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403.みんなの持っている、過去の経験や体験は財産なんだ。

「発想のヒント」過去の体験や経験の組合せがアイデアになる

誰もが知っている「ごきぶりホイホイ」アース製薬㈱。しかしこの発明が無名のずぶの素人のアマチュア発明家だったことは誰も知らない。

しかもこの発明家、現役引退し、悠々自適の生活を送る優雅なシルバー世代だった。アイデアのレベルは決して高度な発明ではない。

しかし、「ごきぶりホイホイ」というネーミングも話題をさらった。
これは日頃ゴキブリに悩まされる主婦達の心を揺さぶり射止めた。
そして、発明後なんと二十三億円という驚異的数字を記録した。
この発想はどこから出たのだろうか。

昭和三十年代頃、全国各地の家庭の台所や縁側などには「ハエとり紙」が広げられていた。
今の若い人達にはわからないかもしれないが、当時は一般家庭にはテレビや冷蔵庫もない時代。この「ハエとり紙」の表面にねばり気のある一種の接着剤が均質に塗布しており、ハエがその上に止まれば脚がくっついて抜け出せずそのまま死んでしまうという原始的な捕捉装置。二、三日後には折りたたんでそのまま捨てる使い捨て商品ともいえる。

原案者の大野源治さんは、その「ハエとり紙」の原理をゴキブリにも利用できないかと考えた。
発明・考案といえばほとんどが最初の着想からだが、大野さんのアイデアはあるものから考え出すというユニークな発想だ。
しかし、現実的にゴキブリとハエは別のもの。
そのまま転用するだけでは完璧ではないことに彼は気づいていた。

そこで、ゴキブリを誘引する仕掛けが必要だとひらめいたのである。
それではなぜこの発想が生まれたのだろうか。

大野さんが長年勤務していた企業は、コピー機器の最大手、㈱リコーである。当時、大野さんは、コピー用の化学薬品を取扱う責任者として薬品倉庫に出入りする機会が多く、しばしば倉庫内でもゴキブリを見かけていた。しかしなぜか、特定の薬品を入れた袋の周囲にゴキブリが集まっており、もしかするとその袋の中の薬品の成分にゴキブリを誘引する効果があるのではないだろうか。

「よし、このハエとり紙に、誘引剤としてある薬品を組み合わせれば、ゴキブリを一網打尽にやっつけられるにちがいない」その薬品倉庫での記憶がよみがえり、大野さんの考えていた「ゴキブリとり器」はより具体化したという。

人の過去の経験や体験は知的財産といえる。
人はこの経験や体験の中から、さまざまな組合せがヒントとなりひらめきが生まれアイデアという形に変っていくのである。

大野さんはその後、そのアイデアを殺虫剤で知られるアース製薬に不安と期待をもって持ち込んだ。

従来は強力な殺虫効果のある薬剤によって駆除するという考え方が常識だったため、殺虫力の強い化学薬品の研究開発が中心だった。
しかし大野さんのアイデアは、ゴキブリを誘引してハエとり紙方式で捕捉しようというアイデアは、とても意外性がありヒット商品になる可能性があったのである。

だからといってすぐに商品化されたわけではない。
この大野さんの提案を採用したアース製薬は商品化するまで研究を重ねたという。つまり、捕捉する箱の形状に一年以上もかかったのである。
つまり、ゴキブリが入りやすい箱の形状、平らにするか三角形にするか、入口の広さや高さ、入口の位置、色、材料、折りたたみ方、組み立て方、誘引剤の量、接着剤の塗布の仕方・・・・・等と細部にわたってくり返し検討が加えられたという。

やはりヒット商品が世に出るまでには、それ相当の期間が必要ともいえる。そして一年。いよいよ発売の段階。
しかし、この時点では、まだ商品名が決ってはいない。

この商品名で苦しみながらも、結局、発売直前に、アース製薬の大塚正士会長が、ゴキブリがほいほい捕れるという意味をもった「ごきぶりホイホイ」を提案。

そして決定。

しかし、これには裏話があり、アース製薬の特別プロジェクトチームでは、「ゴキブラー」にしたかったのだが、調査をしたら、すでに他社の商標登録になっていたために断念したという話もある。

しかし、「ごきぶりホイホイ」は、なかなかのネーミングで、いちど聞いたら忘れない面白さと覚えやすさとユーモア的な部分もある。このようにヒットの条件としては、ネーミングの面白さがある。

「ごきぶりホイホイ」は、このように原案者のユニークな発想と、それを実現化した研究スタッフの地道な努力があったために生まれた商品だ。

企業とアマチュア発明家の共同発明の手本となるものだろう。しかし、この大野さんの過去の経験と体験がなかったら、このアイデアは今も生まれていなかったかもしれない。

懐かしいアース製薬 ゴキブリホイホイ CM 1996

アース製薬 ごきぶりホイホイ



※「撮る自由」というテーマの肖像権問題を取り上げ続けてきましたが、次の新シリーズまで、少しばかり準備期間を置きます。

どうか、よろしくお願い致します。

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