至高の料理で人気のリュウジさんに聞く!料理家で食っていくための方法とは? 「私はこうして料理家になった」イベントレポート
多くの料理家が活躍するWebメディア「アイスム」のご協力のもと行われるイベント、「こうして私は料理家になった」シリーズ。第2弾はリュウジさんがゲストです。
主なSNSの総フォロワー数が795万人超(2022年7月20日現在)の人気料理研究家が、聞き手のスープ作家・有賀薫さんとハイボール片手にぶっちゃけトーク! SNSでバズるヒケツと、「どうしたら料理で稼げるか?」について語ります。
本日のゲスト
リュウジさん
料理研究家
話を聞いたひと
有賀薫さん
スープ作家
リュウジが教える、バズを呼ぶ4つの法則
有賀 バズのつくり方について、リュウジさんは4つのポイントをあげてくれました。でも同時に、「料理家みんながみんなバズる必要はない」ということもおっしゃったのがとても興味深くて。
リュウジ 大切なのは、料理家として自分が何をやりたいかなんですよ。
趣味で料理をつくって、それを仲間から「すごくおいしいね」って言ってもらうことに幸せを感じる方もいらっしゃって。そういう方もぼくは料理家だと思ってるんです。
だから、ぼくがこれから言うことは 「料理でマジでカネを稼ぎたい! 」ってヤツだけ聞いてください。
有賀 リュウジさんによるバズをつくる4つのポイントはこちらです。
バズとは空気を読むこと
有賀 まず、①の「ストーリーを添える」と、②の「言葉選び」について。 これは、レシピや料理が ” 簡単でおいしい ” は大前提、そこにストーリーを添えるっていう話なんですよね。
たとえばリュウジさんのこのTwitter。
有賀 居酒屋というワードを入れるだけでストーリーを想像させますし、「どんだけおいしいんだろう? 」って興味をひかれます。
Twitterは勢いを出すために、このツイートのような強い言葉をつかったりしますよね。
リュウジ 文章のはじめに強いキャッチコピーをつけたレシピですね。2年前とか、3年前からぼくがやってて、当時のトレンドになりました。
でもこれ、いまやってもバズんないんですよ。ぼくはそれが肌感でわかってるんで。最近はTwitterであんまりこういうレシピをやらなくなりましたね。
バズってどういうことかっていうとね、TwitterとかSNS内の空気を読むことなんですよ。なんで、ぼくが3年前にやってたことをいまやっても意味ないです。
いま何がバズってるのかをリサーチして、なんでこれがバズってるのかをちゃんと解析することが1番大事なんですね。解析するにはどうすればいいかっていうと、Twitterにかじりつくことです。
もしTwitterでバズりたかったら、四六時中Twitterを見てください。見ていると、どういうのがバズってるか傾向がわかってくるんですよ。
ぼくはいまもTwitterにかじりついてるんで、どういう発言をすれば何万いいねをもらえるかがわかるんです。
たとえば最近バズったのは、トップバリュのそうめんをつかったレシピ。
もともと、「トップバリュのそうめんがおいしくない」っていうあるひとのツイートがすごくバズっていたんですよ。
でも、食べてみたら全然まずくないし。”香りの強いタレをつくって冷麺風に食べるとうまい ”っていうレシピを公開したんですよね。そしたらバズりました。
これって、場を読んでますよね。
有賀 バズにバズを乗せたんですね。
リュウジ 完全に、乗っかり商法です(笑)。
ただ強い言葉って、同じフレーズをどんどんつかっていくと、やっぱり飽きられちゃうんですよ。
Twitterでは、材料も3つまでじゃないとダメなんですよね。Twitterにはちゃんとしたレシピも出すんですけど、ご飯にバターとかつお節をのせてめんつゆをかけただけのやつの方がバズるんですよね。それがジレンマでもありました。
いま1番バズってるのはぼくじゃなくて、全農広報部(全国農業協同組合連合会。以下、全農)さんですね。全農さんは野菜の食べ方を紹介してて。「これを焼いて」みたいな、シンプルな食べ方です。塩◯グラム、醤油◯◯CCとかは書いてないんですよ。
バズるものが、レシピっていう作品から知識的なものに変化していってるんですよね。
有賀 野菜の扱い方とか、切り方でガラッと変わるとか、ちょっとしたコツがバズってるような気はしますね。
リュウジ ぼくはこと細かに説明したいので、そういうやり方は自分に合ってないなって。ぼくのやりたいことはいまYouTubeになってきてますね。
もちろん、Twitterレシピもやるんですけど、割合的にはかなりYouTubeの方が多くなってきました。
料理がキライなひとにも届けたい
有賀 ③の「マスに届ける」についても教えていただけますか。
リュウジ 料理を広めるのがぼくの役目であり、やりたいことなんですよね。広めるってどういうことなのかって言ったら、バズんなきゃダメなんすよ。
ようは、マスに届けるっていうこと。マスっていうのは、料理が好きなひともそうだし、好きじゃないひとにも届けられないといけないんです。
料理がキライだったり興味がないひと、もしくはキライだけど料理しなきゃいけないみなさんに、料理のすばらしさを伝えなきゃいけない。
そのためには、まず最初にマグチを広げないと。料理研究家の語りなんてみんな興味ないんで。でも、酔っ払いのグダグダはちょっと見たいんですよね。
で、酔っ払いがグダグダ言っているのを見てたら「あれ? これ実はいいこと言ってんじゃね? 」って思ってもらえて。そしたらもう、こっちの勝ちなんですよ。
ぼくをきっかけに「料理ってすごくたのしいな」ってなって。ほかの料理家さんに興味をもったり、いろんな料理の世界に飛び込んでくれたら本当にいいなと。
専門的なレシピを知ったうえで、「リュウジの料理ってラクだったな〜」と、また戻ってきてくれたらいいですし。そうやって、行ったり来たりしながらぐるぐる回っていくもんだと思うんですよね。
生活を理解しないと料理家として終わる
有賀 ④の「生活を変えない」について。いまも年収300万円時代とあまり暮らしを変えていないというのは本当ですか。
リュウジ いや、ちょっと言い過ぎました(笑)。年収600万円ぐらい(の生活レベル)にはなってます。(一同笑)
有賀 でも、稼いでる額からするとちょっと少なめな気がしますよね。
リュウジ 生活を変える変えないは別として。自分の身を置く場を、生活感のあるところにしないとダメなんですよね。
料理は生活と密着してるじゃないですか。料理をつくるひとたちも、生活の中でぼくの料理をつくっていただいてるわけなんです。
だからぼくが、世の中のみなさんがどういうふうに生活して料理をつくってるのかを理解できなかったら、ぼくは料理家として絶対終わるんです。
トップYouTuberはかなりぜいたくするみたいなんですけど、ぼくが「毎日銀座で寿司食ってます」みたいになったら、もう終わりじゃないすか。
いま野菜は何が高いのかな、安いのは何かなっていうのを自分で身をもって体験しないと、いいレシピができないんですよ。みんなが求めてることができなくなりますから。
だから、自分でスーパーに行ってリサーチしないといけないんです。いくらお金を稼いだとしても、そこを踏みちがえたらぼくはもう終わります。
有賀 家庭料理を発信する者としては、生活者の目線を忘れちゃいけないっていうことですね。
リュウジ バズと同じで、みんなが求めてるものを的確に出していくこと。それによってみんなの役に立つし、興味をひかれるんじゃないか。そういうところは、すごく考えてます。
それができなくなったらぼくは引退しますんで。ぼくが銀座で寿司食ってるのを見たら、言ってもらった方がいいと思います。
有賀 銀座でリュウジさんを目撃したら、みんなTwitterにあげてください(笑)。
リュウジ それは炎上案件なんで。炎上させちゃってください(笑)。
料理家は稼げない?
有賀 リュウジさんは、仕事1本いくらぐらいで受けてますか。
リュウジ YouTubeが1番ギャラが高いです。1番お金が低いのは、雑誌とテレビ。マジで低いです。YouTubeの100分の1。これぐらいでカンベンしてください(笑)。
有賀 YouTubeでの収入ですが、企業が自社の商品をつかってリュウジさんに料理をつくってもらって。それをリュウジさんのYouTubeチャンネルで流すことに対するギャラですよね。
ところで、リュウジさんはよく、料理家はお金にならないと言っていますね。
リュウジ ぼくって、一応料理家の中では稼いでる方だと思うんですよ。でも、 “ 料理研究家だから稼げてる ”わけじゃないんですよ。ぼくって、YouTuberだから稼げてるんですよ。これには腹が立ってしょうがないんですよね。
YouTuberって何がすごく重宝されてるかっていったら、告知力なんですね。だから、企業がYouTuberをつかう予算って、広告費なんです。
企業は広告費が1番あります。それに、広告費は割と自由につかってよくって。ザツにつかう企業さんが多いです。
有賀 ざっくりした感じですよね。
リュウジ そうですね。YouTubeは動画制作もしますから、ギャラが高くなるのは当然なところもあります。だけど仕事としては、テレビや雑誌の方がはるかに大変なんですよ。
なんでかって言うと、雑誌は「夏の〇〇レシピ」とかテーマがだいたい決まってて。それに合わせてめちゃくちゃ苦労して料理をつくったのに、編集者がダメ出ししてくるんです。
「そういうのじゃなくて、こういうの」みたいにふつうに言ってくる。「うちの雑誌は味の素をつかわないんで、味の素なしの料理を新しく考えろ」って言われたこともあります。
でも、「ぼくらの表現力を欲してるんじゃないですか? 」って言いたい。「ぼくらの、レシピっていう作品を載せたいんじゃないんですか? なのになんで、それに対して口出ししてくんの? 」って思いますね。
与えられたテーマからあまりにも逸脱しているなら言っていいと思うんです。でも「ちょっとこれはバエないから」とか、そういうフワッとした理由でやり直しさせないでほしいって思うんです。あれ、大変なんです。すごく。
企業さんにもいつも言っています。「いくらお金もらっても、ぼくの料理を否定されたら絶対やらない」って。
「ぼくはこの料理でいく。だって、あなた方の商品が売れないから、ぼくが代わりに売ってるんで。あなた方はぼくの作品(レシピ)で商品を売っていこうって思ってるんですよね? だったらぼくが提案した料理は絶対やってください」と。
「これだけはやらないでほしいっていうのがあったら前もって言ってください。やり直しはしないです。やり直しするんだったら、2倍払ってください」って言ってます。
有賀 料理家になった最初のころから、そういうことはしっかり伝えていましたか。
リュウジ 駆け出しのころは、言ってなかったですね。タダで仕事したこともあります。
担当者は「タダでうちのサイトにコラム出せますよ」とか、「経験になるから」って言うんですよ。
でも、本当に意味がなかったです。本当にそういうヤツらは無視していいですから。そういうところに限って、マジで大した売り上げもない企業なんで。もうやんなくていいです、本当に。ちゃんとしたところはいくらか払います、ちゃんと。
ただで仕事をやらせるところは絶対ちゃんとしてないんで、全部切っていいです。本当に。逆にやんないでほしい。やんなければ、その企業は料理家をつかうためにお金を捻出するんです。
料理家さんは安いお金でやっちゃいけない。だってレシピ開発で苦労してるんですもん。(有賀さん拍手)
安いお金でやっちゃうと、料理家の市場価値がだんだん下がってくんですよね。安い仕事は受けないで、みんなで一緒に料理研究家の技術の価値を高めていきましょう。
有賀 最後に、料理家が稼いでいくとしたらこれからどんなスタイルがあると思いますか。
リュウジ ぼくは何百万人に1円ずつ払ってもらうやり方なんですね。でも何十人、何百人で稼ぐなら料理教室とかになるのかな。
有賀 noteの有料記事やマガジンでレシピを販売している方もいますね。
リュウジ ぼくはマスが相手ですけど、同好会みたいな、料理好きしかフォローしない中でそういうことをやるのはすごくいいと思ってます。
そういうことをされている料理家さんは、1レシピ、1レシピを多分大切にされてるんじゃないかなって思うんですよね。「これはぼくの技術なんですよ」って言って売ってるわけなんで、それって素晴らしいと思ってます。
いろんなやり方があるので、ぼくだけが成功じゃないっていうのは、もう強く言いたいですよね。
ぼくみたいなやり方の場合も、バズるだけではダメです。10%料理家の部分がないと、ただのバズをねらったひとになっちゃって、中身が全然なくなってしまうんで。
料理研究家として続けていくには、 “どういう料理をして、どういうふうに伝えたいか ” っていう思想が必要だとぼくは思っています。
有賀 本日は貴重なお話をありがとうございました!
ゲスト紹介
リュウジ
料理研究家
聞き手
有賀薫
スープ作家
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text by いとうめぐみ