先生との再会
この家に引っ越してきてすぐに、家族でご近所さんへの挨拶まわりに行きました。
斜め前の家で、ピンポーンと押したら、出てきたのは高校三年生のときの担任の先生でした。先生はもう退職されていて、いろんな高校をまわりましたから、私がどこの高校だったか憶えてなかったけれど、家の住所を憶えているという、驚きの記憶力です。何でしょう。先生方って、とんでもない記憶力をお持ちです。
先生とはそれからよく挨拶しては、雑談し、うれしいものでした。私は高校嫌いだったので、進路相談も母は怒って帰ってきたりで、どうしようもなかったですけど、何人もみている先生はみんなにいろいろ言ってるでしょうから、何も憶えてないです。それが普通でしょう。
先生と私は、庭仕事のことでお互いの家を行ったり来たりして、この花がこの木がと話し、先生のお宅の坪庭を見せていただいたり、鉢植えをいただいたりしました。
あるとき、先生が、
おまえ、本は読むか?
と聞かれ、
読みます。
何を読む?
最近、向田邦子を読みたいと思ってて買おうかと思ったとこです。
おれ、あるから今度見とく。
先生は国語の先生です。
数日してから、先生はたっぷりと向田邦子さんをもってこられて、えーと思ったのですが、受け取り、
私は、
須賀敦子「ヴェネツィアの宿」
長田弘「空と樹と」
をお渡ししました。
向田邦子「男どき女どき」「父の詫び状」
があったと思いますが、うちの父も好きで写真集があったので、その印象と文章が違和感あって、何かひっかかりがあり、どうしても読み進めるのがむずかしく、困っていました。私は写真集を観てる方がよかったです。
先生は須賀敦子にいたく感動したらしく、
おまえすごいの読んでるな、おまえのセンスには感服した。
と先生らしい言葉を発してました。
私のセンスではないです、須賀敦子が素晴らしいからです。と、思ってました。
私は案外、本を借りると読めないこと多く、このとき、よくわかりました。薦められて、自分で買うのはいいのです。
私が向田邦子をちゃんと読まなかったことは、先生はわかっていたでしょう。
それ以来、庭のことだけになりました。
先生お気に入りのニュージーランドの木に花が咲くと、
ちょっと来い。
と言われ、
花びらは食べれる。
そう、渡してくれるのでした。
毎年よく咲いています。
それでは、またお会いできますように。
ありがとうございました。