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🥚the monogatary #壱 | しろくま商社

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#1 the monogatary | 未来の君へ

某日。自宅にて。その出来事を語るに、僕の年齢は若すぎた。ゆえにブラックボックスに封じている。それで良いと思った。それが良いと思った。時が来たら、開封しようと思う。

未来の君へ。君が将来、苦しまないために、僕は書くことにした。あの日、起きたことを。

誰しも皆、心の中に怪物を飼っている。それは僕も同じ。怪物は様々なモノを欲する。私たちは食事を始め、様々なことを介して、その怪物に栄養を与えている。もし君が部活動に従事しているのであれば、その怪物は部活動を通したコミュニケーションや争いを通じて成長していく。もし君が恋愛に一喜一憂しているのであれば、その怪物は君の焦燥や喜びを通じて成長していく。どんな人生を歩もうとも、怪物は個性的に成長する。

『フランケンシュタイン』という名作がある。フランケンシュタインという天才博士はその研究の過程で、人造人間を開発することに成長する。しかしその醜い有様を見た博士は自身の発明品に恐怖を覚え、逃げ出してしまう。孤立した人造人間。彼女はなぜ自身が生まれたのか、その答えを得るべく、博士を探す旅に出る。その過程で様々な感情を得た彼女は、そんな博士に復讐することを誓うのであった。『フランケンシュタイン』とはそんな物語なのである。

怪物には心がある。人々は当然のことながら、怪物に対しては恐怖を抱く。それは僕たち人間の本能である。ゆえにその純粋な感情を責めるのは筋違いである。その上で、どのようにその怪物と向き合うのか。それこそが本題であり、重要なのだ。君がこの手紙を通じて、自身の怪物との向き合い方を見直すきっかけになることを願うばかりである。

拝啓 未来の君へ

君がこの手紙を手にした時、僕はもうこの世にはいないと思う。それでも、僕は君が将来を健康的に楽しく過ごせるように、その一部始終を記録することにした。どうか覚悟して読んで欲しい。君にはその能力があるから。

銀世界。そんな言葉が相応しい光景だった。僕たち家族は、有給を取得し、子供を連れてスキー場にやってきた。かつて両親の教育ゆえにスキーを嗜んでいた自分は、今回の旅行でスノーボードに挑戦することを決めていた。日々の接客業の中でたまったストレスを吐き出したい。そんな思いを抱えて、僕たちはこの場に来た。

場所は北海道。関東からは幾分離れた土地ではあるが、休日には最適なスポットである。ジンギスカンを始めとした北海道独特の名産や、初々しい海鮮品の数々。日々の疲れを取り払うために、僕たち家族はこの土地で休息することに決めた。

綺麗な所ね、と妻が言う。妻は綺麗な所が大好きだ。身だしなみを始め、妻には独特の美意識がある。その影響を受けて、うちの長女もファッションにはうるさい。そんな妻と長女の相性はばっちりで、ペアルックを決めることもある。その注目度は桁違いである。共に美的センスに溢れている両者は、注目の的である。関係者である僕としては、あまり目立つ行動は2人にしてほしくないのだが、こればかりは天性のものである。ただ横から眺めるしかない。それが僕の役割であり、また彼女たちの役割でもあるのだ。それで良い、と僕は思っていた。

スノーボードに挑戦する。そんな事実に胸を高鳴らせていた僕は、意気揚々とスキー場に降り立つ。どんな時でも下準備は大切である。僕はこの日の為にダイエットしてきたし、スノーボードを扱う上で重要なバランス感覚についても、自宅のバランスボールを使いながら訓練してきた。出来ることはやった。あとは実践あるのみ。

寧々:「パパ、何か変。不気味。」

拓斗:「どうした寧々、緊張しているのか。まあ寧々にとっては初めてのスキーだもんな。緊張するのは当たり前だ。でもな、寧々。スキーは楽しいぞ。身体を動かす事はいつだって楽しい。寧々にはその喜びを知ってもらいたいし、きっと寧々ならその楽しさを理解することが出来る。小泉信三は...」

寧々:「はぁ~、うるさいうるさい。いつもの弁論はお断りよ。本当、何でこんな人とお母さんは結婚したんだろう。ありえない。」

理紗:「そうね。私もそう思うわ(笑)。でもね、お父さんはこれでも努力家なの。決してめげない。寧々が言う通り、お父さんの言葉はいつも堅苦しくて面白くないけど。やればやる男なのよ、お父さんは。きっと寧々もいつか分かる時が来るわ。」

寧々:「えぇ~、そうかなぁ~。ちっとも理解したくないんだけど。」

理紗:「ふふ、将来が楽しみね。」

何気ない会話。いつも通り、僕は長女から嫌われている。でもそれで良い。かつて心理学を席捲したアドラーは言っていた。「嫌われる勇気を持て」。僕にはその素質があるのだ。そう信じ、今日も僕は寧々の罵倒を受ける。でもそれで良いのだ。それが良いのだ。


#2 the monogatary | 始まり

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「今日行くの?」

僕はいつものように投げかける。

「うん。何回も挑戦しないと。」

母は言う。

「もう辞めようよ。」

妹が駄々をこねる。

「駄目。もう決めたことだから。」

夜の旅が始まる。

時刻は深夜。僕たち兄妹は車に乗り込む。

いつもどおり。

母が運転する車は静かだ。静寂。流される音楽は失恋系。うんざりだ。

今日のアーティストは西野カナ。母はいつまで引きずるのだろうか。子供の幸せを考えて欲しい。

到着した。いつもの場所だ。僕たちはここでピンポンダッシュを繰り返す。なぜ?分からない。ただ僕たちはひたすらに、母に服従している。

1時間が過ぎた。反応なし。応答がない。悲しい。また僕たちは何も出来ずにこの場を去るのか。


#3 the monogatary | 渋谷事変

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それは一瞬のようで。それは永遠のようで。そんな時間を僕は過ごした。

某日。蝉の鳴き声が聞こえる季節。僕はいつも通り渋谷に向かう。大好きな祖父母に会うため。最近オセロを始めた祖父母は、僕も一緒にやらないかとよく誘ってくる。本気でやると勝ってしまうので、手加減することが大切だ。そうでないと、祖父母のご機嫌を取ることができない。

昔の記憶を呼び起こす。幼少期にオーストラリアに住んでいた自分は、チェス部に所属していた。日本ではチェスより将棋のほうが知名度があるように感じる。しかしながらチェスも将棋も、どちらの競技にも独特なルールがあり、ゆえに面白い。チェスではそれなりの地位を得ることが出来たが、全国の猛者に叶うほどの技量を習得する前に、帰国した。受験勉強との兼ね合いもあって、チェスにはそこまで熱中できなかったが、また機会があれば祖父母とでもチェスをしたいと思っている。

辺りが騒がしい。いつも通り歩道橋に乗って祖父母の自宅まで向かう。どうやら何かしらの事故があったようだ。交通規制がされている。クラクションが飛び交う。しかしそんな状況に対して見ぬふりをする通行人。スマホが普及するようになって、僕たち通行人の関心は携帯にばかり集まるようになった。世の中が発展し、個の力が伸びていくことは素晴らしいことである。しかしながらその代償として、僕たち人間の繋がりは希薄なものになっているように感じる。ネット上の友達はたくさんいるかもしれない。でもリアルの友達は?挨拶は?良き伝統が失われていく。それを気にする人もいれば、気にしない人もいる。「何か寂しいなぁ~。」そう独り言を呟く。結局、僕たち人間は時の流れに身を任せるしかないのだ。

歩道橋を降りる。この歩道橋もいつか老朽化して、新しくなるのだろう。その日を楽しみに待つとしよう。ひとまず、目的地へ向かう。ここから少しばかり歩いたところに、祖父母の家がある。渋谷はその名前が示す通り、様々な地点に坂道が存在する。それは今回も同様で、この暑い気温の中、僕はエネルギーを振り絞る。そんなに汗をかく方ではないが、どうやら今日は例外らしい。汗が滴る。それをタオルで拭う。ハンカチ王子が引退した。彼の野球人生は、どのようなものだったのだろう。高校時代に衝撃的な試合の数々をこなし、早実を優勝に導いたエース。大学時代も無双した彼は、ドラフト1位で日本ハムへ入団することになる。しかしながら怪我の影響もあって、プロ野球選手として長く活躍することは出来なかった。もしマー君のように、高校を卒業してすぐにプロの世界に飛び込んでいたのなら。そんなたらればについて考える。引退試合は四球。決して派手な投球ではなかった。登板後、栗山監督が声をかける。涙する斎藤選手。これが全てではないのだろうか。ネットでは罵詈雑言を浴びていた。しかし引退が決まるとなると、ねぎらいの言葉でネットは溢れる。きっと彼にしか、そして彼の周りにしか分からない苦しみがあったように思う。それでもよくめげずに頑張ったと僕は思う。彼の努力は報われなかったのかもしれない。でもそれは野球に限った話である。第2の人生を歩む上で、その経験はかけがえのないものとなる。少なくとも、僕はそう信じている。

段々と目的地に近づいてきた。南平台は渋谷の中でも変わった場所であるように思う。渋谷といえばスクランブル交差点を思い浮かべる人が多いだろう。しかしながら南平台の雰囲気は少々異なる。静か。その言葉がよく似合う町である。道路は丁寧に舗装されており、どこか広さを感じ取ることができる。そんな町なのだ。渋谷と聞くとうるさいイメージや、外国人で溢れている印象があるかもしれない。でも探索すると、意外と違った特徴を感じ取ることが出来るのかもしれない。

エントランスに入る。最新のセキュリティが施されたこの家であれば、祖父母も安心して暮らすことができるだろう。部屋番号の入力し、チャイムを押す。洗練された空間にチャイムの音が響く。暫しの静寂。

祖母:「はい。」

衛宮:「衛宮です。」

たったこれだけのやり取り。それだけで、玄関の扉が開く。声というものは実に多くの情報を含んでいるものだと感心する。きらびやかなエントランスを抜け、エレベーターへ。3階というボタンを押し、気を静める。学生時代、坐禅を経験したことがある。鎌倉まで出向き、まずは色々とガイドの方が鎌倉について説明をする。そしてしばらくして、坐禅を享受してくださる方のもとへと出向く。各自座布団を下に敷き、準備に入る。坐禅において大切な要素は幾つかあるが、その中でも姿勢は特に重要である。決まったポーズを長い時間に渡って維持し続け、そしてその際に行う呼吸に意識を傾ける。これが坐禅の基本である。冒頭でも触れたが、様々な情報に溢れている現代において、心をリラックスする時間を取ることは困難を極める。ゆえに坐禅などの機会は貴重なものだと認識する。無の境地。そんな悟りを僕も開きたいものだ。

目的地に着く。ドアを開けて入室すると、いつも通り、祖父母の声が聞こえる。

祖父:「いらっしゃい。」

衛宮:「ども。今日は暑いね。」

祖母:「いらっしゃい。すいかでも食べる?」

衛宮:「そうだね。是非。」


#4 the monogatary | 快晴

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人は忘れる生き物だ。忘れることで、僕たちは前に進む事が出来る。それは人間に与えられた当然の権利である。

舞台は神奈川。僕は高校で、野球に励んでいる。今日は朝練だ。片道2時間かけ、ぼくは今日もグラウンドに足を運ぶ。

昨日の試合はボロ負け。控えの捕手として出場した第二試合。盗塁を刺せなかった。悔しい。本当に悔しい。

試合後は壮絶な筋トレ。腕立て・腹筋・背筋・ダッシュ・バービー。無理にでも笑うしかない。でも、これだから野球は辞められない。このノリがあるからこそ、ぼくは今日も今日とて練習に励む

神奈川にある僕の学校はとにかく臭い。近くに養豚場があり、その匂いが校舎にまで届く。広々としていて立地は良い。が、臭すぎる。困ったものだ。この学校を選んだ理由は色々とあるが、この匂いについては知らなかった。知っていたところで受験校を変えたかどうかは分からない。でも事前に知っておきたかった。

朝練を終え、身支度を整える。使っていた用具を部室に入れ、整理整頓をする。授業に間に合うように急いで着替える。忘れ物がないか確認し、グラウンドに一礼する。これがいつものルーティーンである。感謝の気持ちを忘れることなかれ。監督の言葉である。野球はスポーツであり、基本的には実力主義である。しかしそれ以上に、野球に携わる指導者には大きな使命がある。その使命とは、野球を通して周りの人々に感謝する習慣を身に着け、常日頃から誰かのために行動する癖をつけること。試合で勝つことだけが野球の全てではない。過酷なスポーツゆえ、周りの理解が必須なのである。ゆえに感謝の気持ちを持つこと。そしてその恩を返すこと。これに尽きる。授業に遅刻するなど、論外である。

クラスルームに到着する。いつも通り、この時間は多くの生徒でにぎわっている。

近藤:「おはよう。」

森泉:「おはよう。」

近藤:「今日もタッパー持ってきたか?」

森泉:「もちろん。野球部だからね。」

近藤:「感心感心。頑張って食えよ。」

森泉:「おう。」

野球部は最近、監督が代わった。球を遠くに飛ばすためにはパワーが必要である。ゆえによく食べること。それはどんな球児にとっても、喫緊の課題である。ゆえに新監督は部員に対しある命令を下した。それはタッパーを持参すること。タッパーの中身は基本的に米である。数多のふりかけを駆使し、僕は今日もその米を食さなければならない。大変な作業である。食べ過ぎると授業に響く。色々と難しいことだらけではあるが、命令が下されている以上、やるしかないのである。野球部の悲しき運命である。

チャイムの音が聞こえる。どうやら授業が始まるらしい。近藤と軽く別れを告げ、自身の席に着く。


#5 the monogatary | 成長

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あの男が帰ってくる。

思えば彼とは長い付き合いだ。色んな苦難を彼とは乗り越えてきた。共に流した汗があるからこそ、今の僕と彼の関係性があるのだと思う。良いライバルだと思う。

共に英語が堪能だった僕たちは、よく遊び、よく笑い、そしてよく励まし合った。そんな彼がインドネシアから帰ってくる。

僕は海外経験は豊富な方だと思うが、インドネシアへ行ったことはない。未知の国だ。彼はそこで何を学び、どんなことに苦労し、そして何を成し遂げるのか。

「ちょっとインドネシアに行ってくる。」

彼がそう僕に告げたのはつい最近の話だ。

「インドネシアかぁ~。どうしてインドネシアを選んだの?」

「一応インドネシアって、日本と同じアジアって分類だけどさ、中々謎が多い国だと思うんだよね。今所属しているサークルでそこに行ける機会があってね。せっかくだから行ってやろうと思った。」

「へぇ、サークルで。どんなサークルだっけ?」

「AIESECっていうサークルで、海外インターンを売りにしている団体だね。日本だけでなく海外にも多くの支部があって、今回はそのご縁で行く感じ。」

「インドネシアではどんなことするの?」

「向こうの高校で日本語だったり、日本の文化を教えてくる。受け入れ先が結構、語学教育に力を入れててさ。現地の高校で教員を務める予定なんだけど、俺の経験が彼らにとって意義あるものになれば良いなと思ってるよ。」

「まあ後藤は語学堪能だからな。性格も良いし、きっと役に立つよ。」

「そう言ってくれると嬉しいよ。」

それがインドネシアに旅立つ前、僕と彼が交わした言葉だった。


#6 the monogatary | 君と挑戦

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僕たちはいつだってチャレンジャーだ。そんな言葉を胸に、僕は今日もピッチに立つ。まだ見ぬ未来を信じて。

また夏が来た。激動の夏。期待の夏。秋と同じように、夏には様々な意味がある。暑さが好きな人も、嫌いな人も、この世の中には趣向が異なる様々な人が点在している。そんな中、僕は選んだのだとしみじみ思う。その選択は間違っていただろうか。間違っていたかもしれない。正しかったかもしれない。結局、いつだって答え合わせは未来にある。今を生きている僕たちにとって、そんなことは些細な事でしかないのだ。今を楽しむ。その時にしか出来ないことを追い求める。そんな小さな目標を胸に掲げて生きれば、いつだって道は開かれている。

僕は行く。まだ見ぬ道を。たとえその道が困難に満ち溢れていたとしても、僕は行く。怪我を負うこともあるだろう。挫折することもあるだろう。それでも、僕は未知なる獲物を追い求めて狩りに出る。それで良いのだと自分に言い聞かせて。

「おい佐々木、もう時間だぞ。」

そんな声が聞こえる。苦楽を共にした仲間の声。一緒に飯を囲んだ友人と共に、僕は前に進む。

佐々木:「悪い悪い、緊張しちゃって。いつぶりか、こんな緊張するのは。だいぶ久しぶりな気がする。」

小田:「まあな、だって200校以上が集う大会だぜ。みんな緊張しているぜ、たぶん。」

佐々木:「だよな。いや~、それにしてもいつ以来の大会だ。コロナで去年はどの大会も中々開催できなかったし。本当、奇跡的に開催できた大会だな。」

小田:「だな。でもキャプテンにそんな日和られると困るぜ。俺たちの隊長にはシャキッとしてほしいな。頼りにしてるぜ、キャプテン。」

佐々木:「そうだな。この大会を悔いのないものにしよう。俺たちならできる。きっと。」

さあ、伝説の幕開けだ。の威勢の良い音と共に、僕たち家族は今日も踊る。


#7 the monogatary | 渋谷にて

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今日も今日とてラジオ体操。それが僕たちの日課だった。

渋谷にて様々な個性的な公園が存在する。その中でも西郷山公園はとりきわ目立つ。僕たちはその場所を目指して毎日歩く。中々の距離だ。でもめげない。それが僕たちに課せられたルールであり、宿命なのだ。

1996年12月30日。僕は産まれる。まだ当時小さかった僕は、それはそれはわんぱくな子供だった。両親や祖父母の寵愛を受けた自分はすくすくと育つ。2年後には妹が産まれる。当時の記憶は基本的に無いのだが、僕たち兄弟はきっと大切に育てられたのだろう。父親の仕事の都合で、様々な場所を転々とする。そんな中でも、僕たち兄弟のわんぱくさは消えることなく、時には大いに両親を苦しめながら、日々を歩んでいく。

そんな日々の中、僕たち兄弟はよく祖父母と一緒にラジオ体操を行った。ラジオ体操。日本独特の文化であるように思う。昭和3年に天皇陛下即位の大礼を記念して作られたラジオ体操。その歴史は古く、当初は国民の健康保持推進を目的として実施されたラジオ体操は、今でも多くの国民に愛されている。中でも祖父母はその熱狂的なファンである。祖父母はそれぞれ特徴的な個性を持つ。例えば祖父は根っからの冗談好きだ。例えば宮沢賢治。彼はその生涯において、『雨ニモマケズ』という作品を残している。日本人ならば誰しも1度は耳にしたことがあるであろう。そんな作品を、祖父は朗読することを好む。隙あらば朗読。そんな頭がテカテカしている祖父。子供からの評価は絶大である。

では祖母はどうだろうか。祖母は料理のエキスパートである。祖父母の朝は早い。ラジオ体操をしている時点でお気付きの人もいるだろう。早朝、もしくは深夜に目を覚ます彼らは、起床後すぐに軽いストレッチを行う。その後、軽く水分補給を行い、散歩に備える。ラジオを携えて。雨にも負けず、風にも負けず、基本的に祖父母はどんな時でも西郷山公園に足を運ぶ。

実は祖母の方が足が速い。というのも祖父はパーキンソン病を患っている。ゆえに足元がおぼつかないのである。祖母も膵臓がんを患っているが、その病状はまだ初期。全然歩けるのである。そんな祖父母を背に、僕たち兄弟は歩く。暗い夜道。街頭が足元を照らし、カラスが朝を告げる。静まり返った空気は僕たちに朝の訪れを知らせ、その空間には僕たちの足音とラジオの声が充満する。祖父母は根っからのNHK好きである。中でも囲碁を嗜む彼らにとって、お昼の時間は貴重である。対局をじっと見つめながら、お互い意見を出し合う。そしてたまに対局を行いながら、日々をゆったりと過ごす。それが祖父母のルーティーンである。

西郷山公園に着く。まだ早朝であるにも関わらず、公園にはたくさんの人々。通常、ラジオ体操第1は6:30から。多くの人がラジオを片手に、準備運動を行っている。その例に漏れず、僕たちも辺りに散り、準備運動を行う。まだ時間はある。祖父母は日頃からの知り合いと談笑を行い、僕たち兄弟はそれを遠くから見つめる。たまに声をかけられることがある。その時は祖父母に近寄り、軽く挨拶する。普段は学校があるので、中々に珍しい機会である。

そうして、時が来る。ラジオ体操の時間である。その威勢の良い音と共に、僕たち家族は今日も踊る。


#8 the monogatary | バス停にて

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明日、家出する。その決断に至るまで、様々な困難があった。決して楽な道のりではなかった。これまでも、そしてこれからも。でも決めたことは曲げない。それが僕の性格である。

高校時代、忘れられない授業がある。それは倫理の授業における一幕。アイデンティティについて考える授業だった。私の存在とは何か。そんな問いに対して、生徒が向き合う。ある人は発表を通じて。ある人はレポートを通じて。

倫理の先生はとても魅力的だった。自由な先生だった。その人自身の生き様がそうであったように。僕はそんな彼女の性格に惹かれた。この人になら、このクラスになら、打ち明けても良いのではなかろうか。そんな気持ちにさせられた。

授業は進行していく。自分は発表することに決めていた。大まかな流れを考える。これで良いのか。そんな疑問を友人に投げかける。「安斎らしいじゃん。」そんな答えが返ってくる。馬場とは家が近く、学校の帰り道によく話し込んだ。お互い電車通学で、多くの時間を電車で過ごした。共に通学に使っていたのは小田急線。中高の最寄りである湘南台から新宿までの距離を2人で過ごす。

安斎:「最近、どう?」

馬場:「最近って何だよ。順調だよ順調。たまにtwitterとかで愚痴るけど。」

安斎:「何かクラスで話題になってたよ。馬場がデビル化しているって。」

馬場:「まあそうかもしれない。まあ誰しも愚痴の1つや2つぐらいあるだろ。ましてやキャプテンだぞ。色々あるのよ。」

安斎:「キャプテンは大変だな。俺もキャプテンになりたかったよ。」

馬場:「安斎キャプテンか。良い響きだ。」

安斎:「本気?」

馬場:「もちろん冗談。」

安斎:「だよな。もっと俺に実力があれば。」

馬場:「野球部は色々と大変だろ。務めているだけで立派よ。」

安斎:「そうかも。」

中央林間駅に着く。神奈川に本拠地を置く当校では、この駅で降りる生徒が多い。多くの生徒が降りていく。その様子を、遠目から眺める。

安斎:「倫理の授業って面白いね。」

馬場:「だな。ってか先生が自由だよな。授業中、草原に寝そべることになるとは。おかげで色々と発散できたけどな。模範通りの生徒でいることは辛いからな。」

安斎:「馬場は成績優秀だからな。それに比べて俺は。中学までは良かったのに。」

馬場:「部活も大事だが、学業も大事だぞ。危機感を持たないと。」

安斎:「おっしゃる通りです。気を付けます。」

相模大野駅に着く。ここも中央林間駅と同様に、乗換が激しい。次々と人が降りていく。ここまででもかなりの時間を要する。

安斎:「新宿までは遠いな。」

馬場:「本当にな。もっと近い場所に住みたいものだぜ。」

安斎:「だな。出来れば寮暮らしをしたいものだぜ。」

馬場:「反対されてるんだっけ。」

安斎:「うん。「うちは貧乏だからそんなお金はありません。」って断られた。」

馬場:「ならしょうがないじゃん。」

いつも通り、その時々で思いついた言葉を口に出す。新宿まではまだ遠い。電車に揺られながら、色々と意見交換を行う。いつも通りの日常。いつも通りの会話。そんな毎日を大切にしながら、今日も僕は生きている。様々な困難を抱えながら。

安斎:「俺、発表しようと思う。」

馬場:「何の話?」

安斎:「いや、倫理の話よ。そろそろ発表しないとまずいだろ。発表しないとレポートだぜ。レポート出すぐらいなら、俺は発表する。」

馬場:「そりゃそうだ。まあ俺はレポートにするけどな。俺って根暗だし。」

安斎:「意外。馬場は発表するタイプだと思った。」

馬場:「そりゃ何か良いトピックがあったらな。色々と考えたけど、レポートが性に合うんよ。」

安斎:「なるほど。」

馬場:「で、安斎はどんな発表をするん?」

安斎:「う~ん、色々と考えているんだけど。今回の発表ではタブーについて触れようかな。」

馬場:「タブー?家族関係ってこと?」

安斎:「そう。」

馬場:「へぇ~、面白そうじゃん。」

安斎:「内容が内容だからな。なるべく明るく話そうと思ってる。どうかな?」

馬場:「安斎がそうしたいなら、そうしたら良いと思うよ。応援する。」

安斎:「そっか、ありがとう。」

馬場はいつだって俺を応援してくれる。応援されたのなら、成すべきことは決まっている。必ず成功させる。俺はその日を境に、倫理のプレゼンを成功させるべく、特訓を開始した。

成功の鍵は何か。それは堂々と話すこと。そこに尽きる。既に、倫理の授業では何人かが発表を行っていた。評判が良い発表者は、いつだって堂々としていた。これを参考にしよう。資料は準備するか。不要だろう。俺の声で勝負したい。声で勝負するなら、情報に限りがある。声を通じて100%の情報を伝えるのであれば、練習あるのみ。そう信じて、俺は自宅で特訓を開始した。

話の流れはどうする?先述した通り、俺の発表内容は極めて暗いものになる。ゆえに声のトーンが重要である。リスナーが満足する内容に仕上げるためには、いかに暗い内容を明るく話すことが出来るのか。そこが大切である。幸い、手にはスマホ。これで録音できる。約15分間の発表。長いようで、短い時間。その時間に全身全霊をかける。そう覚悟を決め、とにかく時間ある限り、練習を繰り返した。

さあ、いよいよ本番だ。幸い、くじ引きの結果、順番は最後。内容が内容だけに、その順番は幸運だった。安藤や三輪の発表に耳を傾ける。心臓が鼓動する。順番が近付く。ドキドキする。この高まりはいつ以来だろう。今日の発表が人生を変える。そう信じて、自分の出番を待つ。

拍手が鳴り響く。いよいよ自分の番だ。意を決して立ち上がる。先生は再度、録音機器を準備する。教壇の上に立つ。手には今日の流れを書いたメモ。そして目の前には大勢の生徒。暫しの沈黙。

「発表を始める前に、皆さんにお願いしたいことがあります。それは今から僕が話す内容を、ここだけの秘密にしていただきたいのです。今から僕が話す内容は暗いものです。また誰かを傷付ける内容になるかもしれません。今まで僕が大事に、胸の奥に秘めていた想いを、今日この場で発表したいと思います。」

すると先生が口を開く。

「皆さん、安斎さんとの約束を守れますか?」

そう先生が問いかけると、周りの生徒はOKのサイン。準備は整った。

「では今から俺の超デリシャスハイパーデンジャラスかつ根暗な妹について話すぜ!」

そう告げると、普段のキャラゆえなのだろう。周りは爆笑の渦に包まれた。

「みんな、ニコニコ動画って知ってるか?ニコニコ動画を知ってる奴なら分かるだろう。俺の妹はオタクって奴だ。帰宅すればいつだってATフィールドを張りながら、配信してやがる。生憎、俺はその様子を一度も見たことが無い。が、しかし。妹はニコニコ動画の中では著名人らしい。彼氏も大体ニコニコ動画を通じて知り合っている。本当にクレイジーな奴。それが俺の妹だ。」

普段とは違うテンション。寡黙なイメージを壊し、プレゼンを続ける。

「そんな妹には秘密がある。それはリストカットだ。僕の妹は絶えずリストカットを繰り返している。その手には無数の傷跡が残っている。どれも痛々しく、とても凝視することはできない。少なくとも、僕には出来ない。僕と妹は良好な関係を築いていると思う。しかし良好な関係を築いてもなお、妹には秘めている悩みがあり、その悩みが妹をリストカットへと導ている。それは何故か。その訳を、この発表で明かすことにする。」

突然の話題転換。空気が一変する。俺のクラスメイトは全員エリートだ。そんなエリートが普段目にしないであろう惨劇を、俺は徐々に明かしていく。

「中二の時、僕の親父が家出した。そのきっかけは至るところに広がっていたように思う。しかし当時非力であった自分は、その行動を止めることが出来なかった。当時の自分にとって、自宅は戦場であり、墓場であり、また地獄でもあった。一度帰宅すれば、何かしらの争いが起きており、俺はその争いを止めようと動く。がしかし、それは愚かな行為で、その行動を取った途端、標的は僕に変わる。母親から浴びせられる暴言の数々。そして合間に受ける虐待。正気では無い。そんな周知の事実に皆気付きながら、母親の暴走を止めることができない。僕の産まれた場所はそんな家庭であり、ゆえに父親は逃げた。」

初めて明かす真実。沈黙が辺りを支配する。そんな中でも、カメラの瞳は僕から目を反らさない。

「父親が去ってからの日々も、変わることは無かった。父親との戦争が終われば、次に待ち受けていたのは母親と妹の修羅場だった。自宅に帰れば、母親が俺に泣きつく。目の前にはガラスの破片やボールペン、はさみ。凶器として扱われた道具の数々。僕は思わずトイレに隠れる。鳴りやまぬ母親の悲鳴。僕にとっての普通の日々は、そんな世界の上に成り立っていた。」

笑顔を浮かべながら、話をする。中々に慣れない作業。でも、この発表が何かを変えるきっかけになるかもしれない。そう信じて、僕は話を続ける。

「苦楽の日々は、また新たな災難を僕に投げかける。それは中三の冬だった。当時仲の良かった小松と一緒に自宅付近で自主トレをしている最中に、その訃報は届いた。母親に呼び出され、車に乗り込む。またしても母親は普通の状態では無かった。エンジン音が鳴り響く。そんな時間を暫く過ごした後、着いたのは病院の一室。目の前には伯父や祖父。祖父は泣いていた。伯父から事実を告げられる。祖母が自殺したのだ。」


#9 the monogatary | 忘れられない

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障害者である僕にとっての幸せって何だろう。そんなことを考える。障害者手帳を取得した。きっかけは入院。歩行困難に陥ってしまった。約1ヶ月入院した。入院生活は楽しかった。快適な生活だった。しかし当時学生だった自分にとって入院は予期せぬ出来事であった。ゆえに早期退院を目指した。主治医曰く、もう少し入院した方が良かったらしい。しかし決めたことは変わらない。幸い、ある程度歩行できる状態にはなっていた。ゆえに名残惜しくはあるが、僕は退院することにした。

激動の学生生活。僕の学生生活は地獄だ。通院を繰り返し、服薬し、自らの症状は周りに隠した状態で学生生活を送る。それがどれほど大変なことか、当時の自分は知らなかった。時には教授に叱られることも多々あった。カウンセリングを受けながら、そんな危機を脱していく。そんな毎日。楽しみなど何もない。そんな生活。


#10 the monogatary | 終電

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息を吐く。息を吸う。人は繰り返す。

またやってしまった。終電を逃した。新宿駅で電車を降り、母親に連絡する。

「ごめん、終電逃した。迎えに来てくれない?」

そんなメールを書き、送信する。母親は来るだろうか。きっと来るだろう。明日は朝練。

「はぁ~~~。」

息がこぼれる。とりあえず母親が迎えに来るまで、この場所で待機するしかない。


着信音が鳴る。母親からだ。

「俊!何やってるの!いつも終電逃して!」

「ごめん母さん。悪いと思ってる。」

「とにかく今から向かうから!」

通話終了。幸い、まだ母親は起きていた。ラッキーだ。

「さて、それまでどう時間を過ごそうか。」

#11 the monogatary | プレゼント

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今日は僕にとって、大切な日である。僕には恩師がたくさんいる。伯父はそのうちの1人である。僕が辛い時、伯父はいつでも僕の支えになってくれた。そんな伯父のことが、僕は大好きなのである。

そんな伯父と、会う約束をした。場所は池袋。緊張する。今日はいつも僕を支えてくれる伯父の為に、プレゼントを用意した。紅葉色のボールペンである。伯父は喜んでくれるだろうか。そんな期待を胸に、杖を用いながら目的地へ向かう。

実は最近、入院を経験していた僕は完治していなかった。ゆえに歩く際に杖を用いている。しかしながら、こんな弱弱しい姿を伯父に見せるわけにはいかない。目的地はとある池袋のホテル。受付の人に事情を説明し、杖を預ける。よし、これで準備は完璧。あとは本人を待つだけ。

早く着いてしまった。幸い、ここはホテルである。ロビーの至るところに椅子が置かれている。それにしても豪華なホテルである。前に座っているのは中国人の家族だろうか。大きな荷物を携えている。それに比べて自分は軽装備。必要最低限。いつかこんなホテルに泊まれる日が来るのだろうか。

スマホを見る。GoogleにYahooの文字を打ち込む。最新のニュースが目の前に表示される。とりわけ自分は野球をチェックする。推している球団は中日ドラゴンズである。近頃は低迷しているチーム。しかしその投手力は絶大である。良いバッターもちらほらいる。しかしながら長距離砲が手薄である。石川という期待の星はいる。落合時代を再び築いてほしい。そんな願いが僕にはある。幸い、僕の父親も熱心なドラゴンズマニアである。僕や父の応援を糧に、是非再び強いドラゴンズが見たいものである。

まだ時間がある。散策しよう。スマホで音楽を流し、散策する。さすが一流ホテル。ロビーには多くの店。どの店も商品は高価である。「すげぇ。」そんな言葉が口から飛び出す。お金持ちはこういうお店でお金を使うのだろうか。きっとそうなのだろう。お買い物も娯楽の1つである。

♦♦♦

待ち合わせの時間だ。ロビーから離れ、エレベーターへと向かう。行き先は最上階。伯父へのプレゼントはバッグの中に隠す。伯父と会うのは久しぶりだ。その嬉しさに胸が高鳴る。<ピンポン>。エレベーターが到着する。僕はそのエレベーターに乗り込み、最上階のボタンを押す。動くエレベーター。暫しの沈黙。<ピンポン>。エレベーターが到着する。

絶景。最上階からの眺めは格別だった。ここで伯父と食事をするのか。そこは未知の世界だった。今日は僕の退院祝いである。そのためにここまで伯父がしてくれる。伯父に対する感謝の気持ちが高まる。どうやら僕は恵まれているらしい。そんな事実を再度確認する。

「よぉ。」伯父から声をかけられる。いつも通りの伯父。その優しさが身に染みる。


#12 the monogatary | いつか

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僕は空想する。もしも僕の親ガチャが当たりだったら、僕はどんな子に育ったのだろう。もしも僕がまともな学生生活を送れていたのならば、僕はどんな恋人と付き合っていたのだろうか。

自宅に戻り、YouTubeを開く。チャンネルは中日ドラゴンズ。小笠原選手や柳選手、大野選手が秋のキャンプに取り組む。ドラゴンズの今季の成績はBクラス。昨年はAクラス。与田監督が退団し、新たに立浪監督がチームを率いる。期待しかない。関東に在住している自分にとって愛知は遠いが、機会があれば行きたいと思っている。ドアラが好きだ。彼が一所懸命にバク転している姿を見ると、心が温かくなる。

ドラゴンズの活躍はYahooを通じて確認していた。個人的には根尾選手を応援している。彼が甲子園で見せた雄姿を、プロの世界でも見たい。そんな気持ちが僕にはある。既にレーザービームで観客を興奮させることは出来る。あとは打つのみ。是非ともノリコーチの指導によって、覚醒した根尾選手をこの目で見たいものだ。

FGOを開く。イベント開催中のFGO。特にぐだぐだシリーズは人気で、沖田ちゃんは皆の注目の的である。最近始めたFGO。戦力は揃ってきた。イベント最終日。周回するしかないのであった。

FGOでは最近サーヴァントコインが実装された。コインを一定数集めると、アペンドスキルを習得することが出来る。まだまだ実装されて日が浅い機能ではある。しかしそれに伴い、運営は気軽に伝承結晶を配るようになった。実に良いことだ。やはり初心者に優しいゲームはありがたい。

明日はYouTubeでFGOの生放送がある。しかし夕方に相談支援の人と会う約束をしている。もしかしたら、その生放送はちゃんと見ることができないのかもしれない。こればかりは。受け入れるしかない。

大事な決断を下す時。その時が明日かもしれない。グループホームに住むのか否か。その決断を明日下す。

起床し、身支度を整える。気持ちの良い朝だ。カーテンを開け、日光を浴びる。体内時計をリセットする。そして電車にて目的地へと向かう。多くの乗客で賑わう車内。昔を思い出す。

(野球部時代はよく始発に乗っていたっけ。)

そんなことを考える。あの頃は様々なものを犠牲にしながら、僕は生きていた。睡眠はその筆頭である。始発の電車に乗り、朝練に参加する。朝練以降は授業に出て、その後は練習。練習が終わり次第、ジムでトレーニング。そして夜の電車で帰宅する。そんな毎日。

(充実していた。)

僕はそう思う。色々と悩みを抱えていた僕は、忙しさに身を埋没させることで、正気を保っていた。誰にも悩みを打ち明けることのない日々。孤独な日々。

(辛かった。)

思わず涙がこぼれる。昔の僕は苦しい経験をすればするほど、人間は成長できると信じていた。しかしながら、現実は違うらしい。この世は非情であり、残酷なのだ。


#13 the monogatary | 起点

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あの日。僕は何度失敗を繰り返してこの人生を歩むのだろう。僕は何度後悔するのだろう。

「大丈夫。今の自分を大切に。」

あの日、彼女とした約束を胸に、僕は生きている。

♦♦♦

高校時代を野球に捧げた人生は悪いものではなかった。家庭内で色々といざこざはあった。でも野球を意識するとそんな悩みも小さなことだった。僕にとって野球は、幸せの象徴だった。そんな時に、僕は彼女と出会った。天真爛漫。彼女はよく笑顔を浮かべていた。

高校3年の夏。何かが変わる予感がした。

♦♦♦

僕はキャッチャーだった。練習ではピッチャーの球を受けてはアドバイスを送り、全体練習の後はコソコソとトレーニング。誰も僕のことを認識などしていない。でもそれで良かった。自分はひたすらに、野球と出会えたことに感謝していたのだから。

迎えた最後の夏。自分の背番号は12。良い番号だ。期待を胸に、僕は今日もグラウンドに駆け出す。

彼女はそんな僕をいつから認識していたのだろう。不思議でならない。

高3の夏が終わり、秋を迎える。高校球児として出来ることはした。あとは僕の想いを後輩に託す。悪くないだろう。きっと天国のおばあちゃんも許してくれるだろう。

幸せとは。生きていることは幸せか。否。生きていることは幸せではない。どれだけ自分の欲求を満たしていけるか。それが幸福な人生を歩むための条件だ。

僕は誤解していた。誰よりも一生懸命に生きて、笑って、人生を楽しむこと。それが人生の到達点だと思っていた。どうやらそうではないらしい。あの日、彼女が流した涙を、僕は忘れることができるだろうか。

迎えた修学旅行。人生で最後の機会となるだろう。楽しみたい。そんな欲求を胸に、僕は北海道を目指した。

東京生まれの僕にとって、北海道は印象深い土地だった。何もかもが大きく感じた。不思議と肩の荷が降りる。やはり休息というものは必要だ。激動の日々を送ってきた僕にとって、この土地は居心地が良かった。

視野が狭い。そんな言葉を僕はよく投げかけられる。余裕が無いのだろう。当然だ。むしろ自分のような人生を送って、優雅に暮らせる人がいるのであれば、是非ともその人に会ってみたい。

「偶然だね。」

気付くと彼女は僕の隣にいた。

「そうだね。」

無難な返事を返す。

彼女はクラスの人気者だ。色々とミステリアスな部分もあるが、こうやってまともに話すのは初めてだ。

「お疲れ様。惜しかったね。」

野球のことだ。

「ありがとう。あんな暑い中、応援してくれてありがとね。すごい励みになったよ。」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。」

本当に、高校球児は恵まれていると思う。あれだけの声援を浴びながらプレーできるんだ。あれだけの注目を集める機会は、人生でもそう多くはないだろう。

「悔いはない?やりきった?」

「うん。清々しい気分だよ。」

「そっか、なら良かった。ところでさ、何か面白い話してよ。」

いきなりの無茶ぶり。戸惑う。

「いきなりだね。」

「でもそういうの得意でしょ。」

得意ではない。断じて。でもここで話の腰を折るわけにはいかない。ゆえに僕は話す。オーストラリアにいた頃の話を。

オーストラリアでも日本と同じように、修学旅行みたいなイベントがある。でもその行き先がちょっと特殊。なんと場所は国立公園。さすが自由の国。スケールが違う。僕たち小学生はそこでテントを作り、そこを拠点に生活する。彼女にはそんな話をした。あの頃は本当に楽しかった。

「面白い!」

彼女は僕の話に耳を傾ける。不思議とそんなに悪い気分ではない。

どれだけそんな他愛もない話をしただろう。気付けばお互い、疲れていた。


#14 the monogatary | 月姫

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ゲームクリア。

今話題の人気作、月姫をクリアした。クリアといっても、物語を完結させたのはアルクルートだけ。まだシエルのルートが残っている。聞く話によると、今回のリメイクは分作らしい。まだまだ奥が深い月姫。今後が楽しみで、夜しか眠れない僕なのであった。おしまい。

と冗談はここまで。PVに惹かれ、購入した月姫。素晴らしいゲームだった。月姫は型月の原点であり、傑作である。同人ゲームとして販売された原作は、その何枚にも及ぶグラフィックの数々など、同人ゲームとは思えないその圧倒的なボリュームゆえに、話題作となった。ゆえにそれ以降、多くの2次創作が、世の中に出回った。そんな月姫が今回、多くの年月を経て、リメイクされたのである。

主人公の名前は遠野志貴。彼は幼少期に瀕死になり、その出来事をきっかけに魔眼を宿すことになる。その名も「直死の魔眼」。その対象が何であれ、ありとあらゆる死期を、彼は感じ取れるようになったのである。そんな彼が入院時、遊び半分でベッドの線をなぞる。すると、そのベッドは見事に壊れるのである。周囲はもちろん、その結果を起こした本人も驚く。実はこの魔眼、使っているとめちゃくちゃ疲れるのだ。ゆえに志貴は苦しむ。その線を見ている限り、彼は平常心を保つことが出来ないのだ。しかしここで、彼は運命的な出逢いをする。

病院から離れ、近くの草原で物思いにふけっていた志貴。そんな彼に1人の女性が近づく。赤い髪。その髪は地面に届きそうな程に長く、その髪質は艶やかである。志貴に限らず、1度見たら誰しもが興味を抱く。そんな魅力が彼女にはあった。

「どうしたんだい、少年」彼女は気さくに彼に声をかける。まだ若かった志貴は、そんな彼女と交流を深めていく。そしてある時、志貴は彼女に告げる。「僕、モノが壊れる線が見えるんだ」そう彼が告げると、彼女は眼鏡を取り出し、彼にプレゼントする。その眼鏡を彼がかけると、彼が見る世界は、普通の世界に落ち着いていく。

これが月姫のプロローグ。物語の始まりである。

「こっからが月姫なのですよ」田中はそんな言葉を吐く。田中はオタクである。特に型月にはうるさく、FGOもプレイしているという強者である。どこにそんな余裕があるのか。同じ学生という身分でありながら、僕にとって田中は別次元の存在だ。

そんな月姫リメイクが発売されたのは2021年8月26日。またそんなに日は経っていないが、一足先に月姫をプレイした田中は、その出来の凄さに驚いていた。

「いや~、待った甲斐がありましたな!」「名作ですよ、これは!」「続きが楽しみ!」そんな賞賛の言葉を淡々と述べる。田中とは長い付き合いだが、このマシンガントークには未だに慣れない。いつか慣れる日が来るのかもしれない。でもそんな彼が魅力的だと思っている僕としては、田中にはいつまでもマシンガントークを披露してほしいと思っている。

「プレイした?」そんな言葉を彼が告げる。「いや、まだ買ってないんよ。」そう僕は答える。サークル活動で身を粉にしている自分には、中々ゲームに割く時間が無い。それでも華の大学生。遊べるうちに遊んだほうが良いのだろう。田中も勧めているし、そのうちプレイしたいとは思っている。

田中:ヒロインが魅力的だよね。アルクェイド。かわいい。本当に。はぁ~、現実でもこんな出逢いがあったらなぁ~。まあ将来に期待だね。なんせ俺、面白いから。

吉田:でもその主人公、猟奇的なんだろう。18禁のゲームだし、ちょっと手が出しにくいなぁ~。

田中:いいから一度やってみろって。マジでおすすめ。こんな出逢い、珍しいぜ。毛嫌いするなって。

吉田:まあお前がそんなに言うなら、やってみるよ。

そんな会話を田中とする。いつも通り、坂道を歩きながら。どうやら月姫の主人公は遠野邸と呼ばれる立派なお屋敷に住んでいるらしく、坂道を歩いて通学しているらしい。そんな共通点に思いを馳せながら、僕と田中は会話する。

平日は共に学業で忙しく、田中と会うのはいつだって週末だ。平日に知識をインプットし、週末にアウトプットする。そんな理想的な学生ライフを僕たちは過ごしている。田中とは中学からの付き合いで、家が近かった僕たちは、よく帰り道を友にした。大学生になり、それぞれ1人暮らしを始めた僕たちは同じ大学に通いながら、時々こうやって会い、色んな会話をする。そんな普通の日々が自分にとってはかけがえのない日々であり、貴重なものだと、いつも思う。友情とははかないものだ。だから、大事にしたいと僕はいつも思う。

田中:絶対プレイしろよ。月姫。お前の感想楽しみにしているからな。

吉田:分かったよ。結構ボリュームあるらしいから覚悟して買いますわ。買ったらまた連絡する。

田中:おうおう。真面目なお前の感想、期待してる。

そんな会話を大学近くのカフェで行い、帰路につく。

田中との会話を終え、帰宅する。財布を所定の場所に置き、いつも通り携帯を充電コードに繋げる。そしてベッドに寝そべる。そんな日々。課題は山ほどある。文学部に通う身として、週末は忙しい。幾つかの文学作品に手を伸ばしながら、月姫に思いを馳せる。

課題は山ほどある。でも時にはリラックスるするのも悪くない。そう思い、switchに手を伸ばす。ゲーマーである自分は多くのソフトを有している。しかしやる時間がない。そんな日々だ。でも田中があれほどおすすめするゲーム。気になる。田中とは古い付き合いであり、色々と破天荒な彼だが、その審美眼は超一流。奴が面白いといったゲームは、いつだって名作である。そんな言葉を信じ、月姫を購入する。大学生にとってその価格は痛いが、まあバイトを頑張れば取り戻せるだろう。

ダウンロードに時間がかかる。その間、課題に着手することにした。ゼミの課題だ。シェイクスピアを中心に学ぶ自分の研究テーマはホーキング博士の文学性。少し突飛なテーマではあるが、オリジナリティがあると自分は思っている。頑張ればきっと良い論文になる。そう信じ、僕は今日も課題に向き合う。

♦♦♦

どれぐらい時間が経っただろうか。ありとあらゆる資料を吟味し、検討していたら、数時間が経っていた。ふとswitchに目をやると、ダウンロードが完了していた。まだまだ課題はたくさんあったが、ひとまず月姫を優先することにした。今日は土曜日。日曜日に頑張れば、学業に支障が出ることは無いだろう。そう信じ、僕はswitchに手を伸ばす。

BGMが流れる。どこか悲壮感のある、ゆったりとした音楽。そんな音に耳を澄ませながら、タイトル画面を見る。月姫。タイトル画面にはその2文字が燦燦と輝いていた。

NEW GAMEとあったので、そのボタンを押す。リメイクに伴い、色々な機能が実装されているみたいだ。話題作のリメイク。その出来に心を躍らす。予習としてYouTubeにあった月姫関連の動画は漁った。どれも凄い出来で、Fate同様、今作も人気があればアニメ化するかもしれない。人気があれば。

♦♦♦

プロローグを終えた。どうやら田中の言う通り、今作は傑作なのかもしれない。シエルルートを体験する為にはどうやらアルクルートをまず先に攻略しないといけないらしい。中々のボリュームである。学業優先。そう心に誓い、そっとswitchから指を離す。今日はここまで。また日を改めよう。そうセルフトークし、今日はひとまず寝ることにした。

♦♦♦

田中:で、どうだったよ。月姫。プレイしたか。

いつも通り大学近くのカフェで待ち合わせをし、席に着く。話題は勿論、月姫だ。既に攻略した身として、田中は興味深々である。

吉田:とりあえず購入はしたよ。まだ全然進めてないけど。でも面白そうだね。今後に期待。

田中:おぉ~。いいね。良い感想だ。まずはアルクルートだね。だいぶ加筆されているからボリュームあるけど、BGMとかグラフィックが凄いから、プレイすればするほど深みにはまると思う。

吉田:なるほどね。まぁお前の言うことはいつも正しいからな。お前の言葉を信じるよ。

そう告げると、田中は微笑む。こいつの笑顔は妙に人を引き付ける。天性の才能だろう。落ち込んでも、田中と話すと前を向ける。そんな魅力が彼にはある。

吉田:まあまた今日とかプレイすると思うから、そしたらまた感想を述べるわ。

田中:おうおう、楽しみにしてるよ。

そう会話をし、お互い帰路に就く。


#15 the monogatary | 絆物語

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森泉:「いや~、早いっすね!」今日も陽気に彼は笑う。 クリス:「もちろん!そのための朝活だし!」僕は元気に回答する。 新しい環境。新しいサークル。新しい生活。 この世は魅力に満ち溢れている。楽しい。 そんな感情は久々である。 苦難ばかりの人生。 世の中、谷あり山ありという。 人によって、ストレスは様々。 それでも。レベルが違う。 私はそのように感じる。 私にとってはそれが普通で。 私にとってはそれが日常で。 私にとってはそれが全てだった。 しかしながら。今は違う。 環境の変化と共に、私の捉え方も変わる。 しかしながら。受けた傷は癒えない。 その傷はあまりにも重々しく...。

AIESEC。私はこのサークルに出逢えたことを、心の底より感謝している。私はAIESECにとって、どのような存在なのだろう。私は貢献できるのだろうか。私は正常なのだろうか。分からない。それでも。大学生になって、数日が過ぎた。少しは慣れてきたのだろうか。少しは成長出来ているのだろうか。

華々しい学生生活を送ることは不可能だろう。きっと、私は影の道を歩むことになる。ゆえに。光を浴びることが出来るのは、きっと一瞬なのだろう。いずれ、私は孤独と向き合わなければいけない。

人生とは。人の数だけ人生がある。人の数だけ悲しみがある。

私はいつも翻弄されている。社会に。家族に。仕事に。それでも。ただひたすらに。私は諦めたくない。私は、ただひたすらに、可能性を示したいのである。惨めな人生。それでも。私は間違っていないのだと。ただ、それだけの為に。私は生きている。

私は間違っているのかもしれない。誰からも認知されず、この命は尽きるのかもしれない。それでも。私は前進したい。私は苦しみたい。その先に栄光があるのなら。


#16 the monogatary | オールマイト

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「私が...来た!」オールマイトの台詞。その言葉が頭から離れない。私の人生の意味を見出すのは、いつだって私自身。私は、人生の主役に成り得ているのだろうか。私の人生は、誰かの役に立っているのだろうか。

『僕のヒーローアカデミア』。とても魅力的な作品である。個性的なキャラクターの数々。作画の丁寧さ。非常に練度の高い作品のように感じる。さすが、ジャンプ作品である。しばらく、私はジャンプを購読している。ジャンプは作品の入れ替わりが激しい。いつだって、天下一舞踏会が、ジャンプでは開かれている。熾烈な掲載順位争い。ジャンプの漫画家であれば、たとえその方が人気であろうと無かろうと、上記の戦いを強いられる。ゆえに。上澄みのみが連載されている。

世の中には多くの漫画が存在している。世は戦国時代。漫画家は己の人生を賭ける。成功する者は一握り。それでも。彼らはまだ見ぬ明日を求めて、紙に命を捧げるのである。

世の中には様々なステージがある。私たちは自身の能力や年齢に合わせて、自らに適したステージを選び、歩を進める。エリートコースをひたすら歩き続ける者もいるだろう。エリートコースから脱落する者もいるだろう。それでも。きっと誰しも必死に今日を生きている。

心。これほど難しいものは無い。果たして。私たちに心は存在するのか。漠然的。それでも。往々にして、私たちは自身の心と向き合っている。人の数だけ人生がある。それでも。私たちは自身が主役なのだと疑わず、日々精進していく。時には辛いこともあるだろう。逃げ出したくなる時もあるだろう。それでも。きっと未来は希望に溢れているのだと信じて。そのような幻想を胸に抱きながら、多くの挫折を経験し、そして私たちは成長していくのである。

結局、人生とは繰り返すことである。日々のルーティーンをこなし、微調整し、また同じことを繰り返す。そのような研鑽を積むことこそが、人の美点であり、役割なのである。


#17 the monogatary | Lost

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出逢いとは何か。歴史とは何か。私たちは、どのような物事に対し、共感し。そして成長するのか。世の中、分からないことだらけ。それでも。私は前に進みたい。たとえその道のりが平凡であろうとも。たとえその人生が苦痛に満ち溢れていても。たとえ私が愚者であったとしても。

私たちは、日々失っていく。その連鎖の上に、私たちの人生は成り立っている。ゆえに。私たちは取捨選択を行う。ゆえに。私たちは高みを目指す。人生とはその繰り返しである。ある時は笑い。ある時は悲しみ。様々な感情の起伏を経て、私たちは己のキャンバスを彩っていく。

無味無臭な日々。そんな日々から、私はいつ抜け出すことが出来るのだろうか。私の人生に、彩は存在するのか。私は一体、何の為に生まれたのか。なぜ、私はこのような苦痛を味わう必要があるのか。私はどこかで道を間違えてしまったのだろうか。自問自答してばかりの人生。それでも。きっと明日は来るのだと信じて。


#18 the monogatary | 言葉のマジック

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春だから。その言葉に私は何度も救われる。

季節は巡る。人知れず。ひっそりと。私たちは、ひたすら、それを繰り返す。私たちは繰り返す生き物である。コツコツと、努力し続けることで、私たちは花を咲かせる。結局、世の中、努力次第。私はそう信じていた。しかしながら。私は知らなかった。その言葉が、ただの妄想であるのだと。

妄想。私たちはいつだって、なにかに縛られながら、人生を送っている。お酒やたばこに依存する人もいる。中には麻薬に手を出す人もいる。多種多様である。そのような中で、私たちは何を考え、どう行動し、そして何を紡ぐことができるのだろう。

個人の力には限度がある。それでも。私は信じたい。きっといつか、奇跡は訪れるのだと。きっといつか、私の努力は報われるのだと。血迷っているのかもしれない。私は間違っているのかもしれない。それでも。私は前進したい。それだけが、私の長所なのだから。

それは小さな希望なのかもしれない。それでも。私たちは前を向く。それでも。私たちは星を見上げる。きっといつの日か、あの一番星のように、輝けるのだと信じて。


#19 the monogatary | オセロ

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その1球に、私は魂を込める。きっと、この1球を通じて、皆が幸せになると信じて。 野球。実に奥深いスポーツである。日本のみならず、世界は大谷を通じて、野球に魅了されている。今年開催されたWBCが実に良い例である。あれほどの盛り上がりを見せたWBC。その要因に、大谷の影響力は計り知れない。もちろん、ダルビッシュ選手を筆頭に、多くの魅力溢れる選手がプレーしたWBC。その最後は、大谷とトラウトとの真剣勝負。大谷は最後の1球としてスイーパーを選択し、そのボールにトラウトがフルスイングで応じる。スポーツマンシップとは。国際交流とは。多くの問いに対する答えが、そこにはあった。


#20 the monogatary | 分岐点

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それは、夢のような時間。たとえ終わりが見えていたとしても。私は進む。

分岐点。その言葉は重い。
その言葉は私を狂わせる。

惨めな人生。
私は一体、何の為に生きているのだろう。

#21 the monogatary | 星空

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あの星に、私は願いを委ねる。たとえ、その行為に意味など無かったとしても。たとえ、その夢が叶わぬ産物であろうとも。

必死に生きてきた。その努力に、どれだけの意味があるのか。たった1つの過ちで、人生は容易に崩壊する。たった1つ。それだけ。

生きるということは、選択の連続である。正義のヒーロー。私は正義のヒーローになりたかった。実際はどうだろう。私は近付けているのだろうか。私は前に進めているのだろうか。

夏。高校野球の季節である。球児たちは、自らの実力を示すため、自身が歩んだ道が、どれほどに輝かしいものなのか示すため、貪欲に白球を追い続ける。私は想う。高校球児に敗者など存在しない。あれほどの舞台に立てること。それこそが、彼らの証なのである。


#22 the monogatary | ハッピーエンド

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帰り道。周囲には大勢の人々。その空間は静けさに包まれている。たまに聞こえる機械音が心地良い。

あぁ、眠くなってきた。少し仮眠を取ろう。最寄りに着いたら、食事を摂ろう。そして、ジムで少しトレーニングをしよう。そんな日々。そんな毎日。

★★★

あれからどれだけの年月が過ぎたのだろう。良くも悪くも、今の私は結婚している。子供も産まれた。妻とは良好な関係を築けている。

私の過去は苦痛に満ちている。その苦しみを、私は簡単に表現することが出来ない。

笑い話にすることが出来るだろうか。おそらく出来ないだろう。きっと私は、死ぬ迄、恨むのだろう。それで良い。それが良い。私にはその権利があるのだから。


#23 the monogatary | 許さない

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『最高の教師』が面白い。印象的な第1話。話題作である。そのような中で、第2話が公開。私はHuluで視聴した。問題時だらけのクラス。左記において、「何でもする」と誓った担任。序盤で彼女は強盗に襲われる。何とか窮地を脱した彼女。調査の結果、彼らは自身の生徒であることが発覚。第2話は、そんな2人の男子生徒に焦点を当てた物語。

★★★

「許さない。」男子生徒が自らの母親に対して、宣言する。きっかけは担任教師からの言葉。そして、親友の想い。「どのような家庭環境で育ったのか。」人生を語る上で、この要素を無視することは出来ない。そのような中で、彼の担任教師は、「自らの人生が、友人の言葉で満たされている」と告げる。友人との出逢い。それは学生生活の中で、最も重要視すべき事柄なのかもしれない。

「一期一会。」左記の言葉を胸に、男子生徒は勇気を振り絞る。

★★★

人生とは、取捨選択の連続である。私たちは、「捨てる」ことで成長していく。人の数だけ、人生がある。人の数だけ、可能性がある。人の数だけ、ドラマがある。

テストで常に満点を取ることは出来ないかもしれない。それでも。私たちは努力する。


#24 the monogatary | ピクニック

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私は歩く。まだ見ぬステージを求めて。

★★★

時刻は夕方。続々と生徒が集まる。

恒例のピクニック。長丁場。全力で駆け抜ける者もいる。仲間と共に、談笑しながら、その時間を楽しむ者もいる。活かし方は人それぞれ。互いの想いを胸に、今、ピクニックが始まる。


#25 the monogatary | やめて

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人は繰り返す生き物である。それでも。時に。人は繰り返しを好まない。

♦♦♦

幸せになりたい。そんな素直な願望に気付けたのは、一体いつだったか。

たった一言。それだけを相手に伝えることができれば。私の人生というキャンバスは色彩豊かな作品になるのだろうか。分からない。それに。過去ばかり気にしていても。きっとそんな状態では前進することは叶わない。未来を変えたいのであれば。今を変える努力を怠ってはいけない。

★★★

最近、『高慢と偏見』という作品を読んでいる。正直、衝撃を受けた。物の見方1つで、人の意見は簡単に覆る。どのような形で物事を捉えるのか。往々にして、この世の出来事は多角的である。ゆえに。私たちは勉強する。自身の確固たる意見を持つため…。


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