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空と君のあいだに(2022/5/22 #リーディングエクストロメ 福島にukkaが出演した話)

(※以下の文中、敬称略で失礼します)

土曜日の陽気からは一転、日曜日の明け方、いわき市内には冷たい雨が降っていた。

鼓動

タイトル未定というグループに、『鼓動』という曲がある。
2020年12月、活動開始から1年に経たないタイミングでリリースされたこの曲は、まだグループとしては知名度が高いとは言えない中、2021年のアイドル楽曲大賞で第6位を獲得した。
緻密なリズムと、メンバー各々の声の個性が立った優しくも力強い歌声と、そして曲全体に感じるスケールの大きさと、それはたとえば、グループの活動拠点である北海道の大地を体現しているかのようにも聴こえる。
全国各地のフェスなどにも、北海道から積極的に遠征して参加しているそうで、いまでは身の回りでも少しずつ話題に出す人が増えているグループのひとつとなっている。
『鼓動』『夏のオレンジ』などは、フェスや対バンでも、セトリの核として代表的な曲となっているようだ。

エクストロメとukkaと

今年も、いわゆる”楽曲派”と称されるアイドルグループが、一堂に会する野外ライブイベント「リーディングエクストロメ」が、福島で行われることとなった。
「エクストロメ」でおなじみの顔ぶれに混じって、今年はukkaの名前も入っていた。

エクストロメ。もともとは、”IDOL EXTREME TERROR”という、ディスクユニオン主催のアイドルイベントが、出演したアイドルの言い間違いにより、そのまま改称したものだという。
エクストロメの顔=主宰の小林さん(こばけん)が、2015年の第1回からは足かけ7年、こうした大きめのフェスから数十人規模の小さめの箱での対バンから、多くのイベントを続けている。
7年となると、ちょうどukkaの結成からの歴史とほぼ同じということになる。
ライブハウス歴が長くない自分でも、新宿LOFTやら渋谷Asiaで、開演前に聞こえてくる、どこかまったりとした、こばけんナレーションを聴くと、何か「エクストロメに来てるなあ」という気になるもの。

ukkaにとっては、エクストロメは、2020年12月のMIGMA SHELTERのリリース(対バン)イベントに、ゲストで招待されて以来の参加となる。
ただ、ゲストではなく、こういったフェス形式で「エクストロメ」に出演するのは初めてとなる。

2日間総勢29組のグループは、それぞれ楽曲の方向性も結成時期もキャリアもバラバラだけれど、「なにかしら音楽で変わったこと面白いことやってる」という意味で、最先端のグループが揃っているフェス、だと思う。
現体制がまもなく終わるグループ、メンバーの輪廻転生を繰り返しつつ音楽性を都度変えているグループ、あるいは、コロナ禍でライブシーンが難しい局面にもかかわらず、覚悟をもって新たに結成されたようなグループもあり。
その中に、やや「異物感」があるようにも思えるukkaのブッキング、当日は一体どういうステージが待ち構えているのか。何かしらの化学反応は起こるのか?

声出し

5月に入り、世間の実勢にも応じて、一定のルールのもと、マスクをしたままの歓声やコール等の声出しも可能にするとの発表が主催者から出された。


野外フェスということで、決められたエリアからなら、ステージ正面に向かって以外の方向(自分の足元や、まわりの森)に声出しがオッケーとのこと。
どうやら、昨年もほぼ同じルールで行われたらしいけれど、マスク越しに声出しをするオタクは、それほど多くなかった模様で、大きく話題に取り上げられることもなかったように思う。

それにしても「左右の森」に向かってのコールって?

誤解を恐れず、あえて踏み込んだ言い方をするなら、ukkaは、アウェイのライブでも、コールやペンライトの力をかりずとも客席を自分たちのに染められる力が強く、その意味では、スターダストのグループの中で「どこよりも耐久力が高い」と思う。
ノイズになるようなコールは入らない、からコロナ禍でいろいろな逆風にもかかわらず、ここまでたどり着けた。

…けれども、エクルトロメで、うるさがたの観客も数多くいる中で、さて、いったいどんなふうになるんだろうか?

天変地異

夜明けとともにいったん止んだと思った雨は、オープニング時刻の10時に近づき、また降り出した。
午前中は、そのまま小雨と曇りとを行ったり来たりして、どうにも「ぐずついた」としかいいようの空模様。

薄手のジャンパーを羽織りながら、リンワン(Ringwanderung)のステージを見つめる。
昨日に比べて、会場には、およそ2倍あるいは3倍の観客はいるだろうか? 
『パルス!』で、古今東西の呪文を、ありえん速さのBPMでメンバーが歌うのにあわせて、会場中が両手を頭の上から必死の形相で振り下ろす振りコピ。
強引な祈祷の効果があってか、どうにか雨は止み、晴れ間が出てきたようだ。
とかく山の天気は変わりやすい。

お昼過ぎ、そんなところを直撃した大きな揺れ。
ステージでは、衛星とカラテアのパフォーマンスが続いていた。下から突き上げる揺れの中、一斉に観客のスマホから不気味に流れる緊急地震速報のアラーム…にもステージ上の音楽は止まらない。

揺れは、幸いにして一回だけでおさまったけれど、野外フェスの醍醐味をいやでも感じられた、波乱の2日目幕開けだった。

今日のアンセム

午後になって、ようやく晴れ間をのぞかせる空。
ukkaの二組前、NUANCE(nuance)がステージに立った。
まだコロナウイルスなんてものが姿も形もないころ、『タイムマジックロンリー』で一気に突き抜けたnuance。
コロナ禍の最中、元メンバー4人のうち2人がグループを抜けて、この4月からは新体制5人で再出発を切っている。

ごくごく個人的な話だけれど、自分はnuanceに出会うのが遅すぎたと思っている。
2021年12月に初めてnuanceを観た身にとっては、かつてはアナログレコードで『タイムマジックロンリー』が発売されたんだよとか、TBSラジオのアトロク(アフター6ジャンクション)で宇多丸が取り上げて話題になったんだよとか、もう大昔の話にしか感じられない。

久しぶりの声出し現場、コロナ禍前から活躍しているグループは、ファンが集まって、古のmixを森に向かって絶叫している。
前日のtipToe.しかり、そして今日のNUANCEしかり。

『sanzan』で、とても頭でっかちなmixを知人と打ってみた。
そんなものあるなんて思ってもいなかった、鬱屈した思いが自分の中にもやっぱりあったことを、その時はじめて感じた。

川井わかが、半ば絶叫のように客席を煽る。
最後の曲は『sky balloon』
年初に発表されたばかりのこの曲は、まるで今日のこの日・この空気を待っていたかのよう。
ステージと会場が一体となって、空に両手が突き上げられる。

いま聴きたい曲、いまだからこそ演奏されたい曲を”アンセム”と言うのならば、この時間この場所でのアンセムは『sky balloon』だったのだと思う。

高速クラップの『タイムマジックロンリー』も、加速クラップの『セツナシンドローム』も、5人の表情がそれぞれはっきりとわかった『ミライサーカス』も、とても楽しかった。
これらの曲も、あるいは、今日はセトリに入らなかった『雨粒』も、全部がNUANCEの代表曲だけれど、たまたま、ここ福島の青空で選ばれる”アンセム”ではなかったのかもしれない。

この空が青いのは

ukkaの出番は、16:35。当初の予定よりも5分遅れ。
晴れ渡った空は、すっかり濃い青色を帯びている。

木々にこだまするように、静かなovertureとともにukkaのステージが幕を開けた。
それは、NUANCE、クマリデパートの直前のステージでの喧騒を静かにかき消すかのように。
コロナ禍の最中、2年前の夏からライブ冒頭に流されるようになった弦楽器の奏でる低音は、いつだって、ライブの雰囲気を一変させてくれる。
昨日までは、その儀式には、声はもちろんのこと、クラップの波も、観客が身体を揺らす波も起こらない。
そう、昨日までは。

待ちきれずに、静寂の中、メンバーの名前をステージではない方向へ向かって叫ぶ客席。
呼応して次々に投げ込まれる声。
1曲目の立ち位置に立った村星りじゅが、笑いをこらえきらずに少しだけ肩を揺らす。
初めて自分の名前を呼ばれた結城りなが、少しだけビクッと驚く。

やさしくギターのカッティングの音色がイントロで流れはじめる。
『灼熱とアイスクリーム』だ。
新体制になって、確かはじめての披露だ。
福島から、今年の夏が始まった。

00. overture
01. 灼熱とアイスクリーム
02. グラジェネ
03. ウノ-ウノ
04. それは月曜日の9時のように
05. ニューフィクション
06. キラキラ

MCや自己紹介はなるべく省き、楽曲の繋ぎや連続した動きで、一連の流れとして聴かせる見せるグループが多い中、今日のukkaは、あえてMCで間を置いた。

「皆さん、こんにちは、ukkaです」
「川瀬あやめです」「芹澤もあです」「結城りなです」「村星りじゅです」「茜空です」
「皆さんの声が、もう最初からすごくって。もうびっくりしちゃった」
「声出しオッケーですけど、あくまでもルールの範囲でお願いしますよ。森に向かって、ね」
「(コロナ禍の最中に加入した)りなは、自分のコール受けたことないでしょ。お客さんに森の方に向かって名前呼んでもらおうよ」
「せ〜の」

「こんな声人生で聞いたことないです」
「いや、私たちも7年やってるけど、こんな感じの声は聞いたことないよ(笑)」
「ま、じゃあ行きますか?行けますか?」

ゆるいコール&レスポンス。
そうだ、そうだったよな。こんなんだった。

30分の持ち時間なんてあっという間、きっとどこかで『リンドバーグ』はセトリに挟むんだろうなと思っていた。
2018年、各方面から評価されて、多くの人にとっては「桜エビ〜ず(ukka)といえば」この曲と、想起する代表曲のひとつ。
コールも振りコピも、なんなら往時はリフトモッシュまであった曲は、ここにいるうるさ方の観客は、たぶん殆どが知っている曲なんじゃないか?

大団円に向けて、計算されているかのように、もうひとつの代表曲『それは月曜日の9時のように』が流れる。

その時、ふと、関係者通路の方を見ると、ステージ衣装を既に着て、じっとステージを見つめるアイドルがひとり。

タイトル未定の川本空だった。

4月に初ステージを踏んだばかりの新メンバーで、未経験ながら、加入が決まったあとの1ヶ月で歌もダンスもなんとか覚えた、というツイートが流れてきたのをおぼろげに覚えていた。

その後の怒涛の遠征スケジュールの中で、もしかしたら縁もゆかりもない福島で、ステージを見ているなんてことは、ほんのちょっと前までは想像もつかなかったかもしれない。
あるいは、ここが福島なのかなんて、意識する暇もないのかもしれない。

川本空が立っているその姿は、アイドルのステージが純粋に好きだからというようにも、そこから何かを学び取ろうというようにも、あるいは自分が何分後かに立つステージの空気を吸っておきたいというようにも見えた。

ステージでは、ukkaの最新曲『ニューフィクション』が流れる。
うつろいながら、流れていく不思議な歌詞の中に、唐突にスピードを上げる世界観。
いつしか、誰かが煽っているわけでも、示し合わせたわけでもないのに、加速クラップが響いていた。
クライマックス、茜空のロングトーンが、左右の森をかき分けて、向こうに見える海にまで届いていく。
曲は唐突に止まる。夢うつつは終わる。

持ち時間としては、おそらく、あと一曲だろう。
イントロで、聴きなれた電子音が流れる。
『キラキラ』だった。

♪ 壊せ物語を
キラキラ - ukka

コロナ禍の2年間、もしかすると僕らは与えられた物語を受け止めることに慣れすぎてしまったのかもしれない。
サブスク、配信ライブ、ワンクリック。

そんなことが脳裏に浮かんだとき、思いがけず前方エリアに駆け出している自分がいた。

♪ 何度でも 何度でも
♪ 立ち上がれ 歌え 声を上げ 響け
キラキラ - ukka


何度も聴いてきた茜空のロングトーンが、音楽堂の天井を飛び越えて、すっかり晴れ渡った空、上方に響き渡る。
ゆっくりマイクを離し、気持ちよさそうに初夏の空気を吸う茜空。
曲はやがてアウトロに。後ろから、マスク越しにまだ弱々しい「ウォウォッウォウォ」のシンガロングが、でもはっきりと聞こえる。
今日この場所で見たかった風景、聴きたかった歌声。

5月5日、ワンマンライブの最後のサプライズとして、今秋のメジャーデビューが発表された。
7年目での念願がかなった直後、そのことを発表したレーベルの社長が「リクエスト」した曲は『リンドバーグ』だった。

♪ この空が青いのは
♪ 君のためなのさ
リンドバーグ - ukka

ホールの中からは直接見えることのない青空、それは、誰のためでもなく、いつだって平等にそこにあるもの。
でもきっと、誰一人として欠けても「空が青い」ことは成り立たないから、いつどんな場所ででも「君のためなのさ」と歌ってくれる彼女たち。

あの瞬間、メジャーデビューへ向けて、歩を進みはじめた彼女たちから、
この場所に至るまでに関わったすべての人たちへ。

空は今日も青かった。
『リンドバーグ』は、5月21日のセットリストに含まれなかった。
今回残念ながら出演できなかった葵るりも含めて、またこの場所に戻ってきてほしい。
そして、そのときは、真正面を向いて、ステージに全力で声を届けたい。

♪ 呼んでおくれよ 僕の名前を
リンドバーグ - ukka

「以上、ukkaでした。ありがとうございました」
「ばいびろーん」
…に、間髪入れず、芹澤もあ推し+αのドス声「ばいびろーん」がかぶさる。

うん。これだよな、これ。

薄明光線

ライブの余韻も冷めやまぬ中、ステージから少し離れたところ、池のほとりでukkaの特典会が行われた。

テントの向こう側で、出番じゃないメンバーがTikTokをキャッキャ言いながら撮っている様子が、多くのアメンボがいきかう水面に映し出される。
すっかり夕暮れ時に近くなった中で、森に覆われて夕陽がどこに見えるのかもわからない。
ただ、雲が少しだけ赤く染まっているのから、夕陽が西の空に落ちていく時間帯だということだけがわかる。

少し離れたステージからは、タイトル未定の曲が聴こえてくる。

特典会の開始を待つ茜空が、ひとり曲に合わせて、軽くブーツのつま先を地面にコツコツとリズムを取っている。
曲がゆっくり止まるとともに、頭を上げて、軽くステージへ向かって拍手を送る。

池とステージをバックに撮影。
自分の順番となった。

まさにその時、ゆっくりと『鼓動』のイントロが流れはじめた。

この曲の歌い出しは、さっきまでukkaのステージをじっと見つめていた川本空のソロからはじまる。

♪ 傘をさしてたこと
♪ いつからか忘れてた
鼓動 - タイトル未定


気がつけば、やっぱりステージに向かって駆け出している自分がいた。

冷たい雨が降りつづけた2年半。
さよなら。

ばいびろーん。

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