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【コラム】漆器と小松菜の煮びたし

いつだっただろう。この漆器と出会ったのは。

多分、吉祥寺の中道通りを歩いていたときだったと思う。
一軒の古道具屋さんを見つけて。
自然と吸い込まれるように、入っていった。

「こんにちは」 と言うと
「いらっしゃいませ」 とかえってきた。

か細くて、しなやかな、そんな女性の声。
中に入ってみると、たくさんの陶磁器とガラス製品、
そして漆器が並べてあった。

どんな物があるのか、
ひとつひとつをしっかり見るようにして
店内を歩いてみた。


江戸のものは、粋がある。
明治は、日本と海外の融合。
大正は、レトロ。
そんな風に。


そして、見つけたのがあの漆器だった。
柄もなく、ただただ朱色で何の変哲もない漆器。
朱色に染まった漆器。

だたそれだけなのに。たったそれだけなのに。
どことなく愛おしく、懐かしい、そんな感じがした。


それからほどなくして、その漆器は、
夜の食卓に当たり前かのように顔を出すようになった。
主には、味噌汁の器として。
ときには、酒のつまみを入れて。

でも、どことなく、しっくりこない。
朱色の世界に何を付け加えれば良いのだろうか…
ふと浮かんだのは、なぜだか、なぜだろうか、緑色だった。

「緑だったら映えるんじゃない?きっとそう!」

そんな風に、自問自答しながら。
じゃぁ、緑色の食材。つまり葉物野菜で。
この漆器に盛れるくらいの分量で、スーパーで買えて、簡単に作れるもの。

そう考えたとき、一番に思い浮かんだのが
昔おばあちゃんにつくってもらった「小松菜の煮びたし」。
いざ、思い出すと、おばあちゃんの匂いがよみがえってくるようだった。

そんな感傷に浸りながら、スーパーで小松菜とお揚げさんを買って。
家に帰って、松菜とお揚げさんを鍋で煮て。

そして、あの漆器にゆっくりと盛り付ける。
ゆっくりと、ゆっくりと。


そんな暮らしのワンシーン。

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西野まな
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