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『MONKEY vol.25 特集 湿地の一ダース』

☆mediopos-2531  2021.10.21

『MONKEY vol.25(FALL/WINTER 2021-22)』の特集は
「湿地」(の文学)というかなり変わった特集

巻頭の柴田元幸「猿のあいさつ」で
「馬車」を意味する英語には階層性があるが
「湿地」「沼地」のそれには階層性がほとんどない
という興味深い話があった
その単語は特定の地域がむすびついていて
それらを総称的に表すものがないというのだ

そして湿地が意味するのは
「百パーセント陸地ではないし、
百パーセント水域でもない、曖昧な場所」

そんな場所は
「自分と他者、生と死、過去と現在等々の
境界線を曖昧にすることを得意とする、
文学という営みと親和性が高い」という
それゆえに組まれたのが今回の特集

そういえばじぶんの性格や性向は
ある意味「湿地」的かもしれない

白か黒かというのは避けたい
白でも黒でも灰色でもないというのも同じ

なにかにカテゴリー分けされるような
そんなありようから自由でありたい
良く言えばすべてにおいて
「中」という「動的平衡」に
みずからの位置を置きたいと思っている

いろんな考え方を理解するために
哲学書や科学書なども目を通しはするけれど
そういう論理や理論や図式などで
世界が白黒されたりすることにうんざりすると
ポエジーの世界へと遊ぼうとするのも
境界性があいまいで自由を手放さないでいられる
「湿地」的な場所に身を置きたいからだ

ちなみに野山の生物などを観察するようになって以来
植物や昆虫たちの宝庫である湿地帯に
魅力を感じるようになっている
湿地帯がその生命を失うとき
笹原などになってしまったりすることで
そうした生きものたちが見られなくなるのは残念だ

「湿地」という
境界にしか存在できない場所がなくなったとき
人は白黒灰色といった世界でしか
生きられなくなってしまうのかもしれない

PS
湿地という言葉からすぐに連想したのは
ドイツの詩人、ドロステ=ヒュルスホフの
「沼の少年」という少しばかり思い出深い詩だが
この特集でドイツロマン派が
とりあげられているわけではなく
これはあくまでも個人的な回想メモ
柴田元幸のとりあげる外国の作品は基本的に英語圏

■『MONKEY vol.25 特集 湿地の一ダース』

(柴田元幸「猿のあいさつ」より)

「英語では「馬車」を意味する言葉が形状別に何十とあります。大英図書館ウェブサイトの受け売りですが、ジェーン・オースティンはしばしば馬車を使って人物の地位や野心を伝えます。」
「それに比べ、「湿地」「沼地」を表すさまざまな語同士の、階層性がほとんどないことの爽やかさ。「川」を意味する語はいろいろあっても(stream,brook・・・)まずはriverという総称がどん!と構え、「湖」もやっぱりまずはlakeに代表されるのとは違い、bog,marsh,swamp・・・等々「湿地語」はいかなる総称にも回収されず、おのおのの独自性を静かに表明しています。
 それぞれの語がどう違うのか簡単に記述した「湿地語小辞典」(78ページ〜)でもわかるとおり、それら湿地語はたいてい、特定の地域と結びついています。fenはイングランド、swampはアメリカ深南部、evergladeはフロリダ・・・・・・乱暴な想像ですが、世界各地で、「あすこらへんの、じめじめ/どろどろ/びしょびしょ したあたり」を言い表す言葉をそれぞれ作っていくなか、riverやlakeに相当する地域を超えた総称的単語に吸収されても不思議はなかったのに、幸いそうはならず各自の独自性が保たれた・・・・・・そんな感じでしょうか。
 百パーセント陸地ではないし、百パーセント水域でもない、曖昧な場所。そうした湿地の曖昧さは、自分と他者、生と死、過去と現在等々の境界線を曖昧にすることを得意とする、文学という営みと親和性が高いのではないか。(・・・)泥炭が取れ、ミイラが出てきたりするアイルランドの沼地がまず頭に浮かび、そういえばアメリカ南部のワニや蛇がうようよいる沼を奴隷が逃げていく話もあったなあと思い、日本の作家なら誰が独自の湿り気を作り出してくれるだろうかと考え・・・・・・その結果、さまざまに湿った場所がそれぞれの湿り気を発散しつつ響きあい、呼び交わしあって、手前味噌ですがなかなかユニークな〈猿の〉
一ダースが出来上がったのではと思います。」

(「文―柴田元幸/絵―しりあがり寿:湿地語小辞典」より)

「bog/湿地・沼地を広く言い表す語だが、特に、植物が多く含まれる地層から成り、海綿状(spongy)とでもいうほどの水はけの悪い土地を指す。」

「everglade/「通例 丈の高いスゲの類の草が点在し、季節によっては水面下の没する」(リーダーズ英和辞典)たぐいの湿地。特にフロリダ南部の大湿地帯の一部はEverglades National Park(エバーグレーズ国立公園)となっていて生態系の保護に努めている。」

「fen/特にイングランド中東部の沼地を指す語。」

「marsh/「年間を通じて排水が悪く、定期的にあるいは間欠的に冠水し、ところどころに水のたまりが口をあけているような低い土地を指す。[・・・]ここは主として鉱質土壌(mineral soil)から成る。」海辺にあるmarshは水が塩分になることも多く、これはsaltmarshと呼ばれる。」

「mire/「特に人が呑み込まれたり、はまり込んだりする沼地的な(boggy)場所」」

「moss/一般的には「苔」の意だが、主としてスコットランドでは「沼地」「泥炭地」の意にもなる。」

「aquamire/quagとmireが合体して出来た、文字どおりにも比喩的にも「泥沼」を意味する語。」

「slough/「泥でぬかるんだ場所、特に道路などにできた穴で、泥水がたまっていて車や馬などでは通れないところを指す」」

「swamp/アメリカ、特にアメリカ南部とイメージ的に結びついた語であることは否めない。swamp rockといえば1970年ごろの南部の泥臭いサウンドを指し(・・・)」

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