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水内に秋がやってきた

二〇二四年一〇月二十一日

 
田舎の秋は忙しい
 
普段は静かな集落に人が集まり、一斉に始まる稲刈。
そして稲刈りが一段落したら、
今度は水内川沿いにたくさんある神社に、
白いのぼり旗が立ち始める。
 
秋祭りがいよいよ始まるのだ。
 
私が住んでいる集落では、神楽とお神輿を一年ずつ交互でやるらしく、
今年は神楽の年。
コロナ禍でずっとできなかったため、五年ぶりの秋祭りだそうだ。
 
秋祭りの一週間前に、町内のおじさんたちが集まって近所の神社に旗を立てる。
久々の旗立てなので、「どうじゃったかいのぅ、こうじゃったかいのぅ」と、
手こずるおじさん達。
あーじゃーこーじゃー言いながらも旗を立て、
秋祭りの準備が整った。
旗の先についている植物は集落によって違うそうで、
お隣の集落は椿で、うちの集落は竹らしい。
へぇ!知らんかった!
 
昔から、何年も何年も、毎年村の行事を行うことで、
その土地の記憶や伝統を受け継いでいくんだなぁ。
私たちもしっかり覚えておかないといけないなぁと、
身が引き締まる。
 
 
広島の秋祭りと言えば、神楽。
私も小さい時から近所の神社である秋祭りに毎年神楽を見に行っていた。
 
暗くなってから、わくわくしながら家をでる。
笛と太鼓の音色がだんだんと近づいてきて、
白い紙垂(しで)が塀に沿って浮かぶ道を足早に歩く。
階段を登った先では神楽の舞台があり、
その光の中で煌びやか舞う、神様、侍、妖怪、そして八岐大蛇。
 
そんな神楽が、私は昔から大好きで、
坊が生まれてからも、坊を連れて地元の神楽や水内の神楽を見にきていた。
 
水内に引っ越してきてから、坊にも神楽をやってほしいなぁと思っていたら、
なんと自分から興味を持ちはじめ、神楽団に入りたいと言うではないか!
ということで、この夏から水内こども神楽団に入り、まずは鉦(かね)から神楽の練習を始めた坊。
(私も神楽笛を買って、音を出すところから練習中である。笑)
 そして、今年の水内の秋祭りで遂に鉦デビューすることに。

日が暮れて、水内神楽団のホームである和田八幡へ向かう。
 
鳥居をくぐると参道が山へと続く。
暗い階段を登って行った先にあるお宮に神楽舞台が煌々と光っている。
水内川のように青い幕に浮かぶ「水内神楽団」の白い文字。
 
五年前に見にきた水内神楽団に、
今年こうして自分の子が入っているなんて。なんとも感慨深い。
 
四方祓いが終わり、次はいよいよ水内こども神楽団による「葛城山」。
すでに着崩れた白衣とぶかぶかの水色の袴の子どもたちが座っている。
緊張した顔に大きな烏帽子がずれ落ちてきそうだ。
 
途中集中力が切れて、福助の置物みたいになっていたこともあったけど、
なんとか最後まで鉦ができた坊。
総勢十名の水内っ子による神楽は本当に素晴らしかった。
 
子どもの頃から、
こうして神様にお礼の気持ちを伝える神楽が体験ができるなんて、
なんとも羨ましい。
 
大人の神楽も見たかったけれど、自分が住む町内会の秋祭りに戻らねばならないので、急いで車を走らせる。(といっても、車で五分程度の距離。)
 
こちらでは「上河内神楽団」による神楽奉納。
神楽の舞台の前は大勢のお客さんたちで埋まっていて、大盛り上がり。
敷物をひいて、椅子をならべて、一升瓶もちらほら見える。
 
外では、焼き鳥、ビール、日本酒、焼酎の屋台。
射的の屋台では我が夫と、近所の仲良しの友達が法被を着て大活躍。
 
射的に大はしゃぎする子どもたちさながら、
大人たちも神楽を大いに楽しんでおり、歓声が聞こえてくる。
 
「神降し」から始まり、
「葛城山」「悪狐伝」「恵比寿舞」「紅葉狩」
そして、最後は勿論、「八岐大蛇」
 
老若男女、特に、おじいちゃんたちがそれはまぁ楽しそうで、
こんなに大盛り上がりしている神楽を初めて見た。
 
そして、さらにびっくりしたのが、
演目をみてもわかるように、田舎の神楽の長いこと!
 
八岐大蛇の舞が最高潮を迎えるころには、もう深夜過ぎ。
 
昔はそれが当たり前で、深夜二時くらいまで神楽を舞っていたらしい。
もっと昔は、夜通しだったとか。
 
神楽は元来、秋の収穫を氏神様へ報告して、
秋の恵みを神様に感謝するための神事だ。
 
舞手と楽人の精神がどんどん研ぎ澄まされていき、
人と、「人間以上」のものの境界を超えていく。
 
それに呼応するように観客たちも共鳴していき、
その場に、神様たちが降りてくる。
 
神楽は、
人々が人間であることの境界を超えて、
「人間以上」の世界と繋がるための儀式なんだ。
 

その日は、夜九時くらいまで、秋とは思えないような暖かさだったのに、
いきなり強い風が吹き始め、空気が、突然、冷たくなる。
 
あ。秋が来た。
 
神楽の奉納を受け取った神様たちが水内へ降りてきて、
「皆さん、お待たせしましたねぇ」と、秋を連れてきてくれたのだ。
 
近所のおじさんたちがお酒に酔ってそれは楽しそうに笑っている。
お隣の米作りの巨匠の正さんが、
「今年は米がようなった。来年はあんたも米をつくるか!」と嬉しそう。
 
「人間以上」の世界では、土、植物、虫、鳥、動物、太陽、雨、風みんなが
お互いに恵みを与え合い、お互いに頼りながら生きている。
そんな世界から頂いた恵みに対して、
「人間以上」の世界に、私人間がお返しできることは、
「感謝する」こと。
 
神楽という儀式を通して、
この水内の土地からいただいた実りへの感謝の気持ちを
その土地へ捧げ続けていくことで、
水内の人々は、この土地との繋がりを作ってきた。

そうやってここに暮らしてきた人たちと一緒に
ここに暮らしていきながら
私たち家族も
この水内の土地で紡がれれてきた物語を聞き、
新たな物語を紡いでいくの糸の一本になっていくのだ。
 
 
秋の恵みに、
水内の人々に、
そして
水内の神様に
感謝。

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