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峰不二子みたいなセンパイ

昔まだ若かった頃、メーカーからある会社に転職した。
何故なら、お給料を倍以上くれると約束してくれたからだ。

若かりし日の私は、日々、頑張っても頑張っても「女性だから」との理由で頑張る女性が報われない、当時の会社のいろんな理不尽にモヤモヤしていた。
(今となってはそれだけが理由ではないと思えるが、なにぶん当時、私はまだ若かった。)
 だから、憧れの企業から転職オファーがあった時は、2つ返事で飛びついた。

転職先の会社は、女性がイキイキと働く職場で、とても活気があった。若くてキレイな女性が多くて眩しかった。
ただ、自分の頭上にはくす玉があり、毎月自分の頭上でくす玉が割れる会社だった。

その中でもひときわ輝き、一番目立っていたのは、峰不二子そっくりのボディと華やかさを持つ、魅惑の「S様」である。

そう、社内全員が「様」という敬称をつけるのが当たり前になる、そんな風貌、いや、美貌なのだ。
ピンヒールにピタッとしたスカートのスーツで颯爽と歩く。
男性社員はきっと皆、S様のヒールに踏みつけられたいんだろうな、なんて、ぼんやり思って見惚れてた。

そんなある日、そのS様と私が北村一輝激似の支社長に呼び出された。
北村一輝は、私たちが支社長室に入ると、いきなり数万円を渡し、「今からこのお金で好きな水着を買って来なさい。」と。

なんでも、今度東京のホテルで創立○○周年パーティがあり、支社毎の出し物の劇の中で、私とS様には水着着用で重要な役回りを担って欲しい、との事で。

(水着着て出し物って、今の時代では信じられないセクハラ&パワハラだけど、当時はそんな事も明るく引き受ける事が働く女として当たり前の対応のような、そんな時代だった。)

な、何百人の前で、み、、水着、、、。
しかも、峰不二子ばりのナイスバディのS様の隣でだと、、、、。
入社して間もなくで、浮かれて、頭の中にたくさんのお花が咲き乱れていた私の頭上に、バケツ一杯の水をかけられたかのような気持ちになった。そう、「ひょうきんベストテン」の懺悔室のように。。。


思いっきりブルーな顔をしていた私に、「どうせなら、自分じゃ買えない様なめちゃくちゃ高い水着買っちゃおうよ!」と、私の肩をポンポン叩いて、S様は優雅に微笑んだ。


私は気を取り直して、めちゃくちゃ高く、そして派手派手しい黄金虫色のハイレグ気味の水着を、S様はカッコいい、黒い、正真正銘の思いきりの良いハイレグ水着を購入し、当日に挑んだ。


当日はと言えば、○周年パーティ会場の舞台の上で、男性社員達がいろんな苦行に挑む出し物をする中、私たちはドラえもんの様に次々と水着の胸元の谷間(※)から、「タバスコ〜!」とか、「輪ゴム〜!」とか言いながらそれらを出していくという、本当に今思うとあり得ないほど下世話な内容の出し物で。
(※注1:谷間があったのはS様だけ、、涙)


気が重く、当日は知恵熱のようなものが出ていたのに関わらず、私はパーティの間中、ヒールにハイレグ水着でずっと微笑んでいた。
立食パーティーで、シャンパンなんて飲みながら。
そう、水着で。
なんでこんな事やってるんだろう、、と自己嫌悪に陥りながら‥。


 時は流れ、Facebookにて、S様と再会した。
S様は、相変わらずの美貌で、相変わらず峰不二子だった。
(そして私はと言えば、ドラえもんのようになっている、、。)
きっとS様は日々の努力も欠かしていないはず。
そう言えば、一緒に出張に行った時、S様は、ホテルでずっとスクワットをしていた。
美は1日にしてならず、である。


あれからお互い転職し、S様は東南アジアのとある国でお店を経営する女性実業家になっていた。現地のメディアに引っ張りだこで、やはり眩しい人のままだった。


久しぶりに話した内容は、やはりあの日のパーティの話。なんで私達は、水着は嫌です、と言えなかったのか。拒否するという事を思いもしなかったのか。
女性の営業が、営業していく為には、色々拘ってたらなんにも前に進まなかった時代だから仕方ないよね、ってS様が呟いた。


でも。
今もまだまだだけど、その当時と比べたら、社会はだいぶ良い方向に意識が変わったな、と思う。

「でも、まっ、めっちゃいい水着買って貰えてよかったよね。」

屈託なく、S様が笑った。
峰不二子みたいな、不敵な笑みで。


 今でも、うちのクローゼットの中にあるアルバムには、社員一同がスーツでかしこまる中、何故か私とS様だけがハイレグ水着で微笑む、会社時代の集合写真が貼ってある。

恥ずかしくて、決して息子達には見せられぬシロモノだ。

#バブル期
#水着
#峰不二子


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のうこ。
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