のだめと、志のぶと、ダメママと。 《泣きたい夜は漫画を読もう》
生きていると誰にでも、大なり小なり大変なことや辛いことが起こるわけですが、それを笑いに変えてしまえる人って素敵だと思いませんか?クラシックをテーマにした音楽コメディ漫画『のだめカンタービレ』の作者、二ノ宮知子さんは、私の中でまさにそんな人。
二ノ宮さんの作品を知ったのは、札幌で暮らしていた大学時代、NHKで放送されたドラマ『農家のヨメになりたい』(深田恭子、中村俊介出演)を観たのがきっかけでした。農家の後を継ぐことにした元彼を追いかけて、都会から秩父の農村にやって来た主人公が、大騒動を繰り広げるというラブコメディー。その原作が、二ノ宮さんの漫画『GREEN〜農家のヨメになりたい〜』だったのです。
登場人物たちの言動があまりにも愉快で、二ノ宮さんのギャクセンスの虜になった私は、続いて『のだめカンタービレ』の世界に足を踏み入れました。自由奔放だけどピアノの才能だけはピカイチの“のだめ”と、指揮者を目指す完璧主義なエリート音大生“千秋”を軸に、音大生たちの恋や音楽への情熱をコミカルに描いたこの作品。
ドラマ化、映画化、アニメ化された作品なので詳細を書くまでもありませんが、爆笑コメディなのにね、時々すんごい哲学に触れてしまったような発見や驚きがあるわけですよ(昔読んだ二ノ宮さんのインタビューで、漫画家になる前は小説家になりたかった、と書いてあった気が)。ふざけているようで真面目。そして、何かに夢中になっていた時の情熱をよみがえらせてくれる。小学生の頃から金管バンドや吹奏楽に没頭し、「コントラバス奏者になりたい」と音大を目指した時期があった私は、すっかり“のだめ沼”にはまっていきました。
オーケストラの演奏シーンがたくさん出てくる『のだめカンタービレ』の音楽監修は、中高生の頃に愛読していた本『オーケストラは素敵だーオーボエ吹きの楽隊帖-』や『オーケストラ楽器別人間学』の著者で、元NHK交響楽団首席オーボエ奏者の茂木大輔さんが担当されていたわけですが、その茂木さんが《生で聴くのだめカンタービレの音楽会》を企画されたと知った時には、すぐさまチケットを取り、兵庫芸術文化センターまで足を運びました。(確かその時、二ノ宮さんも同じ会場に来られていたはず…!)
今年は、連載開始20年を記念して、兵庫芸術文化センターほか、サントリーホールでものだめ関連のクラシックコンサートが開催されるようで、日本に住んでいたら絶対行ってたな〜!行きたいな。
さて、二ノ宮さんは2人の男児を育てるお母さんでもありまして、過去には子育てや家族の話を『おにぎり通信 〜ダメママ日記〜』(全3巻)というエッセイ漫画にして発表されています。こちらも発売と同時に購入し、何度も読んではお腹を抱えて笑っていたわけですが、実際に自分が男児の母となってからは、共感したり参考にさせてもらったり。どんな育児書よりも元気が出る1冊として、いつもそばに置いてあります。
世の中には「子どもが大好き」「子育ては天職」「子どもとの時間が楽しくて仕方がない」という人もたくさんいると思いますが、私は昔も今も、どちらかと言うと子どもが苦手で、彼らの底なしのエネルギーにとてもついていけません。現在も毎日やんちゃ盛りの3歳男児を前に、アップアップしているダメママです。
息子が毎日お決まりのように「保育園イヤ」「お風呂イヤ」「ご飯イヤ」と言う時には、いつも『のだめカンタービレ』に登場した音大ピアノ科の落ちこぼれ専門教師、谷岡先生の名セリフを思い出し、大共感しているのであります。
私の場合は「やる気のないこどもに、やる気を出させるほど、やる気のある親じゃないんだよ」ですけどね。ごめんよ、息子。母ちゃんは今、最低限のお世話をするだけで精一杯なのだよ。
5月末から3週間、3年ぶりに一時帰国することになった日本では、そんなダメママである自分とあらためて向き合うことになってしまいました。未だにその疲れをひきずっているのは、年のせいでしょうか?韓国生活5年目にして初めて、ついにまっずい(そしてバカ高い)韓国の漢方「韓薬」の世話になり、心身の回復に努めているところなんですが。とにもかくにも、今のこの複雑な気持ちを正直に書き留めておいたほうがいいと思い、今回1つのエッセイにまとめてみました。
WEBマガジン『Stay Salty』不定期連載エッセイ
オンマと呼ばれる日々
第3回『3歳の君と日本に帰って』
タイトル、『ダメママ、日本に帰る』とかにした方が良かったかな。編集記者時代、「タイトル、もっとキャッチーなの考えて。100個くらい」と言われたのが若干トラウマになっていて…っていうのは半分冗談ですが、WEB上にはびこっている「釣るタイトル」みたいなのは、なかなか書けないんですよねえ。センスなくて。
さてさて、話を戻して。海外在住の本好きな方にはわかってもらえると思いますが、「日本に行ったら図書館でいっぱい本を借りるぞー!」と楽しみにしていたんですけどね。結局図書館には2回しか行けず、しかも借りたのは、暇を持て余していた息子のための絵本だったという…。
だから読書はほぼできなかったけれど、その代わり息子が寝た後は、ずっと気になっていた日本のドラマ『最愛』や『TWO WEEKS』を観たり、本屋で人生初の漫画全巻大人買いをしたり…!(最愛、良かったー!役者の演技もストーリーも、宇多田ヒカルの挿入歌も全部)
韓国まで大切に持ち帰ったその漫画とは、二ノ宮知子さんの『七つ屋 志のぶの宝石匣』。東京の質屋で生まれ育ち、石の気が見えるという特殊能力を持つ高校生の“志のぶ”と、幼い頃に突然質屋に預けられ、志のぶの婚約者として育てられた宝石外商の“顕”。この2人を取り巻く様々な人たちのドラマがコメディタッチで描かれたこの作品は、サスペンス要素もあり、先が気になる気になる!
もともと宝石に全く興味がなくて、婚約指輪も、結婚指輪もいらないと言った私でしたが、この漫画を読んでいると、宝石って宇宙の神秘を見せてくれるものなのかなって。親や義母からもらったわずかな宝石や、実家に眠っている宝石たちを一度全部志のぶちゃんの質屋に持っていき、鑑定してもらいたい。そして、ぜひともイケメン顕ちゃんに会いたい。
(それにしても、のだめカンタービレの千秋といい、顕ちゃんといい、二ノ宮さんの描く男性主人公はちょっと俺様なんだけど、偉そうに言えるだけの努力をしてるし、料理上手だし、面倒見がいいよね。かっこいいわ〜)
で、韓国人の義母からもらった宝石というのは、確かダイヤだったと思うんですが(覚えてないのかよ)、結婚前、私と義弟の妻に、義母は突然2つの宝石を見せ、「これは私が義母からもらった指輪なんだけど、あなたたちにあげる。長男の嫁(私)から選びなさい」と言ったんですね。
すると、当時すでに嫁歴10年だった義弟の妻が、「お義母さん、私がお嫁にきて以来、こんなことしてくださるの初めてですよね〜!」と、さらっと笑顔で嫌味を言ったのです。「わー!10年も経つとこうなれるのか〜。すげー!」とすっかり感心した私は、まずエメラルドだったか(やっぱり覚えてない)色のついた石を手にしましたが、私の太い指にはとても入らず。ダイヤの方は何とか薬指に入ったので、「じゃあこちらで」と一件落着。その指輪、日本で家族だけの結婚式を開いた時、たった一度つけただけで、今はタンスの肥やしになっているんですがね…。
話があっち行ったり、こっち行ったりしちゃいましたけど、家の中も世の中も、毎日明るくない出来事が多く、「なんだかなあ」という日々を過ごしているのは私だけじゃないはず。そんな時は、新しいものに手を出すより、昔から好きなものの力を借りようと手にとったのが、『のだめカンタービレ』をはじめとする二ノ宮知子さんの作品たちでした…というお話を書きたかったのでした。以上。みなさん、良い夏を!