マガジンのカバー画像

#小説 記事まとめ

522
note内に投稿された小説をまとめていきます。
運営しているクリエイター

2021年11月の記事一覧

【小説】初華 死刑を求刑された少女 ~序章~

序章 2026年1月15日   薄暗い部屋の透明なアクリル板の向こう側。険しい表情でわたしを見据える母の顎は、普段よりもやや上を向いていた。少しやつれた様子ではあったが、しっかりと化粧を施し、アイラインが引かれた目を細めて確実にわたしよりも「上」だとアピールすることを怠らない。  ファッションモデルのように長い脚を交差させ、まるで演者のような仕草で腕を組む。いつもとなにも変わらない母のその姿を見て、却って安心した。泣かれて説教されてもうんざりするだけだ。そんなみっともない母

手紙〜間宮家の34通〜

少し長くなると思いますがこの場を借りてお話させて頂きます。 私の家族は父と母と2つ上の兄の4人家族です。 父と母が出会ったのは1977年ちょうど今の私と同じ歳。 高校の同級生だったそうです。 比較的おとなしい父と学校のマドンナで才色兼備の母が出会ったのは 1枚の紙切れがきっかけでした。 高田由美さんへ 突然の手紙すみません。僕は2組の間宮浩二と言います。 こうして手紙を書いたのは先日あなたが内閣総理大臣賞を受賞した青少年読書感想文全国コンクールの作品を読んだからです。 太

【創作】絵本用ストーリー『だから星は回ってる』

子どもたちによみきかせをしていた時期に思いついたお話です。 漫画にするには難しかったので、絵本形式のテキスト(ちょっとだけラフ絵もあります)でお見せすることにしました。少しでもお楽しみいただけたら幸いです。 ==================== 「だからほしはまわってる」 作:岩泉舞 ==================== あるひ、よにんのせいとが、こうちょうしつに よばれました。 よばれたのは、 はるみさん、 なつきくん、 あきおくん、 ふゆこさん。 ====

短編小説『ネット・ダンス-きみが踊る理由-』

数年前にサービス終了した、『アバターランド』 僕は、家族にパソコンを買ってもらったときに登録していたんだ。 キャラクターとして歩いてみてわかった。 みんな初期設定で使える顔だから、差がないんだよね。自分とそっくりなアバターに出会うと、何も言わずにすれ違った。 『アバターランド』は、コミュニケーションをユーザーのあいだで頻繁にできないよう設定されていた。一回ひらがな五文字までで、ふきだしとして画面に表示されるだけ。 初めて『アバターランド』を歩いたとき、「カラフルな街だなあ」と

第1話:市場調査の罠「でも、私……市場調査はちゃんとしました」——小説で読む起業

この小説では、主人公の洋子が起業家として成長するさまを描きます。ストーリーはフィクションですが、起業家としての失敗や苦労、成功法則はすべて、起業や新規事業開発における実際の現場での体験、知見に基づいたものです。圧倒的にリアルで生々しい、洋子の起業家としての歩みを、共に見ていきましょう。 *この記事はGOB Incubation Partnersが運営するメディア「ウゴイテワカル研究所」からの転載です。元記事はこちら。 洋子は、大学を卒業して大手の賃貸物件の仲介会社に就職。

第一話 「飛猿さん」

 父のことを、少し。  どちらかといえば穏やかな性格で、酒は一滴も飲まず、争いごとを嫌い、叱られたことはあっても、殴られた記憶は一度もなく、口数は極端に少なく、舌がどうにかなってしまっているのではないかと疑うほどの味音痴で、そして、毎朝、5時には必ず目を覚ますと、庭先で、見たこともない、不思議な体操をしてから、朝飯を食べる。  朝飯はいつもトーストで、そこに、父がどこからか仕入れてくる、ラベルのない瓶の蜂蜜をたっぷりとかけ、そして、ほんの少しの野菜や果物と一緒に食べる。父の

【ピリカ文庫】夜空【ショートショート】

「ねえ、今日の夜空はどんな味がすると思う?」  嫌なことがあった日、お母さんは夜の散歩に連れて行ってくれる。そして、こんなことをいつも聞く。僕は空を眺めながら一生懸命考える。そうしているうちに嫌な気持ちはどこかに溶けて、今日の夜空の味だけが僕の中に広がるんだ。 「今日はね、甘い甘いチョコレート味で、イチゴの味もする。ほら、チカチカ赤い光が動いてる!」 「今日はね、雲が多いからミルクチョコレート!」 「いつもチョコレート味なのね。じゃあ、帰りに買って帰ろうか」 お母さん