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【識者の眼】「小児科・児童精神科から精神科へのトランジション」本田秀夫

本田秀夫 (信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授)
Web医事新報登録日: 2021-12-01

子どものこころの問題は、「神経発達症」「虐待やいじめなど心理的ストレスあるいはトラウマ体験に由来する情緒・行動の問題」「通常は成人期に発症することの多い精神障害の早期発症」の3つに大別される。いずれも短期間の治療で治癒や寛解に至ることは少なく、成人後も精神科診療の対象となることが多い。したがって、小児科・児童精神科から成人期の診療を担う精神科へのトランジションが課題となる。

一般に小児科医は、神経発達症は中学生まで、情緒・行動の問題は小学生までは何とか対応するが、それ以降はできれば精神科医に引き継ぎたい。精神障害はどの年齢帯であっても精神科医に委ねたい。児童精神科医は、子どもから大人まですべての年齢帯、すべてのタイプに対応可能だが、医師数も少ないため、できれば高校生年代以上は精神科医に引き継ぎたい。一方、精神科医の多くは、問題のタイプを問わず高校生以上なら診療可能というスタンスである。したがって、引き継ぎの年齢は高校生年代頃と想定される。しかし、この時期は認知発達と情緒の両面において不安定になりやすい時期であるため、引き継ぎが難しいことが少なくない。結果として、成人後も引き継げずにいるケースを多く抱えている小児科医・児童精神科医は多い。

診療スタイルが小児科医・児童精神科医と精神科医との間で異なるという課題もある。前者では本人および保護者の両者に対する精神療法的関わりが中心となるが、後者では薬物療法が中心で面接は本人中心となることが多い。このため、紹介受診後に保護者から「ゆっくり話を聞いてもらえない」との不満が出てくることや、引き継いだ精神科医から「本人が自分で相談しようという姿勢が形成されていない」との感想を聞くことが珍しくない。

診療スタイルの違いなどを克服して円滑なトランジションを可能とするためには、小児科医・児童精神科医と精神科医との日常的なコミュニケーションが必要である。近年では、成人期に初めて医療機関を受診する神経発達症のケースの診療を行える精神科クリニックが増えているので、神経発達症の診療に関する定期的な研究会や連絡会を地域の小児科医・児童精神科医と精神科医とで行いながら、互いの診療スタイルを知り、円滑なトランジションに向けたパスをつくっていくことが求められる。

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