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犬猿〜湯水の行水〜


原作 田辺一邑  脚本 梵天彪雅



1573年12月22日
鳥居四郎左衛門の陣

治助『鳥居様、成瀬様が山縣隊に深く入り込み討死されたそうでございまする…』

鳥居四郎左衛門『あの阿呆、、、死んでどうする……死んでは勝負にならんであろう……
いや、これは、ワシへの度胸試しか!』

治助『……鳥居様、そのお身体で何処へ(いずこへ)、、、周りは敵で囲まれておりまするば、、、』

鳥居四郎左衛門『鳥居四郎左衛門忠広は生涯の好敵手、成瀬藤蔵正義だけを地獄に逝かせるような漢ではごさらぬ!』

鳥居四郎左衛門『敵も聞けい!味方も聞けい!天下に名だたる武田の赤備えが敵1人に寄って集って勝つとは恥ずべきであろう!徳川家にて古今無双と呼ばれしこのワシ、鳥居四郎左衛門が討ち滅ぼしてくれようぞ!
きぇーーーい!』

治助『鳥居様!!』


シーン変わる

ナ 遠州浜松の城主、徳川家康の家来で、鳥居四郎左衛門忠広と成瀬藤蔵正義の二人がいる。
この二人の屋敷は隣同士なのだが、どういうわけか仲が大変に悪い。
 1573年12月のはじめの頃、遠州の空っ風が吹く寒い日である。鳥居四郎左衛門が庭を歩いている。
鳥居の庭の隣りでは成瀬藤蔵は植木をいじっている。
鳥居四郎左衛門『治助!ここに大たらいをおいて湯を入れてくれ!』

治助『ここにですか? いや、こんなところで湯に入れば風邪をひいてしまわれますが…』

鳥居四郎左衛門『ワシはないつ如何なる時に敵が来てもいいように首を洗っとるんじゃ……寒い寒いと引き篭もっとる庭木いじり腰抜け侍にはできんじゃろうて…ハッハッハッ!』


成瀬藤蔵『は〜?💢何様のつもりじゃ!クソジジイ!おい!ここに大タライをおけ!水を入れろ!』

鳥居四郎左衛門が驚く

伍介『いや、、旦那様、それは流石にお身体に障りますぜ…』

成瀬藤蔵『いいから、早よ、やれ!ワシはな!徳川家随一の猛者じゃ、水から湯を沸かせてやるわ!隣で湯で行水しとる腰抜けジジイと一緒にされとうないわ!』

伍介『へ、へい!ただちに!』


鳥居四郎左衛門が湯をタライから全て流す

鳥居四郎左衛門『おい!治助!氷水をタライに入れろ!』

治助『え!?流石にそれは、マズイですって!』

鳥居四郎左衛門『ええからやれ!』

治助が用意した氷水のタライに入る鳥居

鳥居四郎左衛門『お゛お゛〜〜!寒っい、いや!ああ〜丁度いいわい!真の侍っちゅうんわ、こうでなければ首の垢は落ちんからのぅ…水なんてぬるま湯に浸かっておる腰抜けとは違うでの〜』

成瀬藤蔵『おい!伍介!縄に砂を付けて首を擦れ!手拭いなんて柔なもんで首洗っとる腰抜けと一緒のもん使うな!』


鳥居四郎左衛門『テメェ!いい加減にしろよ!治助!刀よこせ!』

成瀬藤蔵『伍介!刀じゃ!このジジィココでぶった斬ったるわい!』

殺陣を始める

近くを通りかかった酒井忠次が仲裁に入る

酒井忠次『また、やっとるのか!貴様らは何故、仲良う出来んのじゃ!』

鳥居、成瀬『だって、こいつが!』

酒井忠次『だってじゃないわ!お前らがここでどちらか一方が死のうものならそれは殿からいただいた禄泥棒じゃの!
武田が来るかもしれん時に身内で揉めごと起こすな!』

鳥居四郎左衛門『この続きは…』

成瀬藤蔵『戦場じゃな…』


ナ  1573年12月22日、天竜川を渡った武田軍は、浜松に向かうと思いきや、進路を北に向け、三方ヶ原を通過しようとする。

これを迎え討とうと8千の徳川の軍は駆けあがる。そこに待ち構えていたのが、2万7千の武田の大軍。こうして戦いは始まり両者一歩も譲らない。


鳥居四郎左衛門『なんじゃ!貴様も首3つか……』

成瀬藤蔵『ジジイがやるな……』

また、2人は戦場に走っていく

徳川家康『……浜松城に撤退する…』

成瀬藤蔵『鳥居のジジイ……勝負は地獄で付けようぞ……殿』

徳川家康『どうした藤蔵…』

成瀬藤蔵『ワシはこれより前方に見えまする赤備えの大将首に向かいますればその、金濃の兜をいただきたく……』

徳川家康『な、ならん!』

成瀬藤蔵『忠次、数正!殿を頼む』

徳川家康『いやじゃ、嫌じゃ!藤蔵死ぬつもりであろう!ならん!ならん!』

成瀬藤蔵『さらばでございまする!
我こそは徳川軍総大将!徳川家康!やぁーー!』


切り刻まれ、成瀬藤蔵は討死



鳥居四郎左衛門『ワシも行くぞ!我こそは
鳥居四郎左衛門忠広!土屋殿お覚悟召されい!』

鳥居四郎左衛門と土屋昌次が一対一で戦うが
鳥居四郎左衛門が討死する

鳥居四郎左衛門『ふっ…ワシは敵将の兜を割ってやったわい…貴様はどうじゃった…藤…ぞ……ぅ…』



                             完

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