顧客体験を変える〜オンラインとオフラインの融合〜ハーバードビジネスレビュー
HBR勉強会では、ビジネス誌”ハーバードビジネスレビュー”の特集を取り上げて、毎月勉強会を開催しています。2022年7月号は 「顧客体験を変える」というテーマでした。特集の中の「日本企業のビジネスモデルを顧客起点に転換する方法」という論文を取り上げて、レポートしていきます。
コロナ禍を経て、世界でも日本でも、消費者心理が変わってきています。格差の広がりや先行き不安から、今までのように名の知れたブランドにこだわらずに、コスパを重視する人が多くなり、オンラインでの買い物も一般的になりました。
そんな中、世界の小売企業が勝ち組と負け組に分かれてきているようです。具体的には、世界でAmazonをはじめとする25社が大きく業績を拡大し、その他の多くの企業は業績は横ばいか、縮小しているのだそうです。
勝ち組と負け組を分けるポイントは何か?論文によると、違いを分けるのは「OMO戦略」が取れているかどうかです。
OMO戦略とは??
OMO戦略とは「online merges with offline」の略で、日本語では「オンラインとオフラインの融合」と訳されます。インターネットが発達した現在は、消費者はオンラインとオフラインを日常的に行き来しながら買い物をします。企業としては、もはや2つの領域を分けて考えることはできません。オンラインとオフラインをセットで考えて顧客体験をデザインしましょう、ということです。
事例を見ていると、単純に「実店舗に加えて、自社のECサイトも立ち上げてオンラインでも売りましょう」だけではない、もう少し複雑なものを指しているようです。
例えば、今回の論文をはじめ、よく例に上がるのはユニクロです。
ユニクロは、オンラインで注文したものを近くの店舗で受け取れるサービスを始めました。(そうすると送料がタダなのです)また、 専用のアプリを使えば、お客さんが店舗の商品のバーコードを自分のスマホでスキャンすることで在庫の確認ができたり、購入者の レビューを見つつ、お店で試着しながら買い物ができたりします。オンラインとオフラインを組み合わせて顧客体験をデザインした成功事例としてよく取り上げられています。
お客さんはオンラインとオフラインの間を何度も(といっても何か面倒なものではなく、ごく当たり前に)行き来して、便利になったり満足度が上がり、結果として多くの収益が上がるイメージです。
我々は毎日、勝手にOMOをやっている
現代の我々にとって、オンラインとオフラインを行ったり来たりしながら買い物することはごく当たり前のことです。
例えば、ウェブサイトやブログで行きたい街の情報を調べてから、旅行に行いきます。食べログで雰囲気の良いレストランを調べてから、デートに行きます。
中にはお店側にとってはありがたくないパターンもあるでしょう。
本屋で立ち読みして面白そうと思った本を、持って帰ると重いからとか、少しでも安く買いたいから、といった理由でAmazonやメルカリで買う人もいるかもしれません。
お金はAmazonにだけ落ちて行くので、本屋さんの立場としては、うちはAmazonのショールームじゃないんだよ!という感じですよね。
ただ、お客さんがオンラインとオフラインを移動しながら買い物することは今の時代、ごく当たり前の行動で止めることはできません。お金が自分たちの所に落ちるように、ちゃんと両側を見据えて顧客体験をデザインし、導線をコントロールする必要がありそうです。
日本版OMO戦略のハードル
論文は、日本の強みを生かした日本版のOMO戦略を確立することが重要だ、と続きます。
この論文によると、日本の強みとは「現場の人材」です。
現場力を生かして、 お客さんの声を反映した独自の製品開発や、お客さんを巻き込んだコミュニティー運営を軸に、日本版OMOを確立していくことを推奨しています。
今回の特集のテーマは「顧客体験を変える」なので、当然論文も顧客体験の話に帰結します。ただし、 論文には触れられていませんが、日本版OMOを考えるにあたって個人的には大きなハードルだと考えることがあります。
それは、日本の一般的な企業にはIT人材と言われる人たちが圧倒的に不足していることです。
社内にシステム部門を持っている会社ももちろんありますが、その多くはサーバーの管理や、社員のヘルプデスク業務など、インフラ整備をするコーポレート部門として「守りのIT」とでも言うべき業務を担当しています。
日本の企業の場合、何か新しいITシステムを作る時には、外部のSIerなどに業務を委託することが一般的です。
ところが、「自社のお客さんの顧客体験をオンラインとオフラインの両方にまたがって包括的に考える」なんて話はまさに自社のビジネスのど真ん中になるわけで、当然ながら外部の会社に丸投げというわけにはいきません。
自社ですべてのコーディングまではしないとしても、何を作るかを考えて戦略を立て、要件定義をするITに明るい人が社内にいないことはものすごく不利なことです。
OMO先進国であるアメリカでは、IT会社ではなくてもエンジニア部隊を自社で抱え、ITを使って自社のビジネスをどう展開していくかを日々考え、内製でシステムを開発しています。
日本のIT人材の不足はずっと言われてきました。さらに少ないエンジニアも、ほとんどがSIerのような受注をして開発をする会社に所属しており、自社ビジネスの戦略を考える立場にはほとんどいません。
顧客体験を考えることはもちろん重要です。しかし、そもそもITの知識を持って、オンラインの顧客体験を考えられる人がいない日本の構造が、日本企業にとって大きなハンデになっているように私には思えるのです。
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