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『奇説無惨絵条々』(文藝春秋)、各書店様、WEB書店様などで好評予約中です。2/27発売予定。 『奇説無惨絵条々』の冒頭部分、試し読み公開中です! はい、今日は発売三日前ということで、目次の公開をします! 実は目次を公開してしまうと、ある程度の仕掛けが分かってしまうと思いますが、まあしょうがないことです。 というわけで、公開。 はい、お分かりの方はお分かりですね。 そう、『奇説無惨絵条々』は、いわゆる額縁小説なのです。 額縁小説というのは、たとえば『アラ
僕は仕事柄色んな国を旅していて、もう数十カ国を訪問しているのだけど、「一番奇妙な国はどこですか」と聞かれたら、ハピネと答えるだろう。人口200万人程度の都市国家だ。 ハピネの乳幼児死亡率は世界で一番低く、長寿でも知られている。治安も世界でとびきり高い。ハピネ以外の国で携帯電話を落とそうものなら、それを拾った誰かが携帯をネコババすることを覚悟しないといけないけど、ハピネでは必ずといっていいほど、数カ月後に戻ってくる。僕も含め、外国人らはそれをハピネの奇跡と冗談のように呼んでい
『TAMARU』は向田麻衣が書き下ろした長編ファンタジー小説です。毎週日曜の朝にお届けいたします。2019年3月3日から、約1年間の連載がスタートです! あらすじ 14歳の少年、ダンバードル・タマルは、夢の中で、見知らぬ言葉で書かれたメッセージを受けとった。 「乾いているものがなにかわかっていたらここまでくることはなかったのに」 彼は、生まれた土地、ソルナ村を発つ。身支度を整え、長年ともに暮らした家畜を逃し、井戸に蓋をした。少年の旅の出立の知るものは、誰もいない。
【無料公開】 便座の上で用を足したイツキは、股間をぬぐったばかりのトイレットペーパーを呆然と見つめていた。 「はあ、やっちまったか……」 視線の先には赤茶色の粘液が付着している。生臭く、そして錆びた鉄のような匂いが鼻をつく。 「ふう」 イツキはトイレットペーパーを丸めると、忌々しそうに便器の中へと放り投げた。もう一度だけ、「ふう」と大きくため息をつくと、そう広くもないトイレの中でぐるりと視線を一周させた。ふと、普段は気にもかけたことのない戸棚が目に留まる。神も仏
中央線に、会った。 中央線は朱色のトレーナーを着ていた。そのトレーナーがもう少し黄みがかっていて緑のラインが入っていたりしたら、あるいはわたしは「彼は東海道線なのでは?」と疑ったかもしれない。 けれど、わたしは彼が中央線であることを確信した。わたしの確信はわりかしよく当たる。 中央線はB型っぽい天秤座っぽい男だったが、そこのところは本人に確かめたわけではないのでわからない。彼はやせっぽちでめがねをかけていた。 わたしたちはお手頃な値段のわりに高級感のある和風ダイニング