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明治時代の学び舎が現代によみがえる! 「古色仕上げ」のワザが活きる、机と椅子のレプリカ制作
こんにちは、ナカシャクリエイテブの文化情報部です!
第一回目のレポートは、文化財のレプリカ制作事例をご紹介します。レプリカとは、博物館などの文化施設に所蔵される文化財の複製のことです。私たちが手がけるのは絵図や古地図、古文書など、“紙物”と呼ばれるレプリカがほとんどですが、立体物のレプリカを制作することもあります。2021年に岡山県高梁市から依頼をいただいたのが、復元された小学校校舎に展示する、机と椅子のレプリカ制作です。
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この旧吹屋小学校校舎は、明治時代に建てられた建物で、2012年に閉校になるまで「現役最古の木造校舎」として使われていました。当時の様子を再現するために制作したのが、机と椅子のレプリカです。レプリカの古色仕上げを担当した遠藤誠と、文化財コンサルタントの植木萌に、制作にまつわるエピソードを聞きました。
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倉庫の中に眠っていた、明治時代の机。
――旧吹屋小学校のレプリカ制作は、どのように始まりましたか?
■植木:最初は私たちコンサルティングのメンバーだけで、高梁市に打ち合わせに行きました。その時に市の担当の田村さんから「奥の倉庫に古い机がある」とお聞きしたんです。早速倉庫に行って、机を見せていただきました。その時の写真がこれです。
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■遠藤:すごいな。
■植木:「この机は明治時代のもので、これをベースに当時の教室を復元したい」というお話をいただきました。「ここからどうやって作ろう」となった時に田村さんからご紹介いただいたのが、地元の木工屋さんの藤原木工さんです。その日に訪問して、「こういうものを作りたい」という話をしました。そしたら、その場で社長さんが実際に使うものと同じ木をサンプルとして切り出してくれました。
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■遠藤:それがこの木ですね。
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■遠藤:植木から渡された時は当然、何も塗っていないきれいな状態。じゃあどういう色にしましょうという時に、まずベンガラという顔料を使ってほしいという条件を聞きました。
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■植木:ベンガラを使うことは高梁市から指定されたわけではなく、私たちが考えたことです。ベンガラは江戸時代からこの地域で産出されてきた顔料で、品質の高さを全国に知られていたそうです。そういうことも含めてまちの歴史を伝えるための展示施設なので、「色付けにベンガラを使えたらいいね」という話になりました。
■遠藤:この木材とベンガラが僕の手元に来て、次に行ったのが色を確認するための見本づくりです。ベンガラだけを塗ったものや、その上にワックスを塗ったものを、塗る回数を変えて用意しました。
ムラが出れば出るほどリアルになる。
――その一方で、椅子はどのように作ったのですか?
■植木:吹屋小学校で使われていた椅子が残っていなかったので、市の担当者が同じくらいの時代に作られた類似の椅子を探してこられました。その椅子は机と大きさが合っていなかったのですが、木工業者さんが「このくらいの寸法になるだろう」と考えて、図面を描いてくれました。
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■植木:また、机と椅子だけでなく、教卓もその木工業者さんで作っていただいています。こちらからは「こういう形で」という大まかなオーダーしかしていないのですが、そこから細かい形や寸法を考えて、図面を引いてくれました。
――とても対応力のある方なんですね。
■植木:そうですね。細かいところまで配慮してくださいました。たとえば椅子の背もたれの部分は、座った時に背中が痛くないように曲線の形状になっています。細部までこだわりを感じました。
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■遠藤:あとは木の組み方ですね。昔ながらの「ほぞ組み」という接合方法で、釘を使わずに組んでいました。普通の大工さんだったら釘をパパンと打ってもっと簡単に作るんでしょうけど。
――そうして作られた机や椅子に、古色仕上げを施したわけですね。
■遠藤:はい。そこからお客様に確認いただいた色に合わせて塗っていきました。塗る作業をしたのは、普段からレプリカの彩色をお願いしている手彩師の方です。ベンガラは筆で塗るのですが、ワックスは全部ウエスを使って手塗りしました。
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■遠藤:その時に意識したのは、わざときれいに塗らないことです。ムラが出れば出るほどリアルになるので、あえてきれいに仕上げないようにしました。
この机や椅子は、子どもたちが実際に手で触ったり座ったりするものです。だから、安全な塗料を使ってほしいとお願いしました。ラッカー系のワックスを使わず、オーガニック系のワックスを使いました。
――ワックスの種類もこだわっているんですね。
■植木:お客様から指定されたわけではないのですが、遠藤の発案でそのようにしました。オーガニック系のワックスを使うことはお客様にもお話ししておらず、色味のご確認だけをしていただいています。
――最終的に、何回塗ったのですか?
■遠藤:ベンガラは薄く2回、ワックスは3回塗りました。色を塗る時にいつも意識しているのは、濃い色を一度に塗るのではなく、薄い色を何度も重ね塗りすることです。たとえば刷毛で塗る場合、濃い色を一度で塗ると刷毛の線が出てしまったりします。そういう不自然なムラが生まれるのを避けるためです。
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「懐かしいね」という卒業生の反応
――古い時代の机や椅子に見せるために、意識したことは何ですか?
■遠藤:長く使われてきた机や椅子は、背中が当たる場所や手で触れる場所がこすれてツヤが出ます。そのツヤを出すために、ところどころ乾拭きをしました。わざとツヤを出したり出さなかったりすることで使用感を出し、リアルに見えるようにしました。
――レプリカが完成した後、高梁市の方からはどのような反応がありましたか?
■遠藤:皆さんに喜んでいただけたよね?
■植木:そうですね。すごく良い反応をいただきました。この建物は2012年まで小学校として使われていて、卒業生の方がたくさん地元にいらっしゃいます。その方たちが見に来られて、「懐かしいね」「昔こういう机や椅子を使っていたよね」と話されていたことが、特にうれしかったです。
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また、施設のオープンに立ち会わせていただいた時、若い方や子どもさんが楽しそうに見てくださっていました。私の世代はこういう木の机や椅子を使ったことがありませんが、実体験がなくても何か懐かしい気持ちになります。多くの方がそう感じてくださったと思います。
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――立体物のレプリカ制作の事例として、遠藤さんは今までどんなものを手がけてきましたか?
■遠藤:たとえば以前、昔のお菓子屋さんや酒屋さんの店舗を再現する仕事をしました。そういう時は、「ゴールデンバット」のような昔のたばこの箱や、缶詰などのレプリカも作ります。昔のたばこのパッケージを撮影して印刷し、発泡スチロールのようなものに巻いて、たばこ屋さんの店頭に並べました。
他には、資生堂さんの資料館に展示するために、昔の香水の瓶のレプリカを作ったこともあります。大量生産するわけではないので、瓶を一点だけ作ってくれる会社を全国から探しました。
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――そういうものも作れるんですね!
■遠藤:材料などが今の時代に残っているものなら、基本的にどんなレプリカでも作ることができます。
――レプリカの制作は、貴重な文化を後世に伝える意義があると思います。遠藤さんの中でそういう使命感が大きいのでしょうか?
■遠藤:それよりも僕の中で大きいのは、「お客様の期待に応えたい」という思いですね。本物そっくりなレプリカを作って、お客様に喜んでいただきたい。とにかくその思いだけで仕事をしています。
(次回はレプリカマイスターの遠藤誠に、これまでの歩みや紙物のレプリカに対するこだわりを聞きます!)
文:堀場繁樹
写真:奥村要二