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【小噺 #1】女子大生、ノックから始まる道
大学4年生の遥(はるか)は、就職活動を終えて大手企業から内定をもらい、残りの学生生活をどう過ごそうか考えていた。卒業までの時間を有効活用しようと、近所の掲示板でアルバイトを探していたところ、目に留まったのが「パートタイマー募集」と書かれた張り紙だった。
「ちょうどいい!短期の事務作業か接客かな。」
遥は特に詳細を確認することもなく、その足で住所の書かれた事務所へ向かった。
小さなビルの一室。目の前のドアに「マイム・スタジオ」と書かれているのを見て、少しだけ違和感を覚えたが、「スタジオって、事務所をおしゃれに言ってるのかも」と自分を納得させた。そして、履歴書も持たずにいきなりノックをした。
ドアを開けたのは黒い帽子にタイトな服を着た男性。彼は遥を見てニコリと微笑むと、「どうぞ、お入りください」と招き入れた。
部屋の中は鏡張りで、デスクどころか書類ひとつ置いていない。「事務作業ではなさそうだな」と思いつつ、男性が言うまま中央の空いたスペースに立った。
「それでは、壁を押す動きから始めましょう。」
「えっ?」遥はポカンとした顔で尋ねた。「あの、アルバイト募集の件で来たんですが…」
「ええ、もちろん。まずは動きを見せてもらえますか?」
状況を理解できないまま、男性の指示通り手を伸ばして「壁を押す」ジェスチャーをしてみる。すると男性は目を輝かせた。
「素晴らしい!自然体でまったく無駄がない。あなた、本当に初めて?」
「いや、初めても何も…」と困惑する遥だったが、そのまま「ロープを引く」「箱を持つ」といった動きを指示されるがまま披露した。男性の熱のこもった反応を見ているうちに、遥は少しずつ楽しくなり、気づけば夢中で動いていた。
その日の帰り道、遥はスタジオの外に貼られた張り紙を改めて見た。
「パントマイマー募集」
「えっ、パートタイマーじゃないの!?」
驚きと同時に呆然とする遥だったが、「やめます」と言い出すタイミングも逃し、翌日からレッスンを受けることに。
もともと身体を動かすことが得意だった彼女は、驚くほどのスピードで技術を習得。指導者から「君は天性の才能を持っている」と絶賛されるまでになった。そして卒業が近づくにつれ、内定先で働く自分の姿がどんどん霞んでいくのを感じた。
ある日、遥は決断した。内定先には電話ではなく直接足を運び、担当者に頭を下げて内定辞退を伝えた。そして再びマイム・スタジオのドアをノックしたとき、自分の選択に迷いはなかった。
数か月後、彼女は初めての舞台に立つ。テーマは「就活」――壁を押し、書類を掴み、見えない階段を登る動きに観客は笑いと感動を覚えた。
間違いから始まった道が、自分らしい生き方へと繋がったのだ。遥は心の中でつぶやいた。
「ノックするだけで、人生って開くものなんだね。」
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