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小堀哲夫『建築家のアタマのなか』

☆mediopos3660(2024.11.26.)

建築に実際に関しては
ほとんど何も知らないに等しいのだが
なぜか建築に惹かれる

生まれ変わったら建築家
そうでなければものをつくる職人になりたい
そう思ったりもする

ほとんど妄想に近くもあるのだが
「建築」の極北にあるのは
生死を超えた〝場所〟で
じぶんという宇宙をつくることではないかと
空想を膨らませることもある

その宇宙を
「私」という魂のかたちとして
設計し建築するためにこの地上に生まれ
学ぶ必要があるということではないか・・・

そんな空想になにがしか
示唆を与えてくれることを期待しながら
小堀哲夫『建築家のアタマのなか』を見つけて読む

まったく存じ上げなかったのだが
小堀哲夫は日本を代表する2つの建築賞
「日本建築学会賞」「JIA日本建築大賞」を受賞した方だという

その「アタマのなか」は
どうなっているのだろうか

著書のなかから
その基本的な「発想」を拾い出してみることにする

まず建築とはなんだろうという
もっとも基本的な「発想」から・・・

〝箱〟だけではなく
〝場所〟であることが重要だ

「〝場所〟は建築の中だけにあるのではな」く
「その建築の存在によって場所が新たに生みだされる。」

〝場所〟をつくろうとする建築家にとっては
「空想する力」が大切だという

しかし「空想だけでは建築を建てることはできない」から
次に「観察する力」が必要とされる

とはいえ「じっと対象を見ればいいのではな」く
「観察とともに身体を、手を動かすことが大事」である

「手を動かしながら感じ、ものを通して自分自身と対話する」

そのなかで好き嫌いをいわず
「ひとまず〝食べてみる〟」こと

観察する対象が変化することもふまえながら
「対象への自分なりの解釈を増やしていくこと」も大切である

そして「私」だけではなく
他者の「空想」と対話させそれを重ねるていくことで
「私」に戻ってくるインスピレーションを得る

「すべての人の正解を追求」することが重要なのではない
それでは「単調になり、逆につまらなくなってしまう」から
「自分はどう感じるのか」から空想を膨らませていく

形ばかりに固執し
お茶を飲むための器をつくろうとするのではなく
「建築はおいしいお茶を飲むための器をつくっているのだ
ということを、忘れてはいけない。」

最初の「空想」の話に戻るが
じぶんという宇宙をつくるためには
じぶんをどのような〝場所〟にしたいかが重要になるだろう

「すべての人の正解を追求」しようとすれば
既製品のような「形」になってしまう

じぶんが「おいしいお茶を飲む」ためには
どのような〝場所〟でありたいかを問わなければならない

それが他者にとっても
あらたな創造的な〝場所〟になっていれば
それに越したことはないだろう

いま生きているこの時空においても
やがて訪れるであろう死後の場所においても同様に

■小堀哲夫『建築家のアタマのなか』
 (幻冬舎 2023/10)

**(「はじめに」より)

*「建築は楽しい。毎日、建築を設計しながら、心からそう思う。

 しかし、建築は難しいと思っている人も多いようだ。建築家になるには特別な能力が必要なのではないか、とも思われている。

 では、建築家にとって、最も大切な能力とは何だろう?人をあっと驚かせるような発想力?それとも、デザイン力?

 確かにそれらの能力はあるに越したことはない。しかし、もっと大切なことがある。それは目の前の世界に気づき、身体全体で感じる力だ。それを僕は観察する力と言っている。なにも特別な場所に行く必要はない。何気ない暮らしのなかで触れるもの、経験することに大きなヒントがある。

 建築のヒントはそこかしこにある。それをどう拾うか、どう感じるか。誰にどう思われるかなんて関係ない。素直に感じればいい。それが、すべての発想のもとになる。

 僕の父は大工だった。かんなで木を削り、黙々と建てていく。その姿をよく側で見ていた。小さい頃に育った岐阜の実家も、父が建てたものだった。60年ほど経って床や大黒柱は黒光りし、畳に寝転がると、天井の杉の木目が飛び出してきそうで怖かった。室内は薄暗く、庭に目をやると、木々の葉が雨上がりに陽光の下でキラキラと輝いていた。その場所は、僕の原風景だと言っていい。今でも、時折その時の身体的な感覚を思い出すことがある。

 これまで、僕は大学の校舎やオフィス、旅館など、さまざまな建築を設計してきた。「ここに、こんな光が入ると気持ちいいだろうなあ」と考えるときも、不思議と子どもの頃に体感した感覚を追っていたりすることがある。

 大学生になったとき、建築家を目指して東京に出た。小さな田舎の町から出れば、もっと大きな感動があると思ったからだ。

 しかし、一年で東京からわざわざ、岐阜の山を登るようになった。東京に来れば何者かになれるのだと思ったけれど、そうじゃなかった。岐阜にいるときには、目の前のものを観ていなかったのだ。顔や性格が一人ひとり違うように、自分が心地よいと思える感覚も人それぞれだ。一人ひとりの居場所を見つけられる建築をつくりたいと、僕はいつも思っている。そのためにも、いろんな場所、建築を体験しておきたい。

 だから僕はまず、行動する。必ずしも遠くに行く必要はないんだ。

 近くの気に入った場所を何度も訪れることもある。朝のさわやかな光、茜色に染まる夕暮れ時。同じ場所、同じ時間でも、季節が変われば、まったく違った表情になる。そうやって、日常の何気ない体験が自分のなかに刻まれていく。

 自然や気候風土、土地の歴史、デザイン、技術など。建築には、さまざまな要素がある。だからこそ面白い。しかし、忘れてはいけないのは、建築の中にいるのは人だということ。建築の色や形ではなく、空間の中で行われる出来事、体験も大事なのだ。

 本書では、僕が小さい頃から現在に至るまでのアタマのなかで考えていることを話していきたいと思う。学生時代に夢中になった山登りの話など、一見建築とは関係ないように思えるものも多い。

 しかし、そんなところにヒントはたくさん隠されている。自分の好きなことから、発想を広げていけるんだ。

 なんだか建築は楽しそうだ!読み終わったときに、そう思ってもらえたら幸いである。」

**(「第1章 建築家が空想する」〜「」より)

・箱と場所

*「僕には建築は、建物など外側の〝箱〟だけではなく、〝場所〟であることが重要なのだ。」

・建築家の仕事は場所をつくること

*「〝場所〟は建築の中だけにあるのではない。建築の外、その周辺やもっと広い範囲で町や都市の中にも、その建築の存在によって場所が新たに生みだされる。」

「大事なのは、建築の中にも都市の中にも、自分の居場所を見つけられることだ。大勢でいてもいいし、一人でいてもいい。その建築があることで、あらゆる人の救いになるような場所ができることを僕は願う。
 そうやって、地球上のどこでも人々の居場所になれば、それがいい建築や都市になるということだ。」

・空想する力

*「建築家にとって大切なのは、空想する力だと僕は思う、建築家の仕事とは空想を原動力に、みんなの思いや願い、夢をカタチにしていく仕事だ。」

**(「第2章 スケッチブックを携えて世界を観察する」〜「」より)

・中庭と白昼の光

*「中庭は、中庭という機能のためだけに存在するのではない。中庭は光を受けとめる器だと思った。中庭が見えないことで、光そのものの存在をより感じられるのだ。
 見えないからこそ見えるものもある。光と影の存在にも近い。光は影と同時に存在するから互いの存在に気がつくことができる。」

「光はどこから来るのか。
 人間は、本能的に光を探す。光は闇があるから感じられる。」

・空想の次に大切なもの

*「空想はとても大切だ。しかし、空想だけでは建築を建てることはできない、では、次に必要なのは何か。それは、観察する力だ。」

・観察とスケッチ

*「母は僕の才能を見つけて、伸ばしてくれた天才だった。
 もう一人、尊敬してやまない観察の天才がいる。ルネサンスの偉大なる芸術家レオナルド・ダ・ヴィンチだ。彼は、僕が理想とする建築家であり、類いまれなる観察眼をもっていた。正当な教育を受けてはいないが、画家・彫刻家として活躍する以外にも、機械を発明したり、都市計画や土木技術者として活躍したりするなど、ルネサンスを代表する「万能人」だった。」

・卓越風

*「観察をするのはなにも見ることだけではない。全身で感じ取ることで知るものもある。僕はいつも自然との対話で特にそれを感じる。
 僕の建築では、特に風は重要な要素だ。」

「風については、「卓越風」という名前があることも知った。夏はこっちから、冬はこっちからというように季節によって風の向きが異なる。調べてみると、山のある位置、川の流れる位置、さらに谷や海の位置など、周りの周辺環境によって風の向きが決まっている。」

・観察から生まれるもの

*「人、街、光、自然。さまざまなものの観察を続けていくと、自分のなかに直感やひらめきが生まれる。それらが空想にリアリティを与え、現実との架け橋となってくれる。そのためには、フィールドサーベイや観察が不可欠だ。」

「僕が大事にしている観察はただ、じっと対象を見ればいいのではない。観察とともに身体を、手を動かすことが大事だと考えている。」

・ひとまず〝食べてみる〟

*「直感やひらめきを得るためには、自身のデータベースを増やしていくことが大切だ。
 僕はまず、好き嫌いは言わず、なんでも〝食べてみる〟ようにしている。いろんな場所を訪れ、いろんなものを見てみる。それは建築だけに限らない。アートも見るし、いろんな文化も体験する。
 最初に否定してしまうのはもったいない。まずは否定せず、いろんなものを飲み込んでいく。そうすると、「これはちょっと苦いな」とか「これは意外と好きだな!」というふうに自分のフィルターを通して考えることができる。」

・観察は変化する

*「観察の対象は、本当の小さなことから、自然のような大きなものまでさまざまだ。そして観察する対象によっては時間や季節でも変わる。」

・概念の幅を広げる

*「観察をするうえで、対象への自分なりの解釈を増やしていくことも大切だ。」

**(「第3章 「私」から、「私たち」へ」〜「」より)

・私から、私たち、そして私へ

*「建築をつくるということは、「私」の空想から始まり、やがて「私たち」(建築を取り巻く多くの人々)の空想が重なっていく。そして最後は、インスピレーションとして「私」に戻ってくる。その他者との関係の連続性の中に、答えとなる建築はあるのではないかと思っている。」

**(「第4章 木と石、風と水、職人たちとの対話」〜「」より)

・手でつくる対話

*「自分自身とものとの対話。だけど、言葉に置き換えてしまったとたん、頭で理解してしまってはよくない。ものをつくるには、手を動かしながら感じ、ものを通して自分自身と対話する必要がある。」

・風景をつくる建築

*「人はどんなに風景の美しい場所であっても、そこに何もないと美しさを感じにくい。しかし、そこに建築ができることによって、「光はこんなふうに変化するのか」「こんなに風が気持ちよく感じられるおか」と、その場所を理解できることがある。」

「建築とは風景を認識させる装置なのだ。それに気づいたとき、とても興奮したことを覚えている。」

・かたちのないものをつくる

*「建築はすべての人の正解を追求すればするほど単調になり、逆につまらなくなってしまうと感じている。多数決で選びでも、いいものはつくれないのだ。ではそこには何が必要か。誰かが良いと言ったかではなく、自分はどう感じるのか。そんな空想を膨らませていくのかである。」

「建築家がお茶のおいしさを考えずに器をつくろうとすると、形ばかりに固執し、かっこだけのものをつくってしまう。建築はおいしいお茶を飲むための器をつくっているのだということを、忘れてはいけない。」

・空間について

*「建築を勉強すると空間という言葉がよく出てくる。
 空間ってどういうこと? 何もない空気がある場所? お釈迦様のように手のひらでも空間ということができる。建築においては、僕が考えるに空間とは建築物を容器としたときのその中にことを指す。」

**(「第5章 心地よい居場所を探して」〜「」より)

・〝らしさ〟とは何か

*「〝らしさ〟なんて無理に追わなくていい」と言いたいのだ。一人ひとり違うのだから、空想を馬鹿馬鹿しいと否定せず、膨らませていけば、自ずと自分にしかできないものができるはずだ。」

・一人になる時間

*「最近は、SNSやゲームなど暇つぶしのものがたくさんある。しかも街にいると、一方的に情報が流れてくる。」

「そんな時代だからこそ、僕はいったん情報を遮断し、一人になる時間が必要だと思う。一人の時間とは、自分と向きあう旅のようなものだ。」

「ものづくりの根源となるのは、自分自身が身体で感じた僅かな感覚、感動、違和感であり、その体験は誰にでも平等にあるはずだ。一人の時間をつくり、それを丁寧に拾い上げ、耳を傾けていきたい。」

・ちょっと移動してみる

*「僕は回り道、寄り道をしてもいいと思っている。いや、むしろしたほうがいいとさえ思っている。」

「僕は、居心地がいいと思える席は自分で探すものだと思っている。最初から自分にぴったり合う席に出会うなんてことは、そんなにないのだ。」

「自分の個性を活かすためにも、「ここじゃない」と思ったら、今の場所から移動していくことが大事だと思う。自分の居場所は自分でつくるしかない。」

・空想力の鍛え方

*「空想力は誰にでも備わっている力だと思う。それをどう鍛え、発揮するか。別に建築でなくたってもちろん構わない。」

「物事は意味を求めてしまうと、一気につまらなくなることがある。」

「空想力を鍛えるためには、自分を信じることも必要だと思う。」

「もしも空想が浮かんだら、それをまずは信じてみてもいい。空想が現実となるには時間はかかるかもしれないが、その時は必ず来ると信じて、否定することなく、温めていくことが大切だと思う。」

・大切なのは〝答え〟よりも〝問い〟

*「みんな答えを求めがちだが、実は本当に大切なのは〝問い〟のほうなのだ。」
 物理学者のアルベルト・アインシュタインも「大切なのは、問うことをやめないことだ」と言っている。」

「そのためには、当たり前のことを当たり前にとらえないことが大切だ。「みんながやっているから」「常識的にそうだから」と無意識に受け入れてしまうのではなく、問題意識をもって物事を見て、「本当だろうか」と問うてみる。それが自分ごとにするということだ。」

**(「「おわりに」より)

*「建築家の仕事は、空想をつくり出すことだ。
 不安定で正解のない今の世の中で、生き抜いていくために最も必要な力が空想だと僕は思う。
 空想力はすべての原動力となる。」

「空想とは、想定外の考え方と表現してもいいだろう。
 想定した自分の枠を超える力となってくれるのだ。」

○小堀 哲夫(こぼり・てつお)
建築家・法政大学教授。1971年、岐阜県生まれ。2008年、株式会社小堀哲夫建築設計事務所設立。日本建築学会賞、JIA日本建築大賞、Dedalo Minosse国際建築特別賞など、国内外において受賞多数。代表作品に「ROKI Global Innovation Center –ROGIC-」「NICCA INNOVATION CENTER」「梅光学院大学 The Learning Station CROSSLIGHT」「光風湯圃べにや」など。その場所の歴史や自然環境と人間につながりを生む新しい建築に取り組んでいる。

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