AIがアイディアを出した、その次は?
最近のAIの進歩はものすごいですね。いろいろアイディアを出してくれます。5個でも10個でも求められるだけ出してくれます。アイディアは確かに価値のあることですが、理屈通りできない事は山ほどあります。
苦しんだ挙句に思いついた自分のアイディアがあり、それを実現するためには、その後地味なことを続けていかなければなりません。私のグループで行った大動脈の血管内視鏡は、アイディアとシステムの構築両方が必要でした。できた途端に、思いついたのは私のほうが先だと言う方が何人も現れました。思いつくだけでは、先駆者とは言えません。動脈硬化の概念を変えることを思いついて、それを体系化して1つの分野に築き上げる (J Am Coll Cardiol, 2018) 事は一連の大変な作業で、思いついてみる事はそのごく一部にすぎません。
後になって考えてなんでこんな地味なことを続けられたかと言うと、自分のアイディアを出現させたかったという原動力があったからです。
いくらいいアイディアでも、時代がついてこないと実現できません。一方、他人がライフワークをかけてでも実現できなかったようなことが、たまたま技術の進歩に乗ってできてしまうこともあります。
例えば、自分たちの経験から言うと、心臓の血管である冠動脈をどれだけ少ない造影剤でCTで撮影できるかという事は昔から試行錯誤されてきました。動いている心臓の染まりを調節することなどまず困難と思われていました。それまでは、長い長い計算方法の末に50mL最低必要であるという論文が出ていました。それには機器の限界があったからです。多列CTになった途端に、4ー5mLで撮影する方法を思いつくだけでなく、染まりそのものをコントロール (Int J Cardiovasc Img, 2013) する方法を作ることができました。
ある分野を極めてくると、その分野で、どんなアイディアが出てきそうか、今の環境下でそのアイディアが実現しそうか、今後どうなるかがおおよそ想像できます。他人のアイディアを聞かせてもらうと、その人の到達レベルがわかります。
これまでの経験から理詰めで進めていくことも必要ですが、思いつきで試してみて、結果がうまくいけば、それでよしとすることもあります。
人間社会ですから、何々ができたと言っても、その分野の仲間入りをするまでには何年とかかります。あるいは何とかの分野についてはこの人だと認識してもらうためにはさらに数年かかります。Notionでこれまでの電子書籍の限界を超えた本ができると始めましたが、これもこれからになります。
なので、AIがアイディアを提供してくれる事は、私にとっては楽しみの半分を取られるようなものですが、いまの段階では、理詰めで常識的な発想になるので、まぁむしろAIに考えてもらって、普通他人はどう考えるのか知るメリットがあることと、書いてない選択を取るということも面白いかもしれないと思っています。