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#小説 記事まとめ

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2022年6月の記事一覧

眠くたってこわくない

ジェイくんは、眠るのがとても怖いのでした。 どんなに眠くても、どんなにあくびが出ても、 眠くなると、彼は怖くなるのでした。 そういうとき、ママは優しく手を握ってくれます。 そうすると、ジェイくんはママの手の温かさが まるで体中を暖めてくれるみたいと思いました その後、ぐっすり眠ることができたのでした。 ある日のこと、寝ようとして怖くてたまらないジェイくんに ジェイくんにママは言いました。 ママは言いました。「夢の中だと、誰とでも遊べるよ」 ジェイくんは、ママに言われた

綺麗な彫刻 /青春小説

「深山くんさ、彫刻のモデルになってくれない?」 一ノ瀬沙和から言われたのは、 夕刻の水飲み場だった。 彼女の後ろで、 空は水色からオレンジ色のグラデーションを描いている。 僕の首からは、拭い切れなかった水道水と、 頭の毛穴から溢れた汗とが一緒になって、 透明で大きな粒を作り、コンクリートに落ちて行く。 からかわれているのだと思った。 彫刻のモデルって、雑誌に載るような、 筋肉の陰影がたっぷりついた人がなるものだろ。 僕はイタリアかどこかに置かれている、石像を思い浮か

ショートショート「失恋美容室」

「失恋美容室って、知ってる?」 付き合ってちょうど一年、わたしの気持ちとは裏腹に「飽きた」のたった三文字で振られた。なんで?って聞いたら、「重い」と言われた。また三文字。それ以上は、何を聞いても返ってこなかった。無回答。三文字打つ手間も、もうもらえなかった。 しかもこのタイミングで梅雨入り。窓の外も心もじめじめで、なんにもやる気おきない。予定のない休日が、なんの意味もなく過ぎていく。ようするに、ダラダラしてるだけ。 あまりにうじうじしてたら「今のあんたにぴったりじゃん!行

【小説】 思い出タクシー 【ショートショート】

 六月十日。その日、五回目となるお母さんの命日を迎えていた。母子家庭で育った私は、大人になるとお母さんのことを疎ましく感じるようになった。お母さんは年齢を重ねるたびに物覚えが悪くなり、そのたびに私を頼った。更年期のせいでやたらと心配性になり、三十を越えても独身のままでいた私の将来をお母さんは異常なほど心配し、離れて暮らす私に日を追うごとに干渉するようになった。  彼氏はいるの? なんで作らないの? いるなら早く連れて来なさい。孫はいつ見れるの? 〇〇ちゃんは結婚したんだってよ