヒトの体内時計が発見された1972年以来、各種の病気に現れる〝魔〟の時間、すなわちリズムに注目し、投薬時間を工夫して治療の効果を上げようという「時間治療」を提唱してきました。病気が起こりやすい時間帯に集中して薬剤を十分に投与すれば、それだけで治療効果を高めることができるからです。」

**(第3章 時間治療を理解するための基礎知識)

*「時間治療はまず、一つ一つの体内時計が、24時間社会においてどのような影響を受け、どう変化しているのかを調べることから始まります。次に、私たちの体に宿る多様で多彩な体内時計の相互連携が、うまく維持されているのかどうかを読み解いていきます。その連携にほころびがみられる時間帯が存在しているのであれば、素時間帯こそが、病気になりやすい「落とし穴」です。

 時間治療とは、「生命r環境との相互作用の力学」を解読する、グローカルな(遺伝子・細胞レベルから個体までを、一瞬から永年を、地域から地球規模を考慮した)治療法です。

**(第9章 時間治療が切り拓く「新しい標準医療」)

*「近年、プレシジョン治療(精密治療)という言葉を耳にするようになりました。
 プレシジョン治療は、従来の科学的根拠に基づく医療(EBM)のように、ある母集団で実施した検査が、平均値から大きく離れていれば健康度に異常があると考え、それを追跡調査で確認していくという手法とは根本的に異なります。患者さん個々人のゲノム、トランスクリプトーム(メッセンジャーRNAの総体)、エピゲノム、マイクロバイオーム、メタボローム、プロテオームなど、健康に強く影響する要因に実態を個別に精密に診断し、その結果に基づいて最適の治療を目指すという取り組みです。」

「時間治療こそ、プレシジョン治療そのものです。時間治療をこれからの「新しい標準医療」として確立すべく、可能なかぎり効率よく、低価格で実施していくことができるよう工夫することが重要な課題となっています。その前提として、時計遺伝子レベル、細胞レベル、組織や器官レベルで、各部位の体内時計を正確に、かつ連続的に観察することが求められます。」

・9・2 腸内細菌を時間治療に活かす

*「プレシジョン治療の確立に向けて、腸内細菌叢(メオクロバイオータ)のはたらきに大きな期待が寄せられています。」

*「マイクロバイオータは、また、脳の視交叉上核(親時計)とたえず交信しています。
 腸には、「第二の脳」という異名があり、「小さい脳」とよばれることもあります。」

「腸と脳の対話には、腸内細菌のはたらきが欠かせません、脳(第一の脳)と腸(第二の脳)と腸内細菌は、自律神経(迷走神経という副交感神経)を介して双方向にコミュニケーションをとっており、三位一体となって、嫌みや抑うつ気分、もの忘れや意思を調整して、私たちの身心の健康を維持しているのです。」

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